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56.校外学習の前に その2

「よくできました。そこから、明かりを弱く弱くしていく。

維持するなら核があった方が楽だから、今銀貨ほどの核を、小麦の粉一粒に。

小さく小さくしていく。核が小さくなると光が弱くなっていく」


 俺の声に応えるように明かりは小さくなり、優しい光となる。

リリの集中力というか、コントロールは素晴らしい。

俺なんかが子供の頃に毎日毎日練習してうまくなったものが、こんな短時間でできるとは。この分だと意外に早く色々なことが教えられるかもしれない。


「リリ、光はそのまま維持で。何か異常があったらすぐにやめること。

今から、聞きたいことがいくつかあるから、質問するけど答えてくれるかな?」

「はい。答えられることであれば」


 さすがに目線は明かりの方を向いたままだが、ちゃんと返事が返ってきた。

少し緊張しているようだが、明かりにも変化はない。


「まずは、そうだな、この街は王都? 街の名前はあるのかな?」

「リュクレイ王国、王都ディアマトです。普段は王都と呼ばれています」

「今長袖を着ているけれど、ここはこれ以上寒くなったり、暑くなったりする?

これからは暑くなる季節? 寒くなる季節?」

「一番寒いときは先月の初めです。明けの月といい、新しい年の始まりです。

王都に雪は降りませんが、もう少し厚手の服装になります。

これからだんだん温かくなっていき、雲の月には袖のない服を着るものもいるそうです。

城や離宮の中はあまり暑さ寒さが変わらないようできていますので、そういった姿は見かけません」


 その他にも考えず即答できそうな、鐘の呼び方や、魚は好きかとか、離宮に騎士達は入れないのかなどと聞いてみたが、目が合わないこと以外は普通に言葉が返ってきた。

同じようなことを十代の子供にやらせると、明かりは途中で揺れたり、消えたりする。

たった二日目のリリには正直できないだろうと思っていたのだが、難なくこなしている。

逆に俺の手が止まって、少し情けなくなったくらいだ。


「リリ、明日の夜もこのくらいの時間に衣装部屋に一人でいてもらえるかな?」

「明日は、プラトについている頃ですが、出かけないのですか?」

「何か起きない限り、転移魔法で飛んでこれるから。

リリには一番早く、一番上手に魔法が使えるようになってもらいたいと思ってる」


 少しだけ明かりが不安定に揺れる。

寮部分の家具の配置を少しだけ直すよう指示する書類を作っていたのだが、手早く仕上げて、リリの顔を見る。

ずっと魔法を使い続けていても彼女の魔力にはほとんど影響もなく、明かりの魔法程度ではリリに魔力の感覚を覚えさせるのは厳しそうだ。


「終わったのですか?」

「いや、まだだけど。

魔法を使いながら、俺の方も見えているかちょっと確認していただけ。

武官長にお礼状を書こうと思ったんだけど、リリも隣に座ってみてくれるかな?

あと、俺がいない間ミーナに本部の鍵を預けようと思うんだけど、頼んでも良いかな?」

「わかりまし…え??」


 手元に集中しているリリの手を取って、適当に作ったスツールに座らせる。

すると、今まで何をしても消えなかった明かりが消え、声を出してリリは振り返った。

視線の先には、透明なスツール。


「どうかした?」

「椅子が、温かかったのです。柔らかくて、これは何ですか?」


「お湯で作ったスツール。

魔力の膜で覆って、適当な強度を持たせてあるから、俺が座っても壊れないと思うけど。

そんなに不思議なもの? 水の玉とか見せたよね? あれの応用」


 スツールを手のひらで何度も確かめるように撫でて、押したり、つついたりしていたリリは、ようやく納得したのか、ゆっくりとその上に座った。


「温かいです。寒い場所でもこれなら火がなくても暖がとれますね。

グレッグの魔法は本当に素晴らしいと思います。

ですが、それらを彼ら全員に覚えさせて、大丈夫でしょうか?」

「騎士団のこと?」


 こくんと頷くリリの顔は真剣だ。

 ここの人たちは自分で呪文を作り出すという発想すらなさそうだし、魔法語の一つ一つに意味があると考える人も少ないようだ。

火の呪文と言ったら長い歌のような呪文全部が一括りと考えているみたいだから、教えるこちらとしても安心なのだが。


「今日の人たちは、基本的に身元は確かだし、確信が持てるまでは俺が抑えられないようなものを教えるつもりはない。

それにね、色々仕掛けを考えてあるし、基本的に魔法では悪さはできないと思う。

そう指導していくのが俺の仕事でもあると思うし。

それよりも、リリは魔法騎士団のあり方が東西領地の害獣退治と治安維持、近衛の補佐で良いと思う?」

「グロリア伯の言うとおりであるとするなら、南北の騎士団からは素質のある者を選び、

教育し、魔法を使える騎士を増やす。

魔法騎士団本体が東西の領地を回り治安の維持に努めるというのは理想的です。

しばらくは近衛の手を借りることになるとは思いますが、今後のことを考えれば、この国の力になることは間違いありません」

「それをやるには少し数が必要だけどね。

今の人たちがある程度形になったら追加募集が必要になると思ってる。

それまでに、入りたいという人が集まるようにしておこうとは思っているけど」

「子爵以下からの問い合わせは既に来ています。セニールが後見と思われているようでそちらには推薦書を書いて欲しいと来たものも居たとか。

今回は伯爵以上の親類縁者のみと侍従が触れていたようですから」

「伯爵以上というのは何かの区切りがあるのかな?」


 ここでは基本的に女王に謁見できるのが伯爵以上とか、領地の広さ的に一定の収入が見込めるとか、城下に屋敷を持つ権利を与えられるなど伯爵からは色々な権利をもらえるらしい。子爵以下は領地が狭かったり、基本国から給料をもらって使われる側だが、伯爵からは使う側という意識もあるようだ。


「貴族の中で一番偉いのは公爵?

