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55.校外学習の前に その1

 ただいま俺は、残業中である。

校外学習用(お出かけ)に諸注意を受け、身分証の発行をしてもらい、離宮に戻ると、夕食を済ませ、入浴し、今日もリリと魔法の練習をとはりきっていたのだが、侍女さん達に引き留められた。

外泊用の着替えの説明が始まり、それが終わったと思ったら、ルイスと武官長からの宿題が待っていた。

ルイスの方は騎士団の入団への心構えと、各部屋の家具の配置やら部屋割りの提案、団員の食事の心配やら騎士服のデザイン案まで結構な量があった。

武官長からは、魔法騎士団の方針と概略の提出。更に、武具や装備に関して必要なもの、鍛錬用の備品の事など何もわかっていない俺でも指示できるよう詳しい説明と共に決めなくはいけないことが書かれた書類が来ていた。

それらがいくつか片付いた頃、リリがやってきた。


「グレッグ、何か手伝えることや、わからないことはありませんか?」


 簡素なワンピースで現れたリリは、少し不安そうに聞いてきた。


「少し手元が暗いから、淡い明かりが欲しいかな」


 リリはわかりましたと答えると、俺の考えとは違う行動を取った。

どこからか、手提げランプを持ってきてくれたのだ。


「そのランプ、リリが使える魔法具? 触ってみても良いかな?」


 どうぞと手渡されたのでしっかりと中を確認してみた。

上下は使い古された金属の、何とも言えない色合いで、精巧な細工も施されている。

肝心の真ん中はガラスの筒のようなものがはめられていて、中心部分はろうそくのしんのような黒い棒がちょこっと顔を出しているだけだ。

コッブさん(魔法具技術者)に見せてもらったように底を見てみるが、しっかりとくっつけられているようであけることはできなかった。

底の金属の一部がちょうど指の膨らみをあてるようにへこんでいる。

ここから魔力を流すのだろうか?

 リリに許可を取ると、自分の指をそこに押し当て、指先から魔力を流すように意識してみる。


「グレッグ、もう十分です」


 閉じていた目を開けると、かなり強い光がランプから出ている。

ろうそくのようにランプの中心の黒いしんに明かりが灯るのかと思ったら、筒状のガラス全体が光っている。

室内の明かりよりもだいぶ強い。


「ほんの少ししか流してないんだけど、具体的に言うと、明かりの魔法の五分の一くらい。

こんなもんで強すぎるということは、ちょっと触っただけでもつきそうだね。

魔法具ってこんなに効率よくできているの? 他のものもこんな感じで動くの?」


 リリがやるといつもこんな風になるそうだ。

このランプ上限いっぱいまで魔力補充できると、こんな風に強く光るのかもしれない。

他の魔法具についてはあまり触らないそうだが、他のもこの程度の消費魔力だったら、魔法使う方が非効率的だ。


「リリの使えないランプもある?」

「これがそうです。

作られた年代は一緒ですが、こちらは明かりをつけようとしてもできません」


 書棚に吊り下げられた同じようなランプを俺の前に置いてくれる。

デザインはそれほど変わらず、持ち手の部分が少しだけ凝っているかなという程度の違いだ。同じように底に少しへこみがあり、底板がはずれなかった。


 先ほどでも強すぎるというので、流す魔力を半分以下にして指をあててみる。

柔らかい光が生まれ、ちゃんと使うことができた。

微量の魔力でつくのなら、普通に流したらどうなるのだろう。

もう一度、今度は倍の量を流してみると、ついていた明かりは消えてしまった。


「ごめん、壊した」

「いいえ。大丈夫だと思います」


 リリが間違って使おうとしたときも、こんな風に明かりがつかず、侍女にやらせたらちゃんとついたそうだ。

魔力の量の制御をわかっていないリリが使えず、微量の魔力で動くということは、もしかして、ショートしたとか。

試しに使えたときよりも少しだけ多めに魔力を流すと、再び明かりがついた。


「わかったかもしれない。リリは流す魔力が多すぎるんだ。

これ作られた年代が一緒でも、設計者が違うとか、作った人が違うとか、そういう‘違い’はない?」

「私が使える魔法具の方が長時間使えると言われたことはありますが。

詳しくはわかりません。

近々、グレッグにも専属の文官を選ぶ予定です。その者に調べさせます。

魔法具に強く、魔力があり、大臣からの影響が少ないものを選定させていますが、他に要望はありますか?」


 本来ならルイスのしている仕事のほとんどが文官の領域なのだそうだ。それを、大臣の影響をなるべく少なく行うため、緊急の措置として専属侍従に行わせていた。

今後のことも考えると、ちゃんとした文官を一人でもつけようと、今まで色々探してくれたらしい。


「大臣の影響下にない文官なんていないんじゃない?

新任の文官じゃしょうがないだろうし。

右大臣(ソロン公爵)派ではなく、左大臣(セニール候)配下の人ではだめなの?」

「左大臣は、魔法や式典、外交などの対国外のことが専門ですから」

「右大臣派で、国内に詳しく、安心して仕事を任せられる人。

俺はリリの仕事を肩代わりできるほど能力が高いわけでも、記憶力があるわけでもないから、かなり優秀な人が必要になるよね。

そんな人いる?」

「探しています」


 怒られたようにしゅんとしてしまったリリに、申し訳ないが思わず笑みがこぼれる。

文官捜し相当大変なんだろうな。

リリの仕事は侍従長がうまく手配してくれているのだそうだが、文官はただの侍従に指図されるのを好まず、侍従長が直々に言うから従ってくれているのだろう。

魔法騎士団まで侍従長に頼るのは、無理があるからなぁ。


「能力重視で一人、左大臣派から一人で二人選ぶのはどうかな?」

「それなら数日中には。ですが、それでは色々と…」

「取りあえずやってみよう? うまくいくかもしれないし。ね?」


 納得したという顔ではなかったが、やってみますと引き受けてくれた。


「この明かり、しばらくすると、落ち着いてくると思いますが、少し強すぎますね」


 リリがランプの天井をちょっとひねると、明かりは消え、取り替えてきますと立ち去ろうとしたので慌てて止めた。


「消せるのならそれはそこらに置いて。

リリ、明かりの魔法使える、よね?」

「ですが、淡い明かりではありません」

「では強さを調整すれば良い。核を作ったのと逆に、淡く分散させる。

もしくは核を小さく弱くする。やってみて」


 何でもそうだが、特に魔法は繰り返し復習すること、感覚を体に覚え込ませることで上手になるんだよと言うと、リリはわかりましたと、とても良い返事をして早速呪文を唱えた。

彼女の白い手の上に、昨日同様しっかりした光ができあがる。

たった一日しか練習していないはずなのに、一発で核を持つ明かりを作った。

どのくらい複雑なことができるのだろう。


少し試してみようか。


待っているよと声をかけて下さった皆様、

待っていて下さった皆様

本当にありがとうございます。

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