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36.優秀な問題児


護衛を連れて、本部の外を一周してみる。

入り口の他にも、衛兵が見回りをしていた。


外壁は石の壁、タイルのように滑らかとはいかないが、普通の人が組んである石を足がかりに壁をよじ登るのは無理だろう。

周りに木も少ないし、窓も割れないよう加工はしてある。

防犯はもう大丈夫だと思いたい。


石でできた外壁は四隅が角ではなく、石の柱のように少し丸く作られている。

大きさといい、場所といい、ここが丁度良いだろう。


「三人とも、ちょっと俺の壁になってくれる?

外から何をしているかわからないよう俺を囲んでくれ」


 黒髪の三人は俺に背を向け、手元が外から見えないよう立ってくれた。

安心して壁に文字を刻んでいく。

指で触れた場所が圧力に負け、綺麗にへこみ、くっきりと魔法語が浮き上がった。


 魔法陣と同じ仕組みを、石や金属に刻むと、それがすり切れるまで使用できる。

紙に書いた場合も特殊なインクを使えば同じ事ができるそうだが、そのインクの作り方は企業秘密だとかで俺も知らない。

今回の仕掛けは、誰かが魔法を発動させるたびに作動するものだから、壁に刻み込むのが一番適切だと思う。

範囲指定と、負担軽減のため、同じ様な仕掛けを本部の四隅に施し、それぞれ隠蔽の魔法をかけて、さらに補強した。

希望としては、五年くらいは保って欲しいが、人が多くなると三年くらいかな。

その頃にはこの仕掛け自体が要らないものになってくれれば良いな。

指輪ができあがるまで実験もできないが、理論上はこれで作動するはずだ。


「次は、この城の敷地内を探索したいんだけど、衛兵が見回るような通路が在れば案内して欲しい。

何人かが横に並んで歩けるような広さで、できれば城一周コースがあれば」


「懲罰用の鍛錬コースなら在りますよ。

門限に間に合わないとか、無断外泊とか、遅刻が多いと三周するんです。

日が暮れるとでこぼこしているので危ないですが、今ならちょっときついだけです」


「詳しそうだな、マーリク」


「先輩方は知らないと思いますが、俺は月一回は走ってますから」


 とても威張れることではないのだが、若者(マーリク)は自慢げに胸を張る。

城壁の際とか、下働き達の寮の裏とか貴族達は通らないような道なので綺麗でもないですが、それでもいきますか? と訊かれた。

もちろんと答えると、全員上着を脱ぐよう言われた。


本気で走るらしい。


本部の門番をしていた男に4人分の上着を預け、マーリクを先頭に走り出す。

ヒースやリッジはちゃんと護衛として両脇を固めてくれているが、先頭は観光案内をしながら後ろをほとんど気にせず走っている。


いくつかの近道、城壁の衛兵が通る道、おいしい木の実の採れる場所、休憩できる場所を通り抜けて、城門近くまでやってきた。

確かにでこぼこはしていたが、本部から東の壁沿いにぐるっと弧を描くようになっている広い道だった。走りにくいということもないし、迷うこともない。


「これで鍛錬になるのか? 健康的なランニングコースだと思うけど」

「こっちは綺麗な道なんです。見回りとかもよく通るし、でこぼこもないし。

それに懲罰の時は全身鎧着ているので、結構きついです」


 立ち止まったせいか、汗がじんわり浮き出てきたが、それほどきつくないのではと思った俺は相当甘いらしい。全身鎧は人、一人分の重さがあるとか。さすが懲罰。

城門の前を走ると、衛兵に追いかけられるからとそこだけはのんびり歩く。

挨拶をして、城門の前を通り過ぎようとすると、今度はヒースが呼び止められた。

先ほどから、魔法騎士団だという子どもが外で騒いでいるという。


「ごめん、俺の客だ。門開けて、中に通してもらえる?」

 門番達は俺がわからなかったようで、二人してヒースの顔を見た。


「こちらはグレッグ殿下です。二人ともお言葉に従うように」

「申し訳ありません。ただいまお連れ致します」

 高そうな上着を着て、綺麗な格好をして、ヒース達に守られている人がこの人達にとっての殿下だったらしい。

汗かいて、上等なシャツを着ただけの男では判別がつかなかったのだ。

それだけ、貫禄とか気品とかがないのだと思うと、少し笑えた。


「遅いよおじさん、オレ達ずっと待ってたのに入らせてくれないし、じじいはもう帰ろうとか言うし、大変だったんだよ。

オレ、ちゃんとまた明日って言ったじゃないか」

 昨日と同じかごを持って、俺の所へくるなり、エルはそう言いながら、頬をおさえた。

大声を出したせいで、昨日の傷が痛んだのだろう。

今日は頬に白い布が当てられて、怪我の様子はわからないが、昨日よりも痛々しい。


「悪かったよエル。今日も来てくれるとは思わなかったんだ。

ありがとう来てくれて」

「これはじじいから」 

 渡してくれたのは、昨日と同じかご。

ロール状のパンと、ノールサンドの違う中身らしい。

エルの楽しそうな説明を聞いて、お礼を言って受け取る。

院長は入ってこないのかと聞けば、呼ばれているのはエルだけだから夕方また迎えにくると帰って行ったそうだ。


「後の二人も迎えに行った方が良いな。

ヒース、見習いの騎士とか、新入りの下っ端は一番最初、何の仕事をするんだろう?」

「武具の手入れ、厩舎の清掃、先輩騎士の洗濯など身の回りの世話が多いですが」

「先輩について回るのは貴族の子だけです。

平民の子は今の時間なら、宿舎か厩舎の掃除です」


 リッジがそう教えてくれたが、ルーセントは貴族の子。

レオは兵士見習いになっているのだろうか。

所属異動はまだ終わってないだろうな。

そうすると、二カ所に分かれている可能性が高いのか。


「厩舎なら今から行く道のそばにあります。

新入りだけで厩舎の掃除はしないから、監督しているやつにもう一人の子を連れてきてもらいましょう」

 マーリクはパンが入ったかごをもち、楽しそうに歩き始めた。

エルがその後について、厩舎って何がいるのかとか、これはなんだあっちは何だと色々な質問をしている。

先頭二人の会話を聞いていると、俺の知らないことも色々あり、こちらの常識のなさがよくわかってしまった。


「もしかして、マーリクは問題児?」

 こっそりとそう聞くと、ヒースとリッジは顔色を変えた。

黙って護衛だけしている分には普通に見えるが、ちょっと好奇心が旺盛すぎる。

この道もヒース達優秀な近衛は知らなかったようだし。


「いえ。そのようなことは…」

「足も速く、市井に詳しく、腕も確かです。

貴族出身ではありませんが、決して殿下を蔑ろにして選んだわけではございません」


「うん、良い人を選んでくれた。マーリクの案内で、町を探険しても面白いだろうね」

 それだけはやめて欲しいとお願いされたが、いつかやってみよう。

お貴族様の知らない面白いところへつれていってくれそうな気がする。



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