26.まずはイメージ
昼食の片付けに戻ってきたミーナに侍女姿の‘リリ’を紹介し、中庭に移動した。
できた侍女は何も言わず、兄に確認だけすると、自分の仕事に戻った。
向こうの離宮とここの仕事でだいぶ忙しそうだが、安心して色々任せられる侍女というのは限られている。
それも見つけなくてはいけない。
「いっそここで働く人みんなに魔法を覚えてもらうか。
そうすると、侍女、コック、庭師、侍従。
武器の管理や機材の手入れは騎士にやってもらうとして。
…それ、いいかもしれない。
リリ、ちょっと耳貸して」
他の人から少し離れ、小声で相談する。
護衛以外は怪訝な顔をしたが、今は放っておく。
「魔法はこの建物内限定で使用できるようにして、外では制限がかかるようにする。
どうだろうリリ?」
「そんなことができるのですか?」
公共の施設や、学校などでは、強い攻撃魔法が発動しないよう結界を作っていた。
それの応用をすればいいだけだ。
大事なのは先入観と洗脳。
たぶんいける。
「ルイス、こういう指輪作れる人手配できるかな?
中に模様を刻める程度の腕がある人」
俺の手にはまっているのを見せると、手配しますという答えが返ってきた。
「では、先ほどの書類の追記。ここで働く人みんな俺が面接します。
貴族の推薦、たとえ伯爵の推薦でも、侯爵の推薦でも面接を通らなければ採用はしません。
ルイス、誰にいわれても、そこは通して」
「殿下? ですが、貴族の…」
「エルとリリはさっき俺の魔法を見てないから、リクエスト受け付けます。
どんな魔法がみたい?」
ルイスの悲鳴のような訴えを無視し、エルの方に近づく。
小さな少年は、目をきらきらさせて、夜の花と叫んでいる。
「あれは暗くならないと目立たないから、水にしようか。さっきも水だったし。
ぬれたくない人は屋根のある方へ。水浴びしても近くで見たい人はこちらへ」
中庭の中央によってきたのは、エル達少年三人。
リリはこっちに来ようとして、クレインに止められていた。
まずは水で、手のひらに載るくらいの球を作る。
子供達に、触っていいよと言うと、エルが大胆に指を突っ込んだ。
その程度では球は割れない。
二人も、指先でつつくように触った。
触っても冷たい感じはするが、手は濡れない。
それを不思議そうに子供達は確かめている。
「水を魔力の膜で覆っているので、多少のことでは割れません。
それを、…よく見てて」
水で作ったボールを高く放り投げ、上空で四散させる。
水がシャワーのように上から降ってくる。
エルははしゃいで、飛びはね、レオはただ上を見ている。
ルーセントは、なんだかつぶやいていたが、俺にははっきりとは聞こえなかった。
ぬれた頭を振り、体全体を魔法で乾かす。
ついでに子供達も範囲に入れると、三人ともが目をこぼれんばかりに見開いて俺を見た。
「おじさん、凄いよ、すごい!」
「僕もできる?」
「…水の魔法より、乾燥させた方が驚かれたのがちょっとショックだけど、好評なようでよかったよ。
この程度ならみんなできるようにがこれからの目標かな。
さて、魔法体験はこれにて終了。
三人とも今から騎士団の最初のお仕事を与えます。
玄関にお客さんが来ているかどうか確認してきて下さい」
「…わかりました、団長」
急に呼び方が変わった。三人ともそろっていい返事をして、駆けだしていく。
相変わらず、エルとルーセントは仲悪く、互いに競っているようだが、それもまあいいことかも知れない。
「ルイス、面接の準備しよう。
呼んできた人の書類があればくれる? なければ紙とペン。
リリは隣で書記をしてくれるかな?」
「あの、殿下、申し上げにくいのですが……」
ルイスが最後まで言う前にエルが戻ってきた。大声を張り上げながら。
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