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48.デモンストレーション


 騎士団本部に向かって歩いていると、そちらから一人小走りでやってくるのが見えた。

子ども達よりは上だが二十歳にはなっていないと思われる細身の少年だろうか?

すれ違うときに軽くお辞儀をしてくれた。

少し長めの黒髪で、色白。目は大きく、ぱっちりとしていて、整っている顔である。

服装から言っても貴族の令息といった感じのおとなしそうで…。


「マーリク、あの子捕まえて、本部に連行」


 走り去ろうとしていた少年を、マーリクは軽々追いついて俺の目の前まで引っ張ってきてくれた。


「殿下、こちらはネビス伯のご子息ですが、お知り合いですか?」


 ヒースが小さな声で教えてくれた。

俺は首を横に振り、少年の顔をしっかり見る。


「是非騎士団(うち)に入って下さい。

申し遅れました、私はグレッグといいます。

魔法騎士団長を拝命しています」


「私は、その、試験を受ける友人に会いに来ただけですので」


 逃げ腰な少年を、なるべく怖がらせないように笑ってみせる。

近くで見ればはっきりとわかる。

騎士団筆頭最有力候補(魔力はこの国三番目)だ。

逃すのは惜しい。


「ではそのご友人と一緒に試験を受けてみて下さい。お願いします。

確かネビス伯のご子息が魔法騎士団に入りたいと希望していると聞きました。

貴方ではないのですか?」

「そうですけど、あの、私は魔法も使えないのですが」


「魔法が使えない人を使えるようにするのが私の仕事です。是非騎士団へ」

「殿下の珍しい魔法も見ることが出来ますし、見学だけでもいかがですか?」


 少し強引だが、押しに弱いのか、マーリクが上手に少年を促し本部の方へと歩かせてくれた。


 俄然やる気が出てきた。

このランクの子がまだいたのなら、選択肢は広がる。

少年はティウィ子爵令嬢と同じか少し上くらいの魔力を持っている。

ちょこっと細身だが、男ならこれから筋肉がついて、がっしりする可能性も大いにある。

父親のネビス伯もそれほど細かった覚えはないし、使えそうな伯爵家の子。


「ルイス、今日集めてくれたのは貴族の子息だけ?」

「お知らせしたのは、伯爵以上の方々です。朝議が終わった頃にとお願いしました」


 こういうのにも順番があるのだろうか。

見学をしたいという伯爵達の要望もあり、朝議が終わったあとから試験をすると、昨日と今朝、触れ回ってくれたそうだ。


「そろそろ朝議が終わる頃かな? 

