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45.無力とは

 紺地に銀糸で肩、そで、裾の部分に雲のような刺繍がとても上品に見える上着と、落ち着いた銀に水色の帯という少し華やかな感じの今日の服装はリリの隣に立つために選ばれたものだ。


 女王陛下は、明るい海の色のドレスを着ている。銀糸とたぶん真珠で波を思わせる刺繍が裾のあたりから胸のあたりまで綺麗に施されていた。

肌の白いリリがより色白で美しく見える。

濃い色の服を着ている俺が隣に立てば一層綺麗に映える。


 今日こそはと、朝食を終え、城の執務室でいくつかの確認のあと、謁見室に入る。

五組ほどの貴族が代わる代わる挨拶に来た。

皆、穏やかな顔で、リリと俺の健康と国の繁栄を祝う言葉を口にして帰っていった。

最後にティウィ子爵親子が入ってきた。

本来なら、子爵が女王陛下にご挨拶ということはないそうなのだが、先日の武勲と、俺が呼びつけたことになっているので、謁見が許された。

それだからか、今まで挨拶してきた領主達よりもかなり離れた位置に親子はいた。

この距離だと顔は見えないし、少し大きめに声を出さないと聞こえない。

まるで俺たちを恐れてそばに寄らないようにも見えるが、女王陛下(リリ)は気にした様子はない。身分の差とはこういうものなのだろう。

その場にいたものは、陛下からの褒美として布と木材を子爵の家に贈ると侍従が読み上げているのを静かに聞いていた。


「ティウィ子爵、これからも国のため皆の手本となるようなそなたの働きに期待している」

「もったいないお言葉です。卑小な身ではありますが、精励致します」


 深々と頭を下げたまま二人は顔も上げずに、挨拶して帰ろうとしている。

これでは目的の半分も果たせない。


「二人とも、もっと近くに来て陛下に顔を見せてくれる?

遠くから見ても陛下は綺麗だろうけど、今日の陛下は近くで見ると、もっと綺麗だから。

見ていかないと損だよ?」


 親子はそばに控えていた侍従に促され、俺達の数歩先でかしこまった。

リリを見れば、俺の意図に気付いてくれたのか、じっと令嬢の方を見つめていた。

令嬢も少しだけ顔を上げ、頬を染めてリリを見ていた。

彼女にとっていい土産話になっただろうか?


「子爵には必要ないと思うけど、俺からは道中のお守り。

うちに帰るまで開けないと効果抜群だから」


 そう言って小さな革袋をひとつ子爵に手渡す。

高い位置にいた俺が自分の足で降りてきたことに、侍従や、警備の騎士達が慌ててはいたが、リリが手で制してくれた。

子爵は何度か瞬きしていたが、俺の笑みを見て、両手で押し戴くようにしてから礼を言い、懐にしまってくれた。


 俺がリリの隣に戻ると、侍従をはじめ、みんながほっとしたように息をついた。

こちらにはまるきりおかしな事をしているつもりはないのだが、彼らの常識ではあり得ないことなんだろう。


「次は俺がそちらに遊びに行きますから、その時は宜しく」


 社交辞令と思われたのか、お待ちしておりますと言うと、他の人たちと同じような別れの文句と、丁寧なお辞儀のあと、親子は部屋を出て行った。

娘のことは一言も言わなかったが、撤回する様子はなかったし、二人ともなんだか晴れ晴れとした様子で帰って行った。

お守りが‘ちゃんと’効いてくれればいいが。

このあとリリは朝議に行き、俺は午後まで時間があいているとのことだった。


「グレッグ、朝議に出てみますか?」


 突然の女王陛下の提案に、侍従達は慌てて俺に断ってくれと合図してきた。

その中の一人に何となく見覚えのある男がいた。

確かこの侍従、ジェイムズの時にも同じ様な場所にいて、お願いをしてきた男だ。

その必死そうな表情に同情のようなものを覚えた。


 リリの細い手を取ると、少しだけ指先が冷たくなっていた。

両手で温めるように握ると、珍しく女王陛下(・・・・)が俯いた。


 やはり不安なのだろうか。

だが俺が朝議に出たら、余計もめるだろう。

陛下がまともな判断が出来ないと断じられたら、元も子もない。

せっかく今まで立派な女王を演じてきたのだから、その努力を無駄にしてはいけない。


「陛下のおそばには居たいと思いますが、身分のない俺が入っていい場所とは思えません。

それに、午後から面接もしなければなりませんので、その準備をしております。

何かお困りのことがありましたら、いつでも呼んで下さい。

お手伝いに参りますから」


 朝議の場まで送りますねと言い、ゆったりと一緒に歩く。

硬い表情のままだったリリと扉の前に立つ。


「陛下、行ってらっしゃい」


 深呼吸すると、リリは女王様の顔になって扉の中へ入っていった。

残された俺はそれを見送りながら、ひとつため息をついた。



皆様のお陰をもちまして三ヶ月が経過。

本当にありがとうございます。


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