22.東の離宮、探険
城からだいぶ離れたところにある東の離宮は思ったよりだいぶ広かった。
イメージは学校の校舎くらいだったのだが、小さな学校ひとつ分はあるのではないだろうか?
城の真北が、寝起きしている離宮。
その北は墓地だそうで、代々の王族が眠っているという。
そこからだいぶ東側の城壁が見える場所が東の離宮だ。
広い中庭を囲むように建物が作られていて、風呂場もあるとか。
昔の王様が、自由に体を動かせるように作った‘運動場’なのだそうだ。
ここ百年近く使う人がないのでリリも入ったことはないと言っていた。
リリから預かった鍵を扉に差し込むと、カチャンと音がして鍵は開いたようだ。
「殿下、私の後についてきていただけますか?」
扉に手をかけようとしたら、ヒースに止められた。おとなしく彼らに従う。
今日はヒースと、昨日もいた長身のリッジ、マーリクの三人がついてくれている。
みんな黒髪で、若い近衛騎士だ。
マーリクが大きな扉を開けて、ヒース、リッジ、俺、マーリクの順ではいる。
本来なら、ルイスが案内してくれるはずだったのだが、面接準備に忙しく、終わり次第、魔法が使える騎士見習いの子を連れて来てくれるということになった。
騎士見習いには朝から下働きがあるので、それが終わらないとこちらに来れないのだそうだ。
無理を言っているのはこちらなので、その間を離宮探索にあてることにした。
「こちらが離宮の魔力器になります」
「魔力器?」
「この建物の魔法具に魔力を供給する元です。
他にも何カ所かこれと同じものがあります。
手を触れて、魔力を流すとこの建物の照明などが使えるようになります。
お試しになりますか?」
ヒースが示したのは、建物に入ってすぐの石の壁にはまった金属のパネル。
大人の目の高さにあり、三日月のマークが描かれている。
ここに手をのせるだけでいいらしいが。
「ヒース、やってくれる?
加減がわからないから壊したりするかもしれないし」
ランプ一個だったら試してみてもいいが、建物全部となると、怖くて触れなかった。
ヒースがちょっとだけ手のひらをマークの上にのせ、そのあと高さで言うと肘のあたりの壁に触れた。
天井の明かりがつき、玄関がよく見えるようになった。
目の前には木製の大きな扉、それを開くと、広い空間になっていて、右と正面に扉、左には広い階段がついている。
「二階部分は小さい部屋になっています。いくつかは窓から中庭の鍛錬が見えるよう作られているとのことです。正面の扉は中庭に続く廊下、右手は、使用人用の部屋や調理場などですから、まだ清掃は終了していないと報告が来ています」
「歩けないほどホコリが詰まっているとか?」
「定期的に清掃はしていますので、そこまでではありませんが、殿下にお入りいただくのは二階の手前部分と、中庭、その付近の小部屋でお願い致しますとのことです」
何となくだが、掃除というのに別の意味合いも含んでいそうな返事だ。
おとなしく二階部分から見て回った。
…小さい部屋って、誰の基準だ。
確かにリリの部屋よりは小さいだろうが、俺の寮の部屋2つ分はある。
騎士団を住まわせるなら四人部屋だ。家具やベッドを置いても十分広い。
窓から中庭が見える部屋も壁紙や絨毯は綺麗で、何年も使ってない部屋とは思えなかった。
下に戻り、正面の扉を開けてもらうと、長い廊下が続いていた。
右側の壁はなく、そのまま中庭に出られるようになっている。
左側には等間隔に扉があるのだが、これもまた、小部屋と呼ぶには相応しくない広さだろうと思われる間隔だ。
一番手前にあった扉を開けてもらう。
中にはずらっと椅子が並べられ、五十人ほどが座れるようになっている。
その隣の部屋は、丸テーブルが四つに、椅子がそれぞれ四脚ずつ。
飾り気はないがレストランのようなしゃれた配置になっている。
「お茶の道具があれば休憩できそうだね。そろそろルイスも来る頃かな?」
「殿下はここでお待ち下さい、見て参ります」
マーリク一人が、来た道を戻り、確認してきてくれるようだ。
「この奥はどうなっているか知ってる?」
「先ほどの廊下を進むと、浴室や王の休憩室、武器庫などがあったようです。
それらには鍵がかかっているそうですが、お持ちの鍵で開きます」
貸してくれたのはマスターキーって事かな? 落とさないようにしないと。
「清掃がちゃんと終わって、入れるようになったら見て回るよ。
これだけ広いと、中庭の手入れ、掃除、騎士の世話をする人と結構な数の人手がいる。
家具に、鍛錬用道具に、制服とかもあった方がいいかな」
話しかけたつもりだったのだが、二人とも黙ったまま何の返事もしてくれない。
事務的なことはちゃんと答えてくれたのに、個人的な意見が入るものは返事をしてはいけないのかな?
それとも、これは何かあったかな。
昨日はにこにこしていたリッジも、今日はなんだか厳しい顔で、今まで一言も話さない。
武官長殿のありがたいお言葉があったのかも知れない。
「ヒース、中庭に戻ってもかまわない?」
返事はなかったが、扉を開け、警戒しながら案内してくれた。
短めですいません、次回があまりにも長くなったのでここで一旦切りました。続きは二日後になります。
よろしくお願いいたします。
投稿1時間早めてみましたが、いかがでしょうか?