24.魔法騎士団は怪しい?
お気に入り100越え記念。本日2話目です。
城門はぴたりと閉じられていて、何人かの衛兵が立っていた。
こちらに気付くと、槍を持ったまま、片手を胸に当て、こちら風の敬礼をしてくれる。
「何か異常はないか?」
「はい。先ほどから老人と子供が、殿下に呼ばれたと言って外で待っております」
エルと、彼の保護者だろうか。
子供をいくら城の騎士から呼ばれたからと言って、一人で出かけさせるわけはないか。
馬車が出入りする大きい方の門ではなく、小さい方を開けてもらい、ヒースの後に続いて出る。
外にも衛兵がいて、敬礼をしてくれる。
「遅いよ、おじさん」
子供らしい高い声にそちらを振り向くと、門から少し離れたところにエルが立っていた。
隣の老人に頭を殴られ、なんだか叱られている。
近づいていくと、白髪の老人は、エルの頭を押さえつけるようにして頭を下げさせ、自分も深々とお辞儀をしながら非礼をわびていた。
「お待たせして申し訳ないです。俺はグレッグといいます。エルに頼み事をしたものです」
「私は、外の孤児院の院長をやっております。
この度はうちの子が騎士様にたかったとかで、本当に申し訳ありませんでした。
ほら、おまえもお詫びをしなさい」
「だから、違うって言ってるだろ、じじい。
オレはちゃんと正当なほーしゅーとしてもらったんだ。ちゃんとおじさんに聞けよ!」
「じじいじゃなく院長と呼べと言ってるだろうが。いいから謝れ」
二人で頭を下げたままけんかしている。止めた方がいいだろうか。
間抜けな騎士がエルにだまされて、高い金を払わされたらしいと思った老人はお詫びと返金に来てくれたらしい。
いや、だまされていないんだけどな俺。
「ここでもめているのもあれなので、中へどうぞ。
エルはちゃんと仕事をしてくれたし、これからもお願いするつもりですから。
別にだまし取られたとか思っていません。どうか顔を上げて下さい」
ほら言ったじゃないかという台詞と共に顔を上げたエルを見てぎょっとする。
片方の頬がえらく腫れていて、誰かに殴られた跡というのがはっきりわかったからだ。
「エル、その頬どうした?」
「あ~。ただのけんか? 歯も折れなかったし大丈夫。
それよりおじさん、お昼たくさん買ってきたよ。じじいがうるさくてさ。
オレの取り分減っちゃったよ」
本人はそれ以上怪我について言うつもりはないらしい。
小さなかごいっぱいになんだかいろんなものが詰まっているのを俺に差し出す。
三人分のお昼には確かに多い。
「…ヒース、エルを東の離宮に案内してくれる? エルは中で手当てしてもらって。
俺は少し、こちらの院長と話してから戻るから。院長、こちらへどうぞ」
門の中へ入ろうとすると、老人は頑なに拒んだ。
仕方ないので門から少し離れたところに移る。
「エルの怪我は俺のせいですか?」
「あの子に銀貨を下さったとか。
孤児を憐れんで下さる貴族の方は大変慈悲深く、心優しい方だと思います。
ですが、あの子や、私たちにとって、皆様には取るに足りない銀貨でも、大変に大きなものなのです。大きすぎるものは争いを産みます。
あの子が銀貨をお返しすると言いましたら、どうぞ怒らずにお受け取り下さいますよう」
老人は頭を下げ、俺にお願いする。
これ頭を下げなくちゃいけないのは俺の方だ。
金銭感覚がしっかりしていないとはいえ、あれは多すぎたのだろう。
なんだか、ここのところ失敗ばかりしている。
「俺は貴族ではありません。まだ騎士でもないと思います。
人のいない田舎から出てきたばっかりで、エルが孤児だって事も、銀貨がどれくらいの価値なのかもよくわかっていませんでした。
大事なエルに怪我をさせてしまって、申し訳ありません。
実は、俺は魔法騎士団を作るという仕事を任されています。
その一員にエルにもなってもらいたくて、少し多めの金額を渡したつもりだったんです。
今日も日が暮れるまでにはお返ししますので、少しエルを貸して下さい。お願いします」
「申し訳ありませんが、そういうことでしたら、エルは連れ帰らせていただきます」
老人からの返事は、いやに冷たいものだった。
衛兵にエルを連れ戻してくれるよう老人は頼むと、こちらを振り向きもしない。
俺が貴族でないことがいけなかったのか、エルを借りると言ったのが気に障ったのか。
側にいた護衛を見て目で尋ねてみるが、首をかしげられた。
少なくともここの人にとっての禁句を言ったわけではないらしい。
「院長、俺が貴族ではないから、信用できないのでしたら、ちゃんとした人を連れてきます。
それとも何か気に障ることを言ったのなら謝ります。
エルをここにおいておけない理由を教えて下さい」
「孤児一人が消えても、あなた様には何の変わりもありませんでしょう?
