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49.自分でやったこと

 リッジ(護衛)ルイス(侍従)を呼びに行ってもらうと、外はまだしんとしているようだった。

話し声も、怒鳴り声も聞こえてこない。

外の人たちは正気に戻っていないのだろうな。

リッジやヒース達は復活が早かった。慣れてくれたのか、あきらめられたのか。

今回は俺がおかしな事をしたから、我に返るのが早かったのだろうか。

下手したら、化け物扱いされてもおかしくない事をしたらしい。

もう少し魔法に詳しい味方が欲しいな。


リリもヒースも知識はあるが、こちらの魔法を使える人ではない。

ルーセント(赤毛の少年)は、使えるが知識としてはまだまだといった印象だった。

ここの魔法が発動するときの感覚とか、微妙なことを聞ける人物いるといいのだが。


 面接の主な目的は、リリに相手を見てもらうことだ。

なるべく相手からはリリに注意が行かないよう気をつけねばならない。

椅子に座っているリリの前に机を置き、その前に俺が椅子を置く。

少しはこれで隠れるだろうか。


「殿下、全員とおっしゃいましたが、今いる人を全員でしょうか?」

「何か問題がある? 人が多くて管理できないとか?」


 ひとクラス五〇人というのは、少し多めではあるが、何とかなる数ではある。

先生をやるには無理ではない数だと思うのだが、ヒースが少し厳しい顔をしている。


「騎士団員としては少なすぎる数ですが、数名近衛を除名になっている者達がおります。また、近衛の入団試験に落ちたものも。

彼らが魔法を使えるようになり、何か悪さをしたらと思いますと…」

「もしかして、親が偉いから理由を明らかにせず首になった人たちが多いとか?

