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三話

 次の日、学校へ行きたくないと駄々をこねる瑠璃沢の家まで行き、引きずるようにして学校に登校した。


 宝石学園中等部の門をくぐると校舎にたどり着くまでの道には花壇が並んでおり3分は歩くことになる。車で通学している生徒は門の前で降りて歩く人が多い。駐車場もあるが門の前で降りたほうが近いのだ。校舎に入る前のたった3分の道で、周りを気にするように囁くように女子生徒から呼び止められた。


「あの小説、すごく良かったです」

「花見の話なんて切なくて、泣いてしまいました」

 興奮気味の女子生徒に私は軽く微笑む。

「有難う御座います。私が書いたものではありませんが、作者も喜んでいると思います」

「続編も楽しみにしています! あ、もちろん秘密は守ります!」

「私も!」

 では、と去っていく女子生徒に軽く会釈して歩き始める。私の腕をつかみ後ろに隠れている瑠璃沢が先ほどから私を怪訝そうな目で見ていた。どういう事? と聞きたそうな顔だが、さっきの生徒以外に次々現れて話しかけてくる女子生徒たちから身を隠すので精いっぱいの様で私に話しかけられないでいた。


 校舎に入ると、教室には向かわずに人気のない多目的室に瑠璃沢を入れて話をすることにした。周りに誰もいないことを確認して、瑠璃沢が私に詰め寄る。

「鈴、どういう事? あの小説、どこかに公開でもしたの!?」

「ええ、前にデーターで送ってくれたことがあったでしょ? それを、この学校に居る攻略対象のファンクラブページにアップしたの。もちろん瑠璃沢の使った瑠璃ちゃんの名前は変えて、夢小説バージョンにしてね」

 名前変換機能を使い、キャラクターの相手の名前を好きに変えられる小説をドリーム小説または夢小説という。私の前世ではちょっと流行ったこともあった、二次小説の形態だ。それをファンクラブにアップしたのだ。もちろん、上げたすぐはファンクラブで賛否両論があがり掲示板で話し合いがされたが、元々、イラストをあげている人もいたので、ファンクラブ内の秘め事として容認されたのだ。ただし、攻略対象の前で小説の話は絶対にしない事、迷惑をかけないことが絶対条件だ。

 ファンクラブの女子だって一度は、自分と攻略対象が付き合っていたらという妄想はしたことがあるのだろう。絶対に、攻略対象には秘密でちょっと夢を見たいと言う女子生徒たちは意外に居るのだ。

「ほら、これで金剛君が持っているノートは誰も気に留めない」

「気に留めるよ! 作者が私だってもろばれじゃん! 秘密になってないよ! あれを金剛君が、他の攻略キャラに見せたらどうするの!? 間違えなく、他の攻略キャラからゴキブリを見るような目で見られるでしょう! あぁぁ、鈴に言うんじゃなかった! もう、学校なんてやめる!」

「ほんと? この学校やめて違う学校行く?」

 私が小さくガッツボーズをして喜ぶと、瑠璃沢はキッと強く私を睨んだ。

「鈴、まさか。これを狙ってやったんじゃないでしょうね!」

「えー? そんなまさかー?」

「そのにやけ顔は何よ! 鈴の馬鹿―! 酷いー!」

 怒った瑠璃沢が、私の胸を何度もたたく。

「ほら、瑠璃沢だって、金剛君ともう関わりたくないって思ったんだから、この学校に未練はないでしょ?」

「まだ、他のキャラたちには失望してないから! 彼らを幸せにするのが使命なの!」

「変な使命感は捨ててしまいなよ。誰も、瑠璃沢に幸せにしてほしいなんて言っていないでしょ? それに、誰かを頼らなきゃ幸せになれない奴は、誰も幸せにしようなんて考えない自己中な奴よ」

「また、鈴ちゃんが猫目に言ったセリフだ……」

 もう何も言うまい。猫目と同じクラスになる前に転校するのが私の目的だ。普通の公立学校へ瑠璃沢を連れて転校するのだ。


「瑠璃沢! 月長!」

 私たちの事を呼びながら多目的室の扉が突然開いた。驚いて振り向くとそこには、金剛が少し息を切らせた様子で立っていた。ずかずかと私と瑠璃沢の前にやってきて、瑠璃沢の手を掴みそうになった。そこを瑠璃沢が私の後ろに回り込み、私を盾にして防いだ。宙に浮いた手を私が手を添えて静かにおろさせる。

