表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/60

42.二人羽織の薦め


「女王陛下として言えないというなら諦めるけど、離宮の譲渡以外で、最近何かあったよね?」


 リリは軽く口を結んでから、俯いた。

しばらく待ってみるが、言い出しにくいのか、考えているのか話し出す様子はない。


「じゃあ、俺の聞きたいことを話せる範囲で教えてくれる?

‘リリ’が魔法を使えないと知っているのは、大臣二人と、武官長、クレイン、俺と、離宮の侍女だけ?」


「離宮の侍女ではミーナだけです。

たぶんハンナも気付いていますが、直接言ったことはありません。

それと、北と南の領主も気付いているかもしれません。

ここ五年で何度か私が出なくてはならない規模の出来事があっても自分たちで処理してくれましたから」


「何度かソロン公が手伝ってくれたと聞いたけど?」


「はい」


 いつもよりも覇気のない小さな返事。

ソロン公がリリと婚約できたのは、これが理由かな?

女王陛下の代わりに自分が行くことによって、王の代わりもできるくらいの力があると誇示したのかもしれない。


「じゃあ、これからはそれを魔法騎士団がやる。

対外的には、取るに足らない、お飾りの団体がいいんだろうけど、せっかくリリ主導で作るんだし、少しは活躍して見せないと。

あまり派手でも色々問題だろうけど、そこら辺は追々考えるから」


 セニール候やルイス達が、使えない魔法騎士団を作らせたいのは、たぶん、これ以上この国(リュクレイ王国)が力を持つと、他国が危機感を覚えるのではないのかと考えるからだろう。


 一人で凄い魔法を使えるはずの王族に、ある程度の魔法を使える団体が自分の国に攻め込んできたらどうしようか。

攻め込まれる前にやっつけてしまおうという危険な考えを持つ国が出ないとも限らない。

そうならないためには、魔法騎士団は俺のための‘装飾品’くらいであって欲しいのだ。

だが、それは、リリの希望でもないし俺の目標でもない。


「グレッグは先ほど、エルドに、近衛がするには取るに足らないことをする騎士団にすると言っていませんでしたか?」


「理想ですか? とは聞いたけど」


「近衛では力の及ばないことをしてくれると?」

「女王陛下のお望みのままに」


 気取ってみせると、リリはようやく少しだけ微笑んだ。

彼女が希望するのは、自分の代わりに民を守ってくれる騎士団。

 俺も守られてばかりではいけないな。


「もうひとつリリが悩んでいるのは、ちゃんと魔法が使えるようになるのか? だと思うんだけど。

大きいのを今日明日にもというのは無理だからね?

もしそういう話になったら、リリは魔法を使うふりだけして、俺がなんとかする。

隣にいなくても、俺が見えている範囲ならどうとでもごまかせるから。

いずれはそのごまかしが本当になれるよう今日から特訓するのは決定事項だけど。

それはいいかな?」


「わかりました、宜しくお願い致します」


 女王様なのに、深々と頭を下げたリリはまだ何かを抱えているようだった。


「それと、今日から、ルイスの行動が不審なんだけど、心当たりある?

書類を無理矢理通そうとしたり、なんだかとても急いでいる風だった。

 リリが俺を守ろうと一生懸命やってくれているのだろうけど。

全部一人でやらず、俺にも相談してくれると嬉しい」


 リリからしてみれば、この国のことを何も知らない俺に何でも話すというのは無理だ。

それはいくら俺でもわかる。

きっと言い出せないことも、俺のためなんだろうなということも。

それでも、俺のせいでリリが悩むのなら、なんとかしたい。

そう思っているのが通じたのか、リリはしばらく言葉を選んでいたようだが、少し待つと、淡々と話してくれた。


「グレッグの指輪の図案の紙で、技術者が一人軽い火傷を負いました。

火の気がないのに、燃えたと周りのものは言っているそうです。

幸い、指先に小さな水ぶくれができる程度だったそうですが、グレッグが、魔法具の技術者達を害するために何かしたのではないかというものも出ました」


 指輪の図案で火傷を負った?

