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19.祝賀会での発見


 今、俺は珍しく、リリでも、侍女さんたちでもない綺麗な格好の女の子に囲まれている。

こんな事はテスト期間の直前の授業以来だ。

テスト前は普段、授業終了と共にいなくなる学生が、試験問題を探りに来る。

去年はここがでたそうですけど、今年も同じ教本ですか? といった風に。


 一部女の子ではない方もいらっしゃるが、女性の少ない会場のなかで俺の周りだけが女性が多い。

とても華やかなのだが、動きづらい。

伯爵の娘、子爵の娘、もしくは夫人が多く、皆着飾って綺麗にしている。

それぞれが姦しく…失礼。楽しそうに話しかけてくれる。

話題は最近はやりの衣装、装飾品、飲み物、リリの好みなど多岐にわたる。

だが、俺が話をしたい相手は、おとなしくそれらを眺めているだけで、当初の目的はなかなか果たせそうになかった。


 体感では、約一時間前、祝賀会はセニール候の進行でつつがなく始まり、皆で女王陛下の健康と、国の繁栄を祝ったあとは、それぞれに挨拶回りが始まった。

普段会えない領主同士、飲み物片手に雑談だか、腹の探り合いだかはわからないが、談笑し、数名の婦人は互いの服装を褒めたりしていた。

俺とリリもしばらくは一緒にいて、他国の使者や領主たちの挨拶を受けていたのだが、途中でルイスに引っ張り出され、別行動となった。


先ほど帰城したばかりの、武官長にご挨拶にいけと言われたのだ。

騎士団や、国王軍のまとめ役であり、国で一番強い武人が武官長。

これから騎士団を作るなら、その武官長にご挨拶を。というのである。

お世話になる人だからと気合いを入れて行った。


 ルイスが示したのは、口ひげを生やし、胸板厚く、がっちりとした体つきで、白髪交じりの黒髪の役者にでもなれそうないい男だ。

武官長はナーセル侯爵といい、近衛の団長から四十代で武官長になり、今十年目。

この人に怒鳴られると三日うなされるという噂のある怖い人だという。


 武官長は、小柄な男と話をしている最中だった。

娘らしき少女を連れた男と楽しそうに会話している。

邪魔をするのも悪いかと思い、しばらく待つ。

武官長といっても、魔力は強くない。

話をしている小柄な男の方が強い。

さらに言うなら、その側にいる少女の方がもっと強い……。


あれ?


この子だいぶ魔力がある。

年は十五、六。黒に近い焦げ茶の髪を編んで、頭の上の方でまとめている。

ドレスは深い緑一色で、とても地味だ。

おとなしそうな顔と相まって、全体がとても穏やかな雰囲気になっている。


「私の娘に、なにかご用でしょうか?」


 娘本人よりも先に父親の方が俺に気付いて、声をかけてきた。

こういう場合はどう言えばいいのだろうか。


「あとで少しお話をさせて下さい。もちろんお父さんもご一緒に」

 父親に睨まれたので、慌てて後半を付け足すと、不審そうな目で見られた。

うん。確かに俺、怪しいと思う。自分でも。


「陛下の次はテレサ殿か」


 ナーセル侯爵(武官長殿)は怖い顔で俺を見て言った。

完全に勘違いされた。

この子をナンパしに来たのだと。


「はじめまして、ナーセル侯爵。グレッグといいます。

この度、魔法騎士団団長を拝命致しました。よろしくご指導ください」

 焦る心を抑えつつ、若者らしく見えるようきちりと頭を下げた。


「私が教えることなど何もない。

せいぜいしっかりした副官を見つけ、まやかしの腕を磨かれることだ。

陛下勅命の騎士団がまがい物であったと知れたら、御名に傷がつく」


 見せかけだけでも取り繕えば、放置しておいてやるということか。

嫌われている。

完璧に。

できればどこかへ消えてしまえと思っている顔だ。これは。

側の親子も、あまりいい顔はしていない。


 武官長は俺の言わば、上司。

兵士一人異動させてもらうのだって、この感じじゃ、無理だ。


「今、何を言っても侯爵には偽りにしか聞こえないでしょう。

侯爵に認めてもらえるよう人を集め、努力します。しばしお時間を下さい」


 頭を下げて、一呼吸置いてから顔を上げる。

この程度で武官長の気持ちが動くわけはない。

自分を鍛え上げ、前へ進んできた人が、そう簡単に俺のような、‘女の力に頼っただけの男’をまともに扱ってくれるわけはない。

そう自分に言い聞かせて、先ほどの少女を見た。


父親の影に隠れて、俺を見ていた。


「お聞きの通り、今、魔法騎士団では団員を募集しております。

やってみませんか? お嬢さん」


「私?」


 自分を指さして、驚いている少女は焦げ茶の髪、茶色の瞳。

ここの常識なら、典型的な魔力のない容姿。

線も細く、とても騎士にはなれそうもない体型。

だが、魔力はある。


「お待ち下さい、殿下。お戯れはやめていただきたい。

この子は魔法具さえ使えないのです。

そんな子に何をしろというのですか」


 父親がかばうように娘を隠す。

別にとって喰おうとしているわけではないのだが。

傍目から見たらそう見えるのだろうか。


…見えるんだろうな。


「茶色い髪だから、魔法具を使えないから、魔法が使えない。

そんなことはありません」


「己の身を守れぬ婦女子に騎士などつとまるものか。

仮にも陛下の婚約者を名乗るものが、陛下の祝いの席で破廉恥なことをするでない」


 武官長の言いたいことはわかる。

確かにこの子が騎士に向いているかと言われたら、明らかに向いていないと思う。

しかしこの魔力は惜しい。

だが、個人的に魔法を教えるなんて言ったら、さらに怒りを買うことは目に見えているし。

…待てよ。女の子一人に言ったからいけないんじゃないか?


「力の弱い女性でも、魔法が使えれば活躍の場はあると思います。

それに、女王陛下お側近くに女性の騎士がいれば、有用な場面もあるはずです」


「それは、騎士団に女性の部隊を作ると言うことでしょうか?」


 不意に俺の後ろから声がかかった。


閲覧、お気に入り、評価ありがとうございます。

短めですが、連休中も通常営業予定です。

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