確か王族の親類がなれるはずだよね。リリから見たら公爵は何にあたるの?

叔父さんとか?」

「現在の貴族筆頭はソロン公です。

公爵は王族の兄弟か叔父などが名乗れるものですが、ソロン公は曾祖父の兄の孫に当たります。

本来なら、侯爵なのですが、祖父が公爵位を継がせてしまったのです。

ソロン公は幼い頃から魔法が使え、祖父とは年の離れた兄弟のように仲が良かったからだとも、父に兄弟が居なかったからだとも聞きましたが、本当のことはわかりません」

「ひいおじいさんの(・・)の孫?

王様も魔法が使えるかどうかで決まるの?」

「はい。曾祖父は強力な火の魔法を使い、他国からの侵略を阻止し、我が国では英雄とされ、その功績で王太子になったそうです。

王国の北端、焼かれた平原はその時、曾祖父の魔法で焼き尽くされた土地だといわれています」


 ひいおじいさんの魔法は森や兵が一瞬で灰になり、山さえも溶かして平らにしてしまったらしい。

攻め込んで来ようとした国もそのあと無くなってしまったそうだから、魔法ひとつで国ひとつを倒してしまったと言える。

本当にここの王様の魔法は神様レベルだ。

 血筋でいえば、ソロン公が王様という可能性もあった訳か。

できればさっさと引退、退場して欲しいのだが、まだ狙っているんだろうなぁ、リリのこと(王の地位)


「ソロン公、今まで結婚しなかったの? まさか今までずっと一人?」

「若い頃に婚約した方は自害されたとか。

今は数人の女性が領地と城下にいるとは聞いています。

子供は居ないのでいずれ親類から養子を取るという噂でしたが…」


 まさかずっとリリを狙っていた?

愛人抱えておいて、リリに求婚とかどういう神経しているんだ。


「先ほどの文官の話、右大臣(ソロン公)の部下で一番優秀な人を選んでもらえる?

できれば爵位も高い人で、将来大臣にしても良いくらい」

「グレッグ?」

「あとは、治癒とか回復系の魔法を使える人もほしい。

城の中なら侍医とか居るよね?

その人に騎士団で怪我の対処の仕方とか、講義をして欲しい。

でなければ、神官とかに頼みたいんだけど」

「治療や回復魔法で、神官ですか?

何故ですか?」

「うちの方だと、怪我したら教会に行って応急手当してもらって、それでもだめなら病院へ行くんだけど、こっちは違うの?」

「確かに、薬草などは教会の方が確実ですが、治癒魔法は魔法医の領分です。

手当の仕方なら、近衛の新兵と同じ訓練で宜しければ専門の指導係がいるはずです。

武官長にそれもお願いしてみてはどうでしょうか?

魔法医に関しては、少し時間がかかるとは思いますが手配します」


俺のとこでは回復魔法は主に教会で発展したのだが、こちらは宗教と回復魔法は別のようだ。

教会の神官とかを借りてくれば良いかと安易に思っていたのだが、勝手が違うようだ。

なるべく丁寧に武官長への手紙というかお願い一覧表を書き終え、書類もほとんどなくなる頃には体感時間は深夜を回っていた。

手伝ってくれたリリも流石に眠そうにしている。


「ありがとうリリ、終わりました。部屋で休んで下さい」


 手を取って立ち上がらせると、寝室の前まで送る。

おやすみの挨拶をして、扉の前で待っていた侍女さん達にリリを預けると、俺も自分の部屋へと戻った。

 明日の着替えや旅支度の説明が丁寧に書かれたメモと共においてあった。

移動は馬車か、馬か、船ということで、丈夫なズボンと動きやすそうだが手触りの良い上等な生地の上着とシャツがきれいに畳まれておいてある。

これが明日の着替えなのだろう。

しっかりとしたブーツをソファの脇に寄せて、寝室へと入る。

 行儀悪く、ベッドに寝転んでメモを眺める。

 気のつく侍女さんが書いてくれたのか、ルイスとは違う字だ。

目が慣れてきたのか、だんだんこちらの文字も見分けがついてくるようになった。

名前(グレッグ)だけなら魔法なしでも書けるだろう。


「プラトの特産は果物と馬、領主は父一人息子一人で穏やかな気性。

納税の遅延もなく、中立派。

が、生誕祭は病欠か」


 害獣対策はグロリア領と同様、兵が見回りをして居ること、領主自身が率先してそれに加わっている。

昨年の近衛の演習で寄ったときは何も無く、領地経営も順調。

領主の体調以外は特に問題がなさそうだ。


「書類上は優秀な領地。実際はどうなんだろうなぁ」


 色々見てこないといけないなと、思いながら眠った。


声をかけて下さった皆様、読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。

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