「おはようございます。金剛君。急にどうしました?」

 金剛は瑠璃沢を睨んでいた眼を私に向けた。

「そうか、お前が、お前が犯人だな」

 降ろさせた手がまた上がり私を指さした。

「犯人とは、何か事件ですか?」

「ファンクラブページに、あの小説を載せただろ!?」

「ファンクラブページ?」

 ファンクラブ会員専用ページに金剛がアクセスしているとは知らなかった。本人には内緒でやっているものだと思っていたけれど、まぁ、自分の知らないところで、自分の事を面白おかしく書かれていたら気になるよね。あげた小説は別に15禁とか危ない系は入れなかったのだけど、自分と知らない女子生徒の小説を書かれていたら気味が悪いのと思うのは当然か。

「このノートと同じことを載せただろって言っているんだ!」

 金剛が緑の瑠璃ちゃんノートを取り出して振り回して怒鳴る。

「いいえ。それと同じことは載せていません」

 私は首を振る。

「同じような内容の事は載せただろ!?」

「はい」

「お前、正気か!? そんな事をして、この学園で干されたいのか!?」

「金剛君に不愉快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。あの小説はすぐさま掲載を取消削除させていただきます」

 私は謝罪して頭を下げた。生モノの二次は本人には見せてはいけない。基本中の基本だ。不愉快に思われたら掲載を下げて謝罪だ。

 金剛は舌打ちをして、私の後ろに隠れている瑠璃沢を睨みつけた。

「瑠璃沢、お前もなんでそんなことしたんだよ、俺が、せっかくかくしてやったのが無駄になったじゃないか!?」

「だ、だからって、下僕なんてなりたくないもの! それ、返してよ!」

 瑠璃沢が金剛を睨みつける。

「そうね。人のノートを盗んでおいて、下僕になるように要求するのはどうかと思いますよ」

「お前が、状況をややこしくしたんだろ!? この学校に居られなくなるぞ! いいのか!?」

 ぎろりと睨まれる。まぁその通り、このまま干されて転校したらいいと策略しているので黙っておく。

「ちょ、ちょっと、そんなに怒鳴らないでよ! 鈴は私のためにやってくれたのよ! 鈴を悪く言わないでくれる!? あなたが私のノート持って行ったのがすべて悪いんじゃない!?」

「はあ? このノートを学校で書いている奴に言われたくねぇーよ!」

「何よ! じゃあ、返してよ!」

 瑠璃沢が私の後ろから出てきて、金剛が持っているノートを奪おうと手を伸ばす。だが、金剛がノートを持ち上げて逃げる。

「これを返してほしければどうしなきゃいけないか教えただろ?」

「瑠璃沢、もう、いいでしょ。あんなノート固執する必要はないわよ。金剛君、そのノートお好きにしてかまいません。公開するなりどうぞお好きに。あぁ、もうファンクラブ内は知っている方も多いので、公開したからと何か変わると思いませんが」

 私は瑠璃沢の腕を引っ張り、それでは失礼します、と言って去ろうとした。隣では瑠璃沢が「公開したら変わるよ、最悪だよ! 学園生活が終わるよ!」と騒いでいるが気にしない。


「待てよ!」

 後ろから呼び止められるが、無視だ。

「待てって。待って、お願い! 話を聞いてよ!」

 扉に手をかけた手が止まる。今、おねぇ言葉を後ろから聞こえた気がしたのだ。

「お願い、違うの、本当は公開なんてするつもりはないの。このノートと同じものがもっと読みたかっただけなの。私も、金瑠大好きなの!」

 少年の声で金剛が言う。これ、もしかして、私と瑠璃沢が目を合わせて、頷き合う。

「あなた、誰? もしかして前世の記憶があるの?」


「やっぱり、二人ともあるのね。私、元の名前は覚えていないけど、女子だったのは覚えている。それにここが、宝学の世界だって事も、気が付いていたの」

「金剛も転生者……」

 瑠璃沢も驚いている。そうだろう。瑠璃沢は、攻略対象の行動範囲や生活すべてを調べ上げている。その中で、ゲームの小話などから外れている人が居ないことを確認していたのだ。金剛は、ゲームのシナリオ通りの生活態度で過ごしていた。だから、瑠璃沢は金剛が転生者だと思っていなかった。



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