16.お願いにはお願いを
「殿下、こちらをお願い致します」
リリが地方の領主たちと会うのに身なりを整えるからと席を外した途端、ルイスが朝の倍くらいの書類を持ってやってきた。
待たされていたのがリリの執務室だったからか、空いていた椅子に座らされ、すぐに書類と格闘する羽目になった。
食事のときのショックがまだ抜け切れていないせいか、少し気分が悪かったのだが、書類仕事をしていると、だんだんと落ち着いてきた。
チェックを入れ、気になるところは質問し、よければサインした。
だいぶ紙の束も減り、血の気も戻ってきた頃、ルイスが別の書類を見せた。
「こちらが今から殿下がお会いになる方の一覧です。
それぞれ国境付近や、穀倉地帯、大きな港がある地域を治める方々で滅多に王城にはいらっしゃいません」
名前、爵位、治める土地の名前と、特徴、本人の髪の色が簡単にまとめられている。
「もしかして、これ覚えろと?」
「昼食には間に合いませんでしたので、是非お願い致します。
もちろん謁見のあとには、祝賀会用のこれとは別のものをお持ちします」
暗記は大得意…だったらよかったのだが。取りあえず名前と爵位だけがんばろう。
「ルイスって、魔法騎士団の方も手伝ってもらえるんだよね?
昨日のお披露目で後ろの方にいた茶色い髪の3人か4人、騎士団に入れるから説得して連れてきてくれ。
明日の午後、東の離宮で面接。準備宜しく。
俺は、これがんばって覚えるから」
「殿下、茶色い髪がこの城に何人いると…。
かしこまりました。では後ほど」
できあがった書類を持ってルイスは部屋から出て行った。
カンニング魔法をもうすでに使っているから、重ね掛けは色々危険だ。
仕方ないので地道に覚える。念のために元の文字でメモを作り、そでの中に忍ばせた。
作業が終わる頃、侍女さんが迎えに来てくれたので、案内に従い、今度は3階にやってきた。
謁見室と言うらしいが、典型的な王の間だった。
数段高くなった所に玉座、その隣には王妃用の華奢な椅子。
床は柔らかい絨毯が引かれている。
絨毯の中央、玉座から端までが一直線に赤く染められ、道のように見える。
案内してくれた女官さんは、一礼すると部屋を出て行ってしまったので、俺とヒースたち護衛だけが残された。
「殿下、こちらでお待ち下さい」
示されたのは、玉座のすぐ下だった。
俺が前方の扉の方を向いてそこに立つと、少し離れたところにヒースたちが控える。
今は黒髪長身のリッジと2人が護衛をしてくれる。
「ヒース、ここに来る領主たちと面識はある? どんな人たちだか知ってる?」
「皆様、前国王陛下の御代から大きな事故も事件もなく優秀な方々です」
模範解答が返ってきた。
そういうのをききたいのではないのだが、ヒースには無理か。
リッジもにこにこと笑っているだけで、その他の意見はないようだ。
「じゃあ、ヒースみたいに綺麗に立つにはどうしたらいい?」
「殿下、もう少し足を開いて体の力を抜いていただけますか?」
ぴったりつけていたかかとを拳ほど開き、言う通りにすると、ヒースが頭と肩と腰を動かして、立ち姿を調整してくれた。
「無理してないのに背筋が伸びてる。楽になった。ありがとうヒース。
今度、剣も教えてくれる? お礼に面白い魔法教える」
「殿下、おやめになった方が…」
「私でお役に立ちますなら」
何だか気になることをリッジが言った。
スパルタだったりするのだろうか、ヒースの訓練。
詳しく聞いてみようかと思ったら、後方の扉が開いた。
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