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18.王国の移ろい


「陛下、サントリオ伯がお待ちです。お呼びしてよろしいですか?」

 侍従が告げたのは南の方の領主だった。

リリが頷くと、白髪の老人が杖をついてゆっくりと入ってきた。

後ろには四十過ぎくらいの息子らしい男がついてきた。

二人とも魔力はそこそこ。公爵ほどではない。


「立礼でよい、伯爵」

「ありがとう存じます。陛下。

本日はおめでとうございます」

 サントリオ伯はゆっくりとお辞儀をすると、俺の方を向いた。

俺も何か言うべきなのだろうか? 

先ほどの二の舞にならないよう、どうすべきかとリリの方を見てしまった。


……情けない。


「魔法騎士団団長を拝命致しました、グレッグです。はじめまして、サントリオ伯爵」

 息を吸ってから、軽く頭を下げて挨拶をすると、二人がお辞儀を返してくれる。

後ろにいたのはやはり息子で、エイムと言うらしい。


 港町で商船の取り締まりや、漁船の管理などを国の兵と一緒に行っている大事な町の領主だそうで、現在の町の様子や、物価、海賊騒ぎの顛末、治安の報告など細かなやりとりがあった。

リリは、在駐している兵たちからの報告と照らし合わせ、いくつかの質問をし、その答えに納得した様子だった。

何も言えない俺は、ただ黙って聞いていた。

漁獲量も安定して、貿易もうまくいっているし、もう少しもめ事が少なくて治安がよければ、住みやすい町なのだろうなとは思った。

 連絡事項が終わると、伯爵は背筋を伸ばして、ゆっくりと話し出した。


「陛下の新しい始まりの日に、陛下と未来を共に歩まれる方にお目にかかれ、私も安心して息子に爵位を継がせることができます。

こうして最後に陛下のお幸せそうなお顔を拝見できて、この年まで生き長らえたこと、神に感謝致します」

「サントリオ伯、長く王家に仕え、領地に安寧をもたらし続けたこと、私は忘れない。

伯爵位を退いても、我が民に変わりはない。体を厭い末永くこの国を見守って欲しい」

「もったいないお言葉…」

 サントリオ伯は、深々と頭を下げ、目元を拭うと後ろで跪いている息子を示した。


「まだ至らぬ身ではありますが、精一杯、陛下のため、国のため、領主として父の名に恥じぬよう務めさせていただきます」

「エイム・サントリオ伯爵、頼むぞ」

 エイムは、リリの言葉に頭を下げると、父親を支えながら部屋を出て行った。


 間を置かずに次の人が入ってくる。今度は穀倉地帯の侯爵だった。魔力はそこそこ。

背の高さも俺より少し低い黒髪の若い男。


「陛下、おめでとうございます。

妻もまだ動けませんのでお祝いに参上できず、残念がっておりました。

我がオンタリオ領にも新しい命が生まれ、リュクレイ王国の未来はますます明るいですね。

まだ名は決まっていませんが、決まりましたら真っ先にお知らせ致しますね。

いずれは陛下のおそばにお仕えできるよう、二人目を…」


「ジェイムス、まずは第一子誕生おめでとう。

侯爵に無理をさせぬようそなたが領地を守るのだぞ」


「もちろんです、陛下。

今はセリカの代わりにみんなの仕事を見たり、書類仕事もしたり、たくさん働いていますよ」

 自慢げに言ってくれるのは、たぶん俺よりも少し若いくらいの成人男子だ。

けして子供がお使いに来たわけではない。はずだ。

東のおじいさんが転んで怪我をしたので手を貸したとか、子供が泣いていたのでおもちゃをあげたとか領主の報告では必要なさそうなことを延々としゃべっている。


「あの、陛下、発言をよろしいでしょうか? 侯爵にご挨拶しても?」

 終わりそうのない話に、思わず口をはさむ。

確か今日は予定がびっちりで忙しいはずなのだ。

さっきから、侍従がまだかまだかとうろうろしているのが気になって仕方がなかった。


「ああ。グレッグ、こちらはオンタリオ領主の夫、ジェイムズだ。

侯爵は出産のため領地にいる。

オンタリオ領は温暖な土地で、麦や穀物の産地として有名だ」


「そうなんです。グレッグさんと言うんですね。陛下とのご婚約おめでとうございます。

うちにも是非遊びに来て下さいね」

 侯爵の夫にしてはいやに軽い。大丈夫なんだろうか、領地経営。

観光案内なのか、奥さんとののろけなのかわからない話が続き、いささかぐったりとした頃、ようやく侍従がそろそろお時間なのですがと声をかけてくれた。

妻と子供と一緒にまた来ますねと笑顔で言うと、ジェイムズは手を振って去って行った。


「……あれは何?」


「話すのが好きな男なのだ。

セリカの書類もちゃんと届けてくれたようだし、あれなりに仕事はした。

昔からああなのだ」

 確かに領地が平和で、作物もよく育って、今年は困窮しそうな人が少ないということはわかった。

本来なら、あと二、三人と会ってから祝賀会に行く予定だったらしいのだが、ジェイムズの演説で予定が狂ったらしく、そのまま祝賀会へと移動することになった。


 今度は、今までの昼食会や謁見で会えなかった人たちが、リリにお祝いを言うのを待っているという。再び参加者の名簿を渡され、会場にたどり着くまでに覚えて下さいというルイスの無理なお願いに頭を抱えながら歩いた。

お気に入り、閲覧、評価、優しいお言葉ありがとうございます。

おかげさまをもちまして、1ヶ月更新を続けることができました。

見て下さる方がいるおかげです。本当にありがとうございます。

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