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六話

 やってきました。北海道。着いた傍から来たことを後悔している。


 あの後、母に連絡を入れて友人と週末に北海道旅行へ行きたいと言った。母は喜んで家に泊まりに来ていいと言ってくれた。でも、私だけじゃなく友人もいるので、ホテルに泊まると言うと、娘が来ているのにホテルに泊まらせるわけにはいかないと、言われてしまった。

 結果……。なぜか、母の実家に泊まることになった。母の住まいは子供三人を泊められるだけのスペースがないらしい。でも外孫で幼稚園以来会っていない親戚の家に友人引き連れて行くって、結構図々しいのではないだろうか。断ろうとしたけれど、母から祖父母には許可を取ったから遠慮せずぜひ泊りに来て、と強く言われて断れなかった。

 母の実家は幼稚園児の記憶でも大きかった。部屋がいくつもありお屋敷だった。それに、仕事の関係で地方から来た人を泊めるための、客室も4つあり、私たち三人が泊まりに行っても、大丈夫だと言われたのだ。


 そして、空港まで迎えに来てくれたのは、母だけではなく、伯父と柘榴風太先輩がいた。運転できない母の代わりに伯父に運転を頼んだようだ。久しぶりの母の再会を喜んで笑顔で挨拶を交わした。後ろで、女子のごとく先輩を見つけてはしゃいでいる金剛と、テンションが上がっている瑠璃沢を無視する。

 八人乗りの車に乗ると、伯父が運転席、母と私でその後ろ。そして、助手席に座ろうとした先輩を、金剛が確保し、瑠璃沢が間をはさみ逃げられない様にして一番後ろの席に引きずって行った。

 先輩は、札幌の話をいろいろ聞きたいので一緒に座ってください! と迫った金剛の迫力に押され気味だった。それでも、苦笑したのは一瞬で快く笑って二人の相手をしてくれることに同意していた。ゲームのキャラと同様面倒見のいい兄貴分というような雰囲気が出ている。


 強引な二人を一睨みして大人しくさせようとしたが、二人は一瞬、怯むだけで、先輩と話すことを優先させた。車で母との久しぶりの会話をしていると、後ろでキャッキャとはしゃいだ声が耳に響く。伯父からは元気のいい友人だと笑われた。



 旅行の事前に、金剛が憧れの先輩との出会いのシーンを体感できないけれど、それでも付いてくる気なの確認した。すると金剛は、先輩の実家に行けるなら、それだけで、あのイベント以上のものを得られると頬を赤らめ歓喜をしていた。

 もう、乙女な金剛は、こういう生物だと受け入れる事にしよう。


 現在、大通り公園を歩いている。六月上旬の、涼しい天気の中、母と伯父と私は三人で話しながら和やかに歩く。

 残りの三人は、先輩を間に挟んで楽しそうに歩く。

 だが、会って間もない先輩の腕に瑠璃沢がまとわりついて、腕をちゃっかり組んでいる。横からは犬のように先輩の顔が向くたび嬉しそうに飛び跳ねて笑っている金剛。これでいいのか?

 学校での王子さまぶりを演じなくていいのか。高校であった時の違いを見たら、先輩は驚くじゃないのだろうか。人にゲームと同じじゃないと何が起きるかわからなくなると、散々言っておきながら、自分は良いのか。


 後ろがあまりにうるさいので振り返ると、助けを求めるような先輩と目が合った。困っている顔をしている。それはそうだろ。初めて会った従妹の友人を無下にできないと顔に書いてある。しょうがない。従兄をたすけてやるか。


「お母さん、友達と、ちょっとこれからの予定の話しをしてくるね」

「行きたいところがあったら遠慮なく言うのよ」

「うん、ありがとう」

 母と話す時なるべく、可愛い娘をやろうとしてしまう。毎年一回しか会っていないから微妙な距離もある。いい人だから好きなんだけど、前世の記憶なんてなければ、遠慮なく甘えることが出来たのかもしれないと思うと、ちょっとさびしい。


 先輩にへばりついている、瑠璃沢を引きはがし、笑顔で金剛の名前を呼ぶ。金剛は、一瞬怯えた顔をしてから、先輩を不安そうに見上げて、しょげたように私の元までやって来た。

 その様子に私の笑顔が引きつる。先輩が伯父と母のところに行って話を始めたことを見届けてから、二人に顔を向けて話し始める。

「随分、札幌を満喫しているようで、私も嬉しいわ。そんなに楽しそうな、金剛君を学校じゃ見られないものね」

 言外に学校と違いすぎているが、それでいいのかと言ってみた。金剛は言われた意味を理解したようで、またちょっと怯む。というか、なんで私こんなに金剛に怯えられているんだ。そこまで脅していないし、私は怖い顔していないでしょ。

「物知りな、せ、柘榴さんの話を聞くのが、面白くて夢中になってしまった」

「そこは嘘でも、札幌に来られたのが嬉しくてっていいなさいよ。下心が見え見えでドン引きよ。風太さんの周りをきゃんきゃん吠えている様子は、発情した犬のようだと気が付いているのかしら? 見ているこっちが恥ずかしい。自重して」

