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15.昼食もお仕事です


「陛下、殿下、お入り下さい」

 騎士が開けてくれた扉の中は、がらんとしていた。

テーブルのない椅子が2脚、端の方に置いてあり、正面にまた大きな扉があるだけだ。

中にいた騎士がその扉を開けてくれた。


「女王陛下、御入室です。皆様ご起立下さい」

 部屋の中から、侍従の声が聞こえた。

椅子を動かす音がしばらく続くと、ようやく侍従長が中へ案内してくれる。

 広間には大きなテーブルが置かれ、一番手前の席とその隣以外は全て席が埋まっていた。

何人いるのだろうかと途中まで数えたのだが、数え切れないなとあきらめてやめた。

何しろ端が見えないのだ。

全員が貴族なのか、それぞれにおめかししてはいるのだろうが、男の数が多すぎる。

華がない。

こういうときは夫人同伴で出席ではないようだ。


見える範囲では三人ほどドレスの人はいたが、話しかけるにはだいぶ遠い。

おとなしくリリを席に案内し、自分も他の人と同じ様に椅子の脇に立った。


「顔を上げよ」

 これも決まりなのか、リリに近い方から順に顔を上げていく。

ダンスの練習でもしているように綺麗に順番通りだ。

思わずあとを追うように見ていたら中程にいた侍従に渋い顔をされた。

ゆっくりと顔を戻すと、真向かいはあまり見たくない顔筆頭だった。


 リリが椅子に座ったのを見て、同じ様に席に着くと、お辞儀と同じ順番でやはり皆座っていく。

笑ってはいけないのだろうが、なんだか滑稽な感じだ。


「今日この日に、ここに皆が集えたこと、嬉しく思う。大儀である」

 テーブルの上にはたくさんの料理が並び、リリの言葉のあとに、侍女さんたちがやってきてそれぞれに飲み物を注いでくれた。

甘いにおいの果実酒と、爽やかなにおいの水だろうか、ジュースだろうか。

全員に順番通りに配ったらどれくらいかかるんだと心配になったが、これは特殊なのか、効率を考えたのか、十人ほどに二人侍女さんがついてその中での順番通りを守っているらしい。

程なく全員に行き渡ったようだ。


「神に感謝し、恵みをいただこう」

 食前の祈りが始まったので、毒殺対策。

今回は広範囲に魔法をかけてみる。

反応はなかった。

見えている範囲だけだから、飲み物を注ぎ足されたり、知らない間に皿を交換したりされたらわからない。

 毒消しの魔法も一緒に載っていたんだが、あれ、思い出せるかなぁ。

かなり長くて、普段使わない単語が混じっていたから、思い出せないかもしれない。

応用の利きそうなのは他に何かなかったかな…。


 悩んでいる間にお祈りは終わり、リリがジュースと、果実酒をそれぞれ一口ずつなめた。

それを合図に食事が始まったようだった。

 生野菜に、豆の煮たのに、イモみたいなののムースのせ。

果物のような赤いものに、貝のようなものの載ったオードブル、それとパン。

飾り付けはどれも花のようになっていたり、絵画のようだったり、とても綺麗なのだが、朝食より質素な気がする。


「グレッグ、目の前が文部右大臣のソロン公爵、隣は左大臣のセニール侯爵。

二人の隣はそれぞれの大臣補佐だ」

「グレッグです。宜しく…」

 公爵に、ぎろりと睨まれ途中で言葉を飲み込んだ。敵意たっぷりだ。


「あの程度で、女王陛下に取り入ろうとは、さすがお生まれが違う」

 リリにも聞こえるだろう声量だが、気にする風はない。

どんなところで何を言っても責められることはないという自信があるのだろう。


「そうですね、私なんかよりも、世の中にはもっと強い魔力の方がいると思います。

ご存知だったら紹介して下さい。

是非魔法騎士団に入っていただかないと」


「殿下、私はいかがでしょうかな? 

若いときは騎士に憧れたものですが、どうにも剣より書類仕事の方が性に合っているとわかりあきらめたのですが」

 侯 爵(セニールさん)がにこにこと話に入ってきた。

目の前の人は見えないことにして、セニールさんの方を向く。


「あと二十年くらいお若ければお願いしたかもしれません。

近衛に負けないとはいいませんが、ある程度体力も必要ですし、時間も拘束されますから、大臣のようなお忙しい仕事と両立は難しいと思います」

「それは残念。

私の甥の子や、ここにいる大臣補佐ネビス伯の子供たちが殿下の昨日の魔法を見て是非自分も魔法騎士団に入りたいと申しておりました」

「それは楽しみですね。

でも、騎士団の入団試験をしますよ? 