そんなことがあるわけ…。

確かあれは停止で魔法語を発動しないようにした。

何か特別なことをしない限り、指輪に刻んでくれとお願いした魔法語は、ただの模様でしかないはずなのだ。

それに普通に発動したのなら、火傷をするような火に関係ある単語なんて…。


「火傷、火? 炎…明かり。明かりか。

その火傷を負った人、どんな人?

その人に会わせてもらえない?」


 指輪に刻む文字は魔法語は、全文を見れば、直接火に関するものではない。

そこから火が出たとなれば、全体でなく、いくつかの単語だけに魔力を込めた、または、なぞったのかもしれない。

つまり、その火を出したひとは、魔法語が読めるのか?


「それ以前にもグレッグ一人で魔法具を作っているところを見るのは遠慮して欲しいと言われたので、私が同席してはどうかときこうと思っていたのですが…」

「技術者を傷つけるような人に、魔法具作成を見せられないと?」

「すみません」


「いや、リリが謝ることではないから。

俺が謝る方だから。

まさか魔法語が読める人がこっちにいるとは思わなかったから。

色々ご迷惑をかけました。

火傷が軽くて本当に良かった」

「あれも魔法陣と同じなのですか?

あれ自体が何かの魔法を発動するものなのですか?」


「ちょっとした仕掛けと、後はつける人が魔法を使いやすいよう補助するものを入れたんだけど、その中に光とか、炎とかに関する単語がいくつか混じっていた。

それをたぶん技術者が魔力を込めてなぞったんだと思う。

かけた制限を破って発火したなら、火傷をした人って、かなり魔力がある人のはず」


 最初は宝飾品加工の専門家に指輪を作らせるという話だったのだが、指輪の図案を見た魔法具管理庁の男が自分の所に任せて欲しいと名乗り出て、持ち帰り、技術者に見せたところで火が出たらしい。


「もしかして、その人も俺と同じとこから来た人かもしれない」


「グレッグ?」


「その人が来たときのことを聞ければ、どうやって俺がここに来たのかわかるかも…」

「その技術者は私の生まれる前からここで働いています。

それに、彼は魔法を使えないと聞いています」  


 少しだけ興奮気味の俺に、心細そうなリリ。

本当に、俺は。もう少し考えて発言しよう。


「あっちに戻りたいからではないよ?

どうしてここに来られたから知りたいだけだから。

 それに、その人がこちらの人でも魔法語を知っているということは、こちらにも、魔法語の文化があったのかもしれない。

そこに何か面白い呪文や、解釈があったなら、知りたい。

…でも、魔法具関係は右大臣(ソロン公)なんだよね」


「統轄は右大臣ですが、直接には魔法具管理庁です」


 どうも先ほど見た禿頭の男がそこの長官をやっているらしい。

その管理庁が技術者も、できあがった魔法具も、さらには出荷先も管理しているそうだ。

俺の指輪の図案に興味を示していたそうだから、話くらいはできるかもしれない。


「もし、魔法語のことを聞かれたら、俺は親に習った‘模様’だと。

親はその親に習ったのだと思うと答えてもらえますか? 

模様の意味は俺に聞けと言って下さい。

それと、火傷の謝罪がしたいから、怪我した人にも会いたいと伝えて下さい」

「わかりました。

クレインにも、あまりグレッグに頼りすぎないよう言われたばかりなのに。

それを言えばきっと長官はグレッグに会います」


 クレインとしては、俺がリリを裏切ったとき、リリが傷つかないよう、信頼しすぎるなと言ったつもりだったのだろうな。

本人には全然届いてないみたいだけど。


「俺はリリにたくさん守ってもらって、たくさん負担をかけていますから、少しは頼って下さい。

俺がそばにいないとき、何か怖いことがあったら、俺のあげた指輪に助けてとお願いして下さい。きっとなんとかなるから。

俺は、これから、本部に戻って明日の支度をしてきます」


 一礼して、執務室から出ると、クレイン達護衛が俺の代わりに入っていった。

リリはまた仕事に戻るのだ。


 控えの間にいた貴族達に注目されながら、執務室前の廊下へ出る。

ずっと待っていてくれたのか、静かにヒース達が寄ってきた。

彼らと本部に戻り、綺麗になった部屋を見て回った。


ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