プロローグ3
足取りも軽く、これまでにないくらい上機嫌で我が家に戻ってきた。
このテンションなら、我が家に帰って来る間に一回は空を飛べたかもしれない。
いや、飛べた。あいきゃんふらい。ゆーきゃんふらいとぅー。
誰に呼びかけてるんだって?そんなこといいんだふんふふーん。
ハタから見たら精神科を勧められそうなほどのテンションだった。我ながら恥ずかしい。
中二病どころの騒ぎじゃないじゃないか。
少し自分を取り戻し、自分の部屋のドアを開ける。
玄関からここまでの間に母の冷たい視線を感じたが、気にしないことにした。
ごめん、母さん。君の子供は少しおかしいよ。
他人事のように済ませながら、鞄を投げ捨てベッドにダイブする。
もう読みたくて読みたくてたまらないのだ。
半ば破り捨てるように、紙袋を開く。
そこには、聖書があった。
いや、買ったんだからあるのは当たり前である。
しかし、余りの興奮に、ネガティブな妄想を繰り広げてしまったのだ。よくある事だ。
事実、あのサイコキラーの店長なら消してしまうと本気で思っていた。
…本格的に精神科に寄って来た方が良さそうか。
いや、あのおっさんは消す。
絶対消す。
まぁこの本を消されたら僕がおっさんを消す。
……今度自主的にスクールカウンセリング受けようか。
とまあ、現実に引き戻されたりまた不安にかられたりを繰り返していたのだ。
話を戻す。聖書の件だ。
さて、絵本である。絵本と書いてサンクチュアリと読む。
この聖域に下界の平民が不用意に手を伸ばしてもよかろうか。
いや、いけない。不用意はいけない。
何故かこの聖域は2500円とやけに高かったが、その献上金があっても、簡単に触ってはいけない。
そんなオーラが漂っている。
今となってはそれが正しかったのだが。
最終的に十字を切ってからその大地に踏み入らせて頂くことにした。
ページを開く。
そこで僕は、本屋であった一件のように、身体から力が抜けていった。
ない。
ない。
絵がない。
絵本なのに絵がない。
聖域なのに悪魔の住処となっている。
これまたパニックに陥った。
詳しい内容は割愛させていただくが、脳内ではサイコキラーのおっさんが何度目かの登場をしていた。
誤解の無いように言っておくが、至って優しい本屋の店長の森さんである。
好きなものは関西のたこせんというお菓子らしい。
なお静岡出身である。何故だろう。
この本屋はご贔屓にさせてもらっているので、店長のことは何と無く知っているのだ。
ごめん、森さん。今度たこせん食べさしてね。
気持ちを落ち着かせつつ、ページをめくっていく。
だが、待てど暮らせど絵が出てこない。文章すら出てこない。
一体どういうことなんだろう、と思っていたら、いよいよ最後のページに辿り着いてしまった。
気づいたときには、僕は、聖域でもなんでもない、絵が織りなす世界に立っていた。
「えほんのせかい」
1ページ目
むかしむかしあるところに、男の子がやってきました。
「そういえば僕の名前は?」
あ、うん…はい。えぇ。
ごめんなさい。