それに受からなければいくら大臣のご親類でもお断りしますが、いいですか?」

「もちろんです。その試験とはいつどんなことをすればよろしいのですか?」

 かなりいい食いつき方だ。

訊いてきたセニールさんだけでなく、周りの貴族も耳を澄ませているのがわかる。

魔法が使えることが偉いことにつながっているなら、魔法騎士団という名前だけでもそこに所属すれば、何かしら利益を得ることができると考えているのだろう。


「いつ、というのはまず、東の離宮が調って、私の準備ができてからですからはっきりとは言えません。

騎士団の規約や、考えに沿った行動ができるかどうか。

体力があるかどうか。そういったことを試させてもらう予定です」


「殿下、お話の途中失礼致します。

魔力の試験はなさらないのですか?」

 黒髪の大臣補佐ネビス伯が不思議そうに訊いてきた。


「茶色い髪や瞳で、ずっと魔力がないと思い込んでいる人もいるかもしれないし、魔法の使い方がただ下手なだけの人もいるかもしれませんから、魔力の試験は重視していません。

訓練すればある程度のことはできます。

まずはたくさんの人に試験を受けてもらいたいですから」

 宜しくお願いしますねと周りに向けてアピールしてみる。

これでやる気と魔力のある人が来てくれるかもしれない。

魔力に自信があるネビス伯は少し不満そうだったが、殿下のおっしゃる通りかもしれませんねとお世辞を言ってくれた。


「正式な魔力試験などしたら、殿下がお困りになるだけでしょうからな」

 それほど大きな声ではなかったが、公爵の言葉に座が静まりかえる。

まあ、いいたいことはわかる。

おまえの魔法は正式なものでもないし、威力もないのだろう。

化けの皮がはがれる前に出て行け。だろうな。きっと。


「私の魔法は全て自分で作ったものですから、皆さんには奇異に映るのでしょう。

生きていくために必要で作ったものですから、威力は保証します。

もちろん騎士たちには最初から教えますから、もしかしたらほとんど魔力のない人でもがんばればある程度使えるようになるかもしれません。

私のようにね。

ただ時間はかかると思いますので、五十歳以上の方にはご遠慮いただくかもしれませんが」

 言ってちらりとソロン公爵を見る。

公爵は悔しそうに顔を歪め、今にも席を立ちそうだった。


「我が国の誇る優秀な騎士の名に負けぬよう頼むぞ」

 今まで黙って話を聞いていたリリが励ましてくれたので、はいと返事をしておく。


 それが合図だったかのように、何か大きなものが運ばれてくる。

小さなテーブルのようなカートに、花や何かで飾り付けられた大きな茶色いもの。

香ばしいにおいと、肉の脂の何ともおいしそうなにおい。

大きさは仔牛程度だが、見た目はブタのようで、まん丸いからだが綺麗に焼き目がついて丸焼きにされている。

運んできたのは侍従長だった。

彼がリリにナイフを渡すと、女王自ら背の部分にナイフを入れた。

すると。


「おめでとうございます。陛下」


 おめでとうの合唱と拍手が起きた。

不機嫌そうな人たちも手を叩いているので、当然俺もそれに倣っておめでとうございますと言い拍手する。

誕生祝いの儀式のひとつなのだろう。

こういう誰でも知っているだろう事は誰も教えてくれないから困る。

侍従長と侍女がこれをサーブしてくれるようで、軽く頭を下げてから、リリの方を向き改めておめでとうをいう。

これは間違っていなかったようで、それぞれが皿をもらうと、女王陛下に一言言っていた。


 頼むよルイス、こういうの教えといてくれよ。


変な緊張にどきどきしながら、グラスに手を伸ばそうとして止まる。

先ほど飲んだはずなのに、中身が増えている。

肉という新しい食べ物もあることだし、手早く毒味の呪文を唱えると、果実酒が赤く光った。

酒を注ぎ足してくれただろう侍女が持っているビンは反応なしだったにも関わらずだ。


心臓がぎゅっと掴まれたように苦しくなり、背中に冷たい汗が流れた。


危なかった。


「どうかなさいましたか? お顔の色が優れないようですが」

 声をかけてきたのは、ソロン公の隣の大臣補佐だった。

おまえがやったのかと聞きたくなるようなタイミングだ。


 彼の手は届かないだろうが、魔法で毒をグラスの中に落とし込むくらいはできるだろう。

これだけ人がいて、動いていれば発動に気付かなかったかもしれない。


「少し、緊張して飲み過ぎたようです」

「おや、まぁ。それは情けない」

 小さな声だったがはっきり聞こえた。主従共々俺が気に入らないようだ。

少しだけ手が震えたがジュースを飲む。

一息つくと、リリが心配そうにこちらを見ていた。

大丈夫だよと笑顔を向けてみるが、少し引きつっていたかもしれない。


「陛下、婚礼はいつにいたしましょうか。

今からですと、八ヶ月もあれば完璧なお支度が調います。

ちょうど、夕刻の祝賀会には近隣の国の使者もいらしてます。

大まかな日付でもお知らせいただければありがたく存じます」

 言葉遣いは丁寧だが、セニール候は結婚式の日取りを早く決めろという。

ついでに他国にも知らせて、面倒ごとは早く終わらせようということなのか、かわいい女王に完璧な結婚式をと思っているのかはわからないが、リリはどうするのだろうか。


「来年の今日と思うていたが、風の月の収穫祭あたりがよいであろう」

「はい。お祝いは早いほうがよろしゅうございます」

 女王様は顔色も変えず、さらりと答えた。

セニール候と補佐はとても楽しそうにその頃ならあれがいいこれがいいと提案をはじめた。

他の人たちもそれに参加し、昼食は和やかに終わったようだ。

一部を除いて。

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