ヒースが何をやったか知っているって事は、その人達を捕まえた、もしくは注意した事があるからかな?」

「ご存知だったのですか?」


 いや知らなかったと答えると、では何故そう思うのかと重ねて聞かれる。


「偏見かな。

近衛って身分の高い人が優先的に入れそうだと勝手に思っていた。

そこを首になるとか、入れない身分の高い子弟って、よほど病弱とかでなければ、なにかやらかしたのかな。と。

それに、リッジがいなくなってから言うということは、ヒースしか知らない内緒の話なんだと思ったから」


「私の知る限り、八名が近衛を除名されております。

入団試験には立ち会わなかったこともありますので、記憶にあるのは三名です。

表向きは、体調や怪我を理由に退団したことになっています」


 窃盗や暴行など騎士らしくない行いを度々したということで、一年以上の謹慎をそれぞれ受けたはずだそうだ。

領地に帰って謹慎とか、無罪放免と一緒だと思うのだが。

近衛を首になったこと自体が、不名誉だというので、貴族としては重い罰なのだと言われたが、その程度で反省するようないい子なら、何度もやらないだろう。

魔力のことだけ考えて、全員と思ったのだが、早計だっただろうか。


「一人ずつしっかり見てみるよ。どうしてもだめだなと思ったら入れない。

ありがとうヒース。

それにしても遅いな、ルイス達。何やっているんだろう」


 静かに少しだけ扉を開けて外の様子をうかがってみる。

先ほどまでは物音ひとつ聞こえなかったのに、ほんのわずか扉を開けただけで、外の話し声がよく聞こえた。


一人一人の声量が大きい。ほとんどが怒鳴り声に近いようだ。

半分くらいはこんなはずじゃなかったという声。

残りは俺に関する質問のようだ。

ルイス、護衛、見習達はそれぞれに、男達に取り囲まれている。


ヒースに窘められながら、立ち聞きしていると、壮年の男に詰め寄られているクレインと目が合った。

相手は彼の知り合いなのか、なかなかこちらに来られないようだ。


 中庭の方を見れば、俺が魔法を使った辺りに数人が集まって地面を見ている。

こちら風に踊りのまねごととして、魔法語を足で描いた辺りだ。

真剣な表情で話している中には、ネビス伯の子息だという少年もいる。

その他は付き添いの大人が二人と、受験者が四人。

彼らは純粋に魔法に興味があるようだ。

七人は小さな声で、俺の舞について話し込んでいるようだ。

探求心が強いのはとてもいいことだとは思うのだが、この身の置き所のない恥ずかしさはどうしたらいいんだ。

身振り手振りもまねている彼らを後ろから羽交い締めにしてでも止めたい。


「グレッグ、私にできることはありますか?」


 頭を抱えてうずくまった俺に優しい声がかかる。

止めてこよう。彼らを。


「今すぐ数名を連れてきますので、リリはしっかり記録をして下さい。

途中数字をいいますので、それも書き留めて下さい。

俺が十、ヒースが五という風に十段階です。

ヒースはここでリリと待機。

大丈夫、扉からそんなに離れないようにするから」


 扉を勢いよく大きく開けて、外へ出ると、人々の動きが止まった。

少しだけ恐れのようなものが、俺を見る彼らの顔に出る。


「面接をはじめます。まずは中庭に出ている人たち、こちらへ。

クレイン、その人達の案内宜しく。

ルイスはそのあとの順番を決めて、三人ずつ案内を。

リッジはルイスの補佐と警備、マーリクは引き続きここの警備。


 私は魔法で皆さんを傷つけるつもりはありません。

皆さんも騎士の見習いらしい行動を取って下さると信じておりますので。

 面接終了後に皆さんの質問を受け付けます。

では最初の方達、中へどうぞ」


 見学者含め七人がクレインに案内されているのを横目で見ながら部屋の中に戻る。

五人くらいなら横に並んでも広々しているこの部屋は、窓もあり、とても明るい。

リリが大丈夫ですかと目で問いかけてくる。

軽く頷いてから彼女を隠すように座ると、やっと最初の団体が入ってきた。


 先頭はネビス伯の子息、続いて同じ年頃の少年と、青年二人、三〇くらいの男と見学者二名。

皆緊張した様子で、最後に入ったクレインが扉を閉めると、それぞれが隣の様子を見ながら、背筋を伸ばし、一礼する。


「見学の方は一歩後ろへ。

自分の呼ばれたい愛称、年齢、魔法が使えるかどうか、志望動機ややりたいこと、得意なこと、不得意なことを教えて下さい。

発言するときは私の目の前に来て、ゆっくり話して下さい」


 細身の少年が周りに促され、俺の前に立つ。

上等な生地の服からでている白い手が、少し震えているように見える。


「あの、愛称とはどんなものでもいいのでしょうか? 

姉たちはキルスと呼びますが、そういったものでもいいのですか?」

「構いません。今後、私は貴方のことをキルスと呼びます。それでもよければ。

そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。

肩の力を抜いて素直に話して下さい。

年はいくつですか?」

「十八になりました。魔法は使えません。

殿下のように凄い魔法が使えたらと思います。

苦手なことは剣術です。得意なことは…」


 俯いてしまった少年を順番を待っていた同じ年頃の少年が心配そうに見ている。

キルスの友人のようだ。

キルスが真っ黒な黒髪に対し、その友人は少しこげ茶にも見える髪。

体格も肩幅がしっかりしていて、少し鍛えているように見えるが、バランスはあまりよくない。下半身が細い。足腰を鍛えれば立派な騎士と名乗れそうな体格になるだろう。


「貴方はキルスの知人ですか? 彼の得意なことを知っていたら教えて下さい」

「はい。彼の得意なことは手芸です。特に裁縫はメイド達よりも上です」

「ガルシア!」


 後ろを振り向き慌てた様子のキルスは、声こそ小さいが強い調子で相手を窘めた。

こちらでは男が裁縫するのは、やはりいけないのだろうか?

クレインやヒース(護衛達)は顔色を変えず、リリに聞くには振りかえなければならない。


 俺のいたところは、プロの手芸作家に男性も居たし、俺自身も小さい頃から針を持たされていた。自分で破いた服は自分で直すようにというのが我が家の方針だったからだ。


 こちらではどのくらい異質なのかはわからないが、ガルシアと呼ばれた少年は、キルスを貶めるために言ったのではないと思う。

何となく、自分の友人は凄いんだぞと自慢しているような雰囲気なのだ。

本職とも言えるメイド達が褒めるくらいだから、よほど上手なのだろう。


「裁縫が得意なら、衣服の修繕を頼んだり、騎士の制服の相談にものってもらえるかな?

剣術はこれから一緒に訓練すればいい。手先が器用なら、誇っていいと思うけど?」

「女のようだとか、みっともないとか…」

「友人が褒めるくらいだから、立派な特技だと思う。次は、ガルシア?」


 キルスは、肩を叩かれて後ろに戻った。

嬉しそうと言うよりは、納得のいかない顔をしているが、そのうちゆっくり話せばいい。

無理矢理来てもらったが、俺の魔法にずいぶんと興味を持ってくれたようで、騎士団になんか入りたくないという言葉が出なかったし、やる気もあるようだ。

友人の方はもっとやる気があるようで、綺麗なお辞儀の後、俺の顔を見て話し出した。


読んでいただきありがとうございます。


おひさしぶりですすいません。

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