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31.実験と自覚

 目をまん丸にして驚くリリの目の前で、三人の侍女さんに盛大に怒られ、脱衣所まで引っ張っていかれた。その間さんざん陛下に肌を見せるなとか、はしたない格好で歩くなとか、いろんな注意を受けた。

ちょっと肩のところがはだけていただけだと言い訳じみたことを言ったら、お説教は倍になった。

婚約者といえども礼節を持って、行動するようにと釘を刺され、謝るとようやく開放された。

取りあえず見苦しくない格好にと着替えさせられ、何とか寝室に戻れたときにはもうだいぶ時間が経っていた。


時間が経って、反省した。

大人なのに、ちょっと考えなしだった。

落ち着いたけど、思いついたことは忘れていなかった。


 ソファにちょこんと座り、紙とペンを用意してリリは待っていてくれた。

俺の顔を見るとほっとしたように、微笑む。


「お見苦しい姿をお目にかけて申し訳ありませんでした。

以後このようなことがないよう気をつけますので、お許しください」

「はい。グレッグ、紙はこれでいいですか?」

 こっちに女神様がいるかどうか知らないけど、女神様のように優しいリリ。

侍女さん達にたたきのめされたのに、見なかったことにしてくれるらしい。


「こっちには、魔法陣とか、魔法紙…魔法制御紙とか、ある?」

「魔法陣は、呪文を唱えるときに舞ながら描くものですよね? 

魔法紙は聞いたことがありません」

「あの踊りで意味のあるもの描いてたのか…。いや、今はその話ではなくて。

 俺のいたとこでは、紙に魔法語、魔力を込めると魔法になる言葉を書いて、誰でも発動できるようにしたのが魔法陣。

で、その時に使われる、意図しないときに魔法が発動しないよう加工されたのが魔法紙」


「誰でも魔法が使える。素晴らしいですね」

「取りあえず、これが魔法陣」

 書き上げた魔法語を、ぐるっとペンで丸を描いて囲う。

完全に輪になると、紙自体からひんやりとした風が吹き、それと同時に書かれていた文字は消える。


「風の魔法ですか? でも、字は消えてしまいました」

「そう。一度発動すると消えてしまうから、町には必ず魔法陣販売所(魔法屋)があって、結構はやってた。呪文知らなくても使えるから便利だし。

これを、持ち運んでも魔法が発動せず、インクがこすれたり、紙が切れないよう加工した紙が魔法紙と言って大学の論文なんかでも使ってた。結構高かったけど。

さっき俺は風呂場で魔法紙を作るにはどんな呪文使えばいいのかなと考えてた。

売っている魔法陣もそうなんだけど、難しいのは、いくつか手順を踏まないと発動しないようになっていて、簡単なのは、魔法語を丸で囲むだけとかのもあるんだ。

主な用途は子供用のおもちゃなんだけど。たとえば…」

 先ほどの冷風が紙からでてくる魔法語を大きめに紙に書いて、リリの方に向ける。

書体を変えたつもりだったが、同じものですよねとリリに聞かれた。

この記憶力の良さ、分けてもらいたい。


「ではリリ、ここからが実験です。まずはこれの発動をやってみて下さい。

さっきの風をイメージしながら、丸を描くだけ」

 差し出したペンをぎゅっと握ると、リリは俺の顔を見た。

大丈夫だよと軽く頷くと、ちょこっとだけ震える手でゆっくりと文字を囲う。

同じ様に冷たい風がおき、ほっとした。


「これでリリに魔力があることが証明されました。

そして、俺の使う魔法が使えそうなことも判明。

よかったね、リリ」

 何も書かれていない紙を大事そうに持って、ありがとうございますと頭を下げる。

嬉しそうと言うよりは、泣きそうな顔だ。

今までずっと魔法が使えない、魔力の少ない女王様だと自分で思い込んでいたのだから、魔法が使えることがわかって嬉しいだろうと考えたのだが、そう単純でもないようだ。

うつむいたまま動かなくなってしまったリリの頭を撫でて、落ち着くのを待つ。


「私もグレッグの魔法なら使えるということですか?」

 顔を上げて潤んだ瞳の美女が俺を見つめている。

先ほどまでは見えなかった色気を、リリの縋るような目に見てしまった。

何だろう。だめだろう。俺。

心臓は急に自己主張をはじめるし、顔は温かくなってるし、いくつだよ。全く。

後ろを向いて二、三度深呼吸して、心を落ち着ける。


「やはり私はだめですか?」

「そんなことありません。リリがあんまりかわいいからちょっとそっち向けないだけ」

 沈黙が降りる。

今日はちょっと疲れたし、神経使ったし、理性が売り切れそうなくらいリリがかわいい。


「ちょっと顔洗ってくるから」

 それだけいって逃げるように部屋を出る。

リリの衣装部屋を通り、風呂場に行こうとして、椅子に座っている侍女に気付いた。


「ミーナ? 何してるの?」

「待機しております」

 侍女さん達は交代で、夜の間寝ずにここでリリの指示を待ったり、侵入者がないか見張っているのだという。


「もしかして、昨日もここに誰かいた?」

「居りました」

「声とか聞こえた?」

「大きな声や異変があったなどという報告はありませんでした」

 王族にプライバシーという単語はないのだろうか。

おかげで今まで温かかった体が一気に落ち着く。


「顔洗ってきます。できればミーナも実験につきあってもらえるとありがたいです」

 かしこまりましたと答えてくれる彼女を置いて、風呂場に行き、少し冷静になって寝室に戻った。


遅くなってすいません少し迷いました。

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