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21.今日の安眠のためには


「ほんとにもう、今日は色々ありすぎだ」

 一人広い風呂につかりながら愚痴をこぼしてみる。

離宮の風呂場は相変わらず綺麗で、温かく、何もなかった。


 ちょうど今頃が俺が現れたときの時間なのではないかと思うのだが、床も壁もリリのいた湯船の中も何の変化もない。

こういうのは起こったときと同じ時、場所、人、を再現しないと検証は難しいのだが、まさかリリにあの時と同じ事をしてくれと頼むことはできない。

 今日はほんの少しだけ、あの安っぽい寮の食事が懐かしく思えた。

祝賀会のあと、軽い晩餐をということで離宮での食事になったのだが、昼と同じメニューがあり、気分が悪くなって食べられなかったのだ。

自分がこんなに繊細だとは思わなかった。

リリには心配かけるし、俺って結構弱いやつだったんだとか一人で落ち込んで、全くもって大人気ない。

水を被って、気合いを入れてから寝室に戻ると、リリが一人さびしそうに待っていた。


「今日は疲れたんじゃない? 先に休んでいてよかったのに」

 笑顔を向けて、リリの隣に座る。

相変わらず長い髪を編んで、白い夜着の前に垂らしている。

昼間の着飾ったリリも綺麗で素敵だが、これはこれで魅力的だ。


「具合はいかがですか?」

「大丈夫。

先生をしていると、昼間にお酒なんて飲めないから、贅沢しすぎてちょっと調子狂っただけ。

一晩眠れば元に戻るよ」


「ごめんなさい」


 潤んだ目が俺を見上げてそう言った。

反射的に引き寄せ、きゅっと抱きしめていた。

柔らかくて、温かくて、いいにおいのリリ。

しばらくそのままでいさせてもらう。


「俺もごめんなさい。

明日、東の離宮で、団員の面接をしようと思う。

それに観客が入る。

シャイト夫人とその友人、それと、魔力の高いティウィ子爵親子。

特に娘さんが今まで見た中で一番強い魔力。

将来有望だけど、本人の意志は不明」


「ティウィ子爵?」


 ずっとこのままでもいいのだが、リリが苦しそうなので一旦放す。

顔は少し赤くなっていたが、涙目ではなくなっていた。


「娘の方は魔力が強く、リリと同じで魔法具も使えない。

焦げ茶の髪の女の子。

魔力はソロン公より強くて今のところ一番。

父親の方はソロン公と同じか少し強いくらいかも知れない。

小柄だけど、きびきびしていそうな感じの人だった」


「子爵は南方騎士団の副団長です。剣術や、海戦に強く、指揮も見事だとか。

先日の海賊との戦闘で功績があったため、数日の休暇をもらっているはずです」

「…よく覚えてるね。リリ」

「今日報告書を読んだばかりですから。

明日は朝議に出なければなりません。

お昼までに終われば、東の離宮に向かいます」

「入り口に近衛の誰かにいてもらう。ついたら呼んでくれるかな」

「はい」

「で、リリのごめんなさいは何のごめんなさい?

責めるつもりも、今更婚約者やめますなんてことも言わないから、教えてくれる?」

 小さく頷いてから、リリはもう一度ごめんなさいと言って、話し始めた。


「私のせいでグレッグは多くの人から悪く言われています。

何も悪いことをしていないのに、責められ、誹られています。

グレッグの魔法を見れば、皆が貴方の力を認め、こんな事は起こらないと思っていました。

ですが、実際には良識のある人たちまでが貴方を首にするよう進言してきました」

 その首は、免職でしょうか、それとも本当に首を切れと言っているのでしょうかとも聞けず、リリの頭を撫でてみた。


「その良識のある人からすれば、急に現れた怪しいやつをリリから早く遠ざけようと考えただけかも知れない。

リリからすれば、俺の魔力が他の人よりも強いのは明白だけど、他の人はそんなのわからないんだから。

リリが手品でも見てだまされている。

早く助けなくてはと思っているかも知れないよ?」

「私が頼りないから。王として未熟だからそう思われてしまうのです」

「いや、俺が聞いた噂によると、グレッグ殿下()はとんでもない女っ誑しで、言葉巧みに女王陛下に近づいて、骨抜きにしちゃったらしいよ。

だから、今の女王陛下は、グレッグ殿下の言いなり。

何でも言うこと聞いてくれるんだってさ」


「何でもというわけにはいきません。

ですが、できる限り希望は叶えたいと思います」


 リリにとって、俺は王として守るべき対象になっているようだ。

王としては正しい対応なのかも知れないが、それは少し男としては情けない。

自分のせいで俺が傷ついたと悲しんでくれるのは少し嬉しいような気もするんだが、もう少し‘頼れる人’でありたい。


「そのうちちゃんと‘魔法騎士団’をみんなに自慢できるようにしてみせるから。

女性の騎士隊も作って、リリの側に…って、この説明もしてないね。

ごめん。

さっき言った、ティウィ子爵令嬢のように魔力のある女の子で隊を作り、防御、支援系特化の魔法を覚えてもらい、リリの側にいつもいる人になってもらう。

今の近衛は着替えの時とか外で警護しているから、より近いところでリリを守る隊ということで。

女子隊の候補はミーナ達、ここの侍女さんとかどうかな?」


「侍女を騎士にですか?」


「離宮の侍女は、戦う心得があるっていわなかったっけ? 

動けない人に魔法を教えるより、即戦力だし、リリが信頼できる人たちだろうし。

それに何より、色男(・・)の俺が女の子に声かけると、まじめな人は拒否するだろうし、権力を望む人は勘違いしてくれるだろうから、ややこしい。

だからといって魔法を使える人が少ないここで、女の人だからと諦めるには、子爵令嬢はもったいないくらいの魔力だった。

女の子一人特別に騎士団に入れるよりも、女子隊を作った方が、俺も、周りの人も、隊に入ってくれる人も安心だと考えたんだけど。どうだろう?」


「騎士団所属の侍女というならば許可できると思います。

現在騎士団に女性は入れません。これを破ることはできません」


 いい案だと思ったのだが、だめか。そろいの衣装を着て、女の子だけの騎士団。

華があって、王国の宣伝にもなると思うんだが。


「じゃあ、侍女として騎士団の指導を受けてもらい、使えるようになったら、リリの親衛隊として独立。それなら騎士じゃない…とかにならないかな?」

「難しいと思います。少し考えてみますが」

 本当に俺の言うことを何でも叶えようとしてくれる。

こうやってみんなの願いを何とか叶えようとずっとしてきたんだろうな。

それが正しい王様の姿だと信じて。


「はい、リリ」

 だいぶ眠そうなリリをベッドまで手を引き、座らせると、白い犬のぬいぐるみを手渡す。

一瞬嬉しそうに抱きしめるのだが、大人だからいらないのだという。


「大人だから、必要なんだよ。

いいから、抱っこして横になって。

明日は朝議があるっていったよね? 他の予定は?」

 少しだけ明日のことを話しながら、そのままリリは眠ってしまった。


今日は疲れた。何も考えずに眠れそうだ。


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