「……はい」

 しゅんとした金剛を見て、満足してから、次に瑠璃沢を見た。

「瑠璃沢、あなた初対面の人にべたべたしすぎ。尻軽だと思われたくなかったら弁えなさい」

「でも、先輩は腕組んでもいいって言ってくれたんだからいいじゃない」

 ちょっとむくれた顔の瑠璃沢を睨みつける。

「学校の男子は苦手なのに、自分の攻略対象ならべたべたできるってわけ?」

「で、でも、先輩がいいって言ってくれたんだから、いいじゃない」

「『札幌は寒いですね~。私、薄着を着てきちゃった』って言って風太さんの腕確保したのは誰?」

「実際、寒いもの、嘘は言っていないよ」

「わざと、すり寄るように、風太さんの腕を絡ませたでしょ。嫌われたくなければ、風太さんとは節度ある距離を取るように。守れないのなら、あなたのあだなをビッチにするわよ?」

「ひ、ひどい!」

「『あばずれ』よりはましでしょ」

「どっちも酷いよ!」

「瑠璃沢の行動から来ているあだ名よ。ぴったりだと思うけど? 違うと言うのなら、そう思われない行動をとって」

「うーーぅ。わかったわよ!」

 瑠璃沢はまだ不満そうにしていた。仕方がない。


「この腕なら貸すけど?」

 私が脇を広げて首を傾けると、瑠璃沢が驚いた顔をしてから嬉しそうに私の腕に纏わりついてきた。

「えへへ。あったかい」

「私も寒かったからちょうどいいわ」

 ぽんぽんと、なついてきた駄犬の頭を叩く。


「いいな……」

 手を組んだ私と瑠璃沢を見て、金剛がつぶやいた。

「無理」

 私の片腕を見て狙っているような目をしていたので、言われる前に断った。

「ふふふ」

 隣で瑠璃沢が怪しげな笑みをしながら、金剛を見ている。その様子に金剛は悔しそうに舌打ちをした。



「仲がいいな」

 前に居た柘榴先輩が、私たちを見て和やかに笑っていた。

「はい、私と鈴は大親友なんです!」

「はいはい」

 瑠璃沢が私を掴む腕に力を入れて抱きしめ仲良しアピールをした。私は軽く流して、柘榴先輩にこれからの予定の話をふる。

 この旅行に来る前に、いくつか行くところを決めていた。瑠璃沢と金剛が決めた、鈴ちゃんと柘榴先輩の幼少イベント発生ポイントだ。時間も、状況も違うので発生しないと思うが、いろいろ話し合った結果実験的意味も含めてそこに行こうと思う。

 世に言う、シナリオ修正力と言うのもが実在するか、確かめることにしたのだ。



「この時期に海? 小樽まで行けば海を見ることはできると思うけど、まだ寒いからおすすめしないよ?」

 初めに海に行きたいと言うと、柘榴先輩は困った顔をする。そりゃそうだろ。まだ六月上旬で札幌でも寒いのに、海風に当たればもっと寒い思いをすることになる。

「でも、札幌と言えば海の幸、お寿司を食べてみたいんです。海の近くで食べたほうが美味しいと思って」

「なるほど、確かに。小樽のおいしいお寿司屋を知っているから、おやじに行けるかどうか聞いてみるよ」

「いいんですか?」

 ちょっとわざとらしいぐらい嬉しそうな笑顔を向ける。

「いいよ。せっかく来てくれたんだから、おいしいものを食べて帰ってほしいしね。でも、これから行くなら、小樽に着くのが2時ごろになるから、ちょっと遅い昼食になるけど、それでも大丈夫?」

「はい」

 私たち三人が声をそろえて、笑顔で返答する。柘榴先輩は伯父と母に確認を取りに行った。


「ちょっと、大丈夫かな? 夕飯は、祖父母や親戚とするって母が言っていたんだけど」

 車で祖父母が会うのを楽しみにしていると言っていたのだ。

「大丈夫だよ。夕飯までに戻ればいいんだから」

「そうだよ。それより、ちゃんと月長は溺れるように心構えをしておけよ」

 そう、海でおぼれるところを助けられるという、無茶なイベントが待っているのだった。これなら先に、札幌で迷子とかまだ寒くない方を選びたかったが、なんでも、この溺れると言うイベントが大事らしい。

 海でおぼれている従妹を助けた経験が、本編の宝石学園高等部ッ!で瑠璃ちゃんが海で溺れたところを先輩が助けると言う、イベントに繋がるらしい。

 らしいと言うのはいくらクリアしたことのある『柘榴先輩』だとしても、イベントをいちいち覚えていないのだ。

 13年以上も昔にやったゲームの詳細を覚えている方が異常なのだ。そう、この二人が異常なだけで、私の記憶力がないわけじゃない。


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