ですが、私たちにとっては生意気でもかわいい我が子と同様の子供なのです」
どうしてこうなるんだろうか。
衛兵達もどうしようかと、口には出さないが目が相談モードになっている。
‘魔法騎士団’がよっぽど怪しいものに聞こえるんだろうか。
それとも俺が怪しく見えるのだろうか?
騎士と言えるほど筋力もなく、見た目も頼りないからだろうか。
「今、騎士団には見習い候補の町の子供もいます、貴族の子供もいます。
それらを分け隔てることなく、平等に見習いとして扱うつもりです。
エルがもし入ってくれるというのなら、その子らと同じようにします。
ただ、エルが一番小さいので、毎日城まで通うのが無理というのなら何日かおきでもかまいません。
あの子は年の割に頭もよく、すばしっこい。今から鍛えれば十分立派な騎士になれると思います」
「子供ばかりの騎士隊をお作りになるのですか?」
「大人の選考はこれからです。兵士や町の人、もちろん身分のある人も選びますが、身分によって差別することはありません。魔法騎士団は、実力主義です」
「実力のないエルはずっと小間使いのようにこき使われて終わるのではないですか?」
「5年したら、小隊の隊長にはなってもらいたいと思います」
大法螺を吹いてしまった。5年後に俺がここにいるかどうかもわからないのに。
院長は少しだけ話をすると、夕方迎えに来るからと帰って行った。
お世辞にも信頼されたとは言えないが、後は本人を説得するだけだ。
東の離宮に戻る途中、城に寄った。
丁度、朝議が終わり、リリは執務室だというので、そちらに回る。
取り次ぎをお願いすると、扉の中から入るよう声がかかった。
部屋の中には侍従長とクレインの他、二人ほどの侍従が女王陛下の決済を待っているようだった。
メモを取りながら、次々と書類を仕上げていくのはまるで魔法のようだ。
「グレッグ、何かありましたか?」
「一緒に向こうでお昼をと思い、お迎えにあがりました。ご迷惑でしたか?」
「いいえ。ありがとう、すぐ終わらせます」
最後の一枚を侍従長に手渡し、しばらく席を外すと告げ俺の方を向いた。
側によって、手を取ると、クレインが椅子を引いてくれた。
侍従達が出て行ったのを見て、そっとリリを抱きしめる。
なぜか慌てて目をそらす護衛達。
気にせず、以前使った幻覚魔法で、女王様のリリを侍女姿に化けさせる。
髪の色だけ茶色にして、顔は変えない。それだけでも雰囲気がだいぶ変わる。
しばらくぽかんとしていた護衛と、あきらめ顔のクレイン。
「では行きましょう、‘リリ’」
手を肘にかけてくれそうになったのだが、その一言で気付き、彼女は一人で歩き出す。
少しだけ顔が赤らんでいるのが、何とも言えずかわいらしい。
行きとは違う広い道を通った。結構たくさんの人が行き来をしていて、何か忙しそうだったが、俺とクレインの顔を見比べて、慌てて頭を下げていた。
俺の顔はあまり売れていないらしい。
建物の外にも何人かのぞきに来ていたようだが、入り口で見たことのない近衛騎士に追い払われていた。
「この人達、リリが頼んでくれたの?」
「はい。面接を行うとのことでしたので、人手がいると思いました」
俺はそこまで気がつかなかったので、素直に礼を言って中に入る。
玄関を抜け、中庭に抜ける扉の所に来ると、なんだか騒がしい声が聞こえてきた。
少し警戒しながらマーリクが扉を開ける。
中庭ではないようだ。
もう少し歩くと、先ほどお茶を出してもらった部屋の中からだとわかった。
護衛の後に続いて中に入ると、ちょうど頬に薬を塗りつけたエルが、無傷のルーセントに掴みかかったところだった。
けんかはまだ始まったばかりのようである。
閲覧、お気に入りありがとうございます。
7時前にチェックして訂正してはちょこっと無理があると気付きました。
投稿時間を次回より戻します。
申し訳ありません。