それなら、エルとリリを迎えに行ってからの方がいいか?」


 体感で言うなら、今はお昼三〇分前といったところか。

エルの方は門番に通達がいっているはずだから、誰かが連れてきてくれるはずだという。

それなら、マーリクと、ルイスに先に行ってもらい、俺だけ城に少し戻ってくると告げて、

リリの元へ向かう。


 城に入ると、朝議が終わったところなのか、貴族達が忙しそうに歩いている。

すんなり入れた執務室には書類仕事を終えて、リリが待っていてくれた。


「しばらく席を外します」


 侍従長に断りを入れると、侍従長は書類を持って静かに退席した。

女王陛下についているのは、護衛のクレインだけだ。

この人はいつ休んでいるんだろうか。


「朝議のあとに魔法騎士団の試験があるのかと聞いてくるものがいました。

今日あるはずだと答えました。今から行うのですか?」

「その予定です」

「私も立ち会います。離宮に昼食を頼みましたから、彼女らと一緒に本部に入ります」

「ありがとうございます。陛下(リリ)。では今日は少し雰囲気をミーナに似せましょうか」


 いつものように女王陛下を軽く抱きしめながら幻覚魔法をかけ、侍女姿にすると、外へ出た。リリはクレインと離宮に寄り、俺は直接本部へと向かう。


 魔法騎士団本部は入り口の前に小さな人垣が出来ていた。

集まってくれた人たちはたぶん五〇人ほど。

本部の扉の前では騎士団(うち)の人たちが事情を説明したり、待ち疲れた人たちを宥めたりしてくれていた。

鍵が開いていなくて誰も入れないという状態なのに、わりとおとなしく待っていてくれたようだ。


「お待たせしました。私はグレッグといいます。

これより中へご案内しますが、魔法騎士団本部の中では身分の高い方もそうでない方も平等に扱いたいと思います。

ここで忍耐強く待っていただけた皆さんには言うまでもないかと思いますが、私の指示に従い、勝手に歩き回らないようお願いします」


 ではどうぞと言って、鍵を開け、中に入る。防犯魔法は一部を除き継続した。

前回と同じ様に中庭に全員を並ばせて、魔力を確認していく。


年齢は十代後半から、見学の人かと思うような四〇代の男も数名いた。

今回は、魔力が低すぎて駄目という人は見当たらない。

皆それなりに魔力があって、なんとかなりそうな人ばかりだ。

魔力だけなら。

体格的に騎士になれそうかと言われると、大丈夫そうなのが二割といったところ。

貴族の子弟なんだから、騎士になれそうならまず近衛に入るんだろう。

魔法師団なら全員採用なんだが。

だが、逆を言えば、体力さえつけば、いいのだ。

剣術や体術は足りなくてもなんとかなる…ようにする。


「魔法騎士団は陛下をお守りするために作る騎士団です。

今現在魔法が使えない人も、ある程度訓練で使えるようにします」

「それは、先日の夜の花のような、ただ皆を驚かせるようなものですか?」


 発言したのは、二〇代前半の男。焦げ茶の髪で、魔力も普通。

にやりと笑う顔が何とも生意気そうだ。


今日試験を受けてくれた人たちは、団員候補であると共に、高位貴族の子でさえ入った魔法騎士団と宣伝もしてもらわなくてはならない。

難しいところだが、少し見せた方がいいかもしれない。


 しんと静まりかえった中に、離宮の侍女達がそれぞれにカートやトレイを持ち、入ってきた。

その中には、小さなティーセットを持ったリリもいた。

こんな事はしたことがないのだろ。とても危なっかしい。

リリばかり気にしていたら、横にいたヒースに腕をつつかれた。

そうだった。


「あれでずいぶん誤解させたようですね。

陛下のお祝いにと華やかなものを選んだだけなんですが。

ちょうどいい。侍女達も来たようですし、そこの廊下に椅子を並べて。

全員中庭から出て下さい。

誰か、的を出してもらえるか?」


 貴族はもちろん動かないので、侍女や見習達が廊下に椅子を並べ、料理をテーブルのある部屋に避難させてくれた。


「リリ、少し派手な攻撃魔法を使う」


 トレイを手放せてほっとしているリリの後ろに行き、そう囁くと、彼女は小さく頷いた。

他の侍女さん達にも、気絶しないように壁際で見ていてねと声をかける。

中庭の真ん中にはぽつんと木製の人形が置かれた。


「椅子から立ち上がらず静かにご覧下さい。

なお、ここで見たものは外で言いふらさないようお願い致します」


 ひとつ呪文を唱えて、懐から銅の指輪をとり出し、見えるように片手にはめる。


 人形の裏に回り、なるべく足下が見えないように観客を意識して立つと、ゆっくりと足で、

水と流れを意味する魔法語を描く。

ダンスなんてここ数年やったことがないが、それらしく見えればいいのだと自分に言い聞かせながら足を動かす。

小さく滝の魔法を唱えて、目標を木の人形とする。

普段なら、一抱えほどの滝が二mくらい上から落ちてきて、人形が壊れるのだ。


「え?」


 自分でやったはずなのだが、発動した瞬間違和感を覚えた。

滝の太さがまるで違う。

直径三mの水の塊が上から落ちてきたのだ。

とっさに後ろに下がり、巻き込まれはしなかったが、ドドドという音と共にあっという間に人形はどっかへいった。

流れていった水が中庭から出て、皆の足下をぬらしたところで慌てて魔法を打ち消す。


何だったんだ、今の。明らかに威力オーバー。

指輪か? まさか足の魔法語?


