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プロローグ

 その日は夕方から雨が降り続いていた。湿気でじめじめとするバス停で紺色の傘に当たる雨音を聞きながら、やって来たバスを見てやっと雨から解放され家に帰れると、少しほっとした。

 時間は八時を少し過ぎていた。



 傘を折り畳み、ICカードリーダーにカードを当てバスの中に乗る。

 座れるところを探すため、バスの席を見た。


 優先席に初老の男性が一人、女子高生が一人、二十代後半の女性が一人、二十代前半の女性が一人、二十代前半の男性が一人、四十代後半と思わる男性が一人。それぞれ一人座席の椅子に座っている。



 一番前の席が空いている事に気が付く。一番前の席は、よく前を見ることが出来て最近四歳になった娘の大好きな席だ。運転手になった気分がするらしく、いつも上機嫌でこの席に座る。

 今日は残業で遅くなったせいでもう寝ているだろうなと思いながら、席へ向かう。


 女子高生の席を通り過ぎる時、手に持っている携帯ゲームに目が留まった。昔は小説を読んでいる生徒はいたけれど、最近は携帯ゲームを普通にやっている人もいる。どんなゲームなんだろうと何気なく覗くと、男子生徒が画面に写っていて三つの選択肢が出ていた。

 どこかで見た事のあるキャラだと思いながら、深夜やっていたアニメを思い出す。乙女ゲームと呼ばれる女性向け、恋愛シミュレーションゲームだ。

嫁がこんな男子生徒にあこがれると騒いでいたな。


 次に眠っている四十代後半の男の横を通り過ぎ、若い女性の膝の上に乗っているケーキの箱に目が留まった。

 誰かの誕生日なのだろうか、あのケーキこの前誕生日だった娘と同じケーキ屋の箱だと思った。


 他の席を通り過ぎで、一番前の席に座る。


 暗闇の中をバスの大きなワイパーが豪快に雨を掻き分けながら走る。夜のこの時間、この道は車通りが少ない。前に走る車はなく、街頭が照らす中をバスは走っていた。川沿いの土手を走っていると、雨脚が激しさを増しワイパーの動きが早くなる。川を見るといつも穏やかな川の水かさが増しているようだった。

 一瞬何か光ったように見えた。近くで雷が落ちたらしい。光ったと思った二秒ぐらい間を置いて雷の音が鳴った。雷が当たるといやだなと思ったが、バスに乗っているから雷が落ちても平気だろう。

 あと十分ぐらいで家に着くと、嫁にメールを送った。すぐに、今日のご飯は煮込みハンバーグだよ。とメールが返って来た。

 

 娘はもう寝ている? と送るとすぐに、寝たよー。と返ってくる。話すことが出来ないのは寂しいが、我が子の寝顔を見ると癒される。

 あと十分で家に帰れるとちょっと、嬉しくなってきた。



 ぴかっと目の前が光った気がした。それと同時にすさまじい爆音があった。何が起きたのか分からなかったが、雷がバスに直撃したのだろうと、なんとなく思った。車内は光っただけで、特に異常は見られない。バスや車は、たとえ落雷が直撃しても平気なはずだ。だが、急にバスが揺れた。

 反射的に運転手を見ると、顔を真っ青にさせて、焦った様子でハンドルを切っていた。

「おい、そっちは!」

 反射的に声が出た。運転手がハンドルを切っているのは反対側車線だ。バスのライトに照らされた軽自動車が、焦ったようにハンドルを切ろうとしているのが見えた。

 がんっと激しい揺れと、べこっと何かがへこむ音がした。軽自動車がバスにつぶされている音だ。冗談だろと思いながら、前の手すりに摑まる。

 最悪な事はまだ続く。バスは止まることがなく軽自動車を押し進み、川の土手へと進みガードレールを突き破りバスは、軽自動車を潰して横倒しに倒れた。反対側に投げ出された、バスの乗客たちの悲鳴が聞こえる。ガラスが割れて、何かがそこから飛び出された悲鳴が聞こえ、ケーキの箱が車内を舞った。

さらに窓ガラスが割れた音と引きずる嫌な音と主に滑り落ちていくバス。


 車内がもう一度、光ったように見えた。


 そこで、俺の記憶は無くなった。




 路面バス雷直撃後、車と通行人を巻き込み事故 死傷者 10名。


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