「殿下」


 呼ばれて顔を上げてみる。

椅子に座っている貴族や、側にいる見習いは皆ぽかんと俺の方を見ている。

侍女さん達も一部を除いて、少し青い顔でなんとか立っている。

ルイスは口を開けてこっちを見ているし、護衛は額や口元に手をやって、困った顔をしている。

何か、やらかしたらしい。


「近い将来、皆さんにも同じ様なことが出来るよう指導します。

私の魔法が魔法具によるものでないとご理解いただけたでしょうか?」


 返事はなかった。茫然自失という状態のようだ。

何かこちらの常識ではあり得ないことをしてしまったようだが、皆が気付かないうちに次へ移ろう。


「ルイス、こっちの部屋空っぽだったよね。こっちにテーブルと椅子用意して面接。

面接以外の人は昼食取って下さい。

侍女一人、書記にこっちに寄越してくれる?」


 俺が椅子を二脚持ち、逃げるように移動すると、ヒースとリッジがテーブルを持ってついてきてくれた。

リリも俺の言葉を聞き、何かを持って、ちょこちょこと小走りでついてくる。


面接室に入ると、誰かがため息をついた。


「俺、何かまずいことした? 何となく貴族の魔法に似せてやってみたんだけど」

「普通、魔法で出た水や火は消えません。

水は地面に吸い込まれるまで、火は対象を燃やし尽くすまで消えることはありません」


 ヒースが淡々と説明してくれた。

殿下のように連続で魔法を使われたりする方を見たことがありませんので、魔法で出した水を魔法で乾かすということも見たことはございませんと付け足してくれる。


「じゃあ、ルーセントの火を消した俺の水の魔法もおかしいということ?」

「いえ、他人の使った魔法を打ち消せるのはその倍以上の魔力を持っていれば出来るといわれています。実際見たのは初めてですが」


 打ち消し(キャンセル)もなしなのか。

そうすると、魔法で攻撃されたら、盾で防ぐか、避けるか、諦めるかになるわけか。


「自分の魔法でも、より強い魔力を込めれば打ち消せるはずです。

過去にそういう例があります。ただそれをやった王は過労で寝込んだという話ですが」

「魔力の消費が激しいからかな? 王様の使う魔法は大きなものらしいし」

「そうかもしれません」


 こちらの魔法はまだ謎が多い。

魔法に関しての知識は、やはりリリ(女王様)が一番、次がヒースのようだ。

魔法が使えるというヒースのお兄さん達にも会ってみたい。

きっと優秀なのだろう。


「それよりも殿下、杖も使わず、あんなに派手な魔法を使って宜しかったのですか?

今までずっと秘密にするようにとおっしゃっていたのに」


 いつも黙ってついてきてくれるリッジが珍しく意見を言った。


「見学者含めて全員こっちに引っ張り込む。

貴族の中でも魔法を使える人は基本的に重用されているみたいだから、あれを見たら、保護者なら、自分の子どもや縁者は魔法騎士団に入れたい。

本人なら入って覚えたいと思うんじゃないのかな? 

外で俺の魔法のことを言いふらす人はいるかもしれないが、貴族なら、黙っている人も多いと思う。競争相手は少ない方がいい、そう考えて」

「ですが…」

「心配してくれてありがとうリッジ、でも大丈夫だから。

もし安心できないようなら、外で、今のことを見ていない人に話してみるといい」


「何をしたのですか?」


 リリは手に持っていた紙の束をぎゅっと握っている。

彼女の手を取り、椅子に座らせる。

俺に怯えているのかと思ったのだが、抵抗する様子も、身を固くする様子もない。

「ちょっとした小細工。細かく説明すると、魔法が発動しなくなるので内緒。

七日くらいしか保たないから、それまでになんとかしないといけないんだ」


「我々も信じていただけてないのですね?」

「一人に話すと全員無効になるタイプなんだ。もう一度かけ直すことも出来ない。

前回のエリティス伯達にこれを使わなかったのは、うちに帰り着く日にちがわからなかったというのと、彼らは言わないだろうなと思ったから。

もちろんリッジ達も言わないでいてくれると思っていた」


「ありがとうございます。

殿下は本当に不思議な魔法をいくつもお使いになるのですね」

「普通魔法が使えると言ったらひとつ。優秀な人で四つまでですね」


「ありがとう、そこら辺の常識がないから教えてくれて助かる。

さて、これから全員を上手に釣り上げなくちゃならない。援護よろしく」


 声をかけると、それぞれが了承の意を示してくれた。


読んでいただきありがとうございます。

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