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14.みんなの女王様

 馬車が止まり、外からノックされる。

ゆっくりと扉が開き、外はずらっと城の入り口まで騎士が並んでいる。

怖い顔の男たちが片手を胸に当ててこちらをじっと見ているのである。

その真ん中を歩かされるって…。外出するたびにこれでは気が滅入る。


 深呼吸して、気合いを入れてから外に出る。

リリに手を貸して二人でゆっくりと城に入る。

どこへ向かっているのかわからないが、騎士と侍従が先導してくれているらしい。

廊下をしばらく歩き、階段をいくつも上がり、リリの息が乱れる頃、ようやっと目的地に着いたのか、皆の足が止まった。


 少し広い部屋には、大きなソファと白い壁にいくつかの絵画が飾られているだけ、特にこれといって何かをする部屋には見えなかった。

とりあえずリリをソファに座らせて、自分はその脇に立つとぐるっと周りを見てみる。

 入り口には門番のように騎士が二人。

窓際にも四人が等間隔で並んでいて、侍従長が騎士達と同じように黙って立っていた。

リリの側には侍女が二人やってきて、髪やドレスの裾を直したりしている。

わざわざ階段を上ってきた意味がわからない。


「陛下、宜しいですか?」

 侍従長が侍女達の様子を見てそう聞いた。

リリは鷹揚に頷くと俺の方を見上げる。

年嵩の騎士が合図をすると、四人がすっと動き、大きな窓を開いた。


 外の音が一気に部屋の中に入ってくる。

音が壁のように迫ってぶつかって、痛いくらいだった。

窓の外は広めのバルコニーになっていて、そこにも騎士達が並んでいた。

その下には人々がリリの姿を見ようと集まっているようだ。


 リリの手をとり、外へと向かう。

わっというか、どっという感じの歓声を浴びながらリリの方を見る。


女王陛下はただ静かに立っていた。


にこりともせず、手も振らず、背筋を伸ばしてただ立っているだけだ。

同じようにまじめな顔をしてリリのそばに立ち、目だけで下を見てみる。

 城の中庭と城壁にびっしりと言っていいくらい人が集まっている。

きらびやかな服装の男女が中庭には多い気がする。

こちらに向かってお辞儀をしている人、祈るような仕草の人、ただ見上げるようにしている人、大きく手を振っている人と様々だ。


 女王陛下を祝福する声が続き、途絶えることはない。

耳が慣れてきたのか、麻痺してきたのか、だんだんとその歓声が苦ではなくなってきた。


「リリ、こんな風にみんなに声を届けることくらいはできるよ?」


 音を直接リリの耳に届けると、小さく頷くのが見えた。

拡声魔法で今見える範囲に声を届ける。

これだけうるさいと気付かない可能性もあるかもしれないと思いながらも、まずは鈴のような金属音を広範囲に響かせてみる。


 ざわめきは聞こえてきたが、歓声は一時おさまった。

リリの方を向いてどうぞと言うと、彼女は大きく息を吸った。


「我が愛する民よ。我が国は神の恩恵を受けた。

皆にも神の祝福があらんことを」


 ゆっくりとそれだけ言うと、リリの手が動き、俺の手を軽く握る。

拡声魔法をやめると、しばらく水を打ったように静かになった。


 人々は顔を見合わせ、自分だけに聞こえたのではないことを確認すると、女王陛下を見上げて、それぞれに叫んだ。

神に祈っている人たちもいたが、ほとんどの人が顔を赤くして、声を出している。

 今までで一番の歓声に少しだけ耳を塞いでしまった。


 隣を見れば、先ほどと同じ様に前を向いて微動だにしない女王様。

 耳に当てた片手を戻し、慌てて姿勢を正す。

 市民の熱狂はおさまらず、兵たちが少し動いているのが見えた。

これをおとなしく帰すのは至難の業だと思うが、優秀な近衛たちはそれをこなしてしまうのだろう。

女王は軽くあごを引き、俺に合図すると、ゆっくりと部屋へと戻る。

歓声を背中に受けながら、中へ入ると、静かに窓が閉められる。

その途端外の音がまるで遮断されたように、ぴたりと聞こえなくなった。


「おつかれさまでした。お召し替えのあと会食となります。陛下はこちらへ」

「殿下は階下の客室を更衣室といたしましたのでそちらへおいで下さい。

私がご案内申し上げます」

 リリは侍従長に同じ階の部屋へと案内され、俺は侍女さんのあとについて、一階下の奥まった部屋に案内された。

そばにはいつの間にかヒースがついてきてくれていた。


 会食と、謁見用に着替えさせられたのは紺色の上下。

肩と胸のあたりに金の飾りがついていて、華やかな衣装だった。

ルイスの案内で二階の艶のある大きな扉の前へと連れてこられた。

廊下に警護のための騎士以外はいない様で、しんと静まりかえっていた。

ここで話をするのもなんだか気が引ける。


 廊下を見ていても、リリがやってくる様子はない。

ルイスの方を見ると、彼は小さく頭を下げ、小さな声で話し始めた。


「殿下のお席は陛下のすぐお隣、左側となります。

陛下に近い方が爵位の高い方。

遠い方は爵位の低い方です。

現在殿下は、他の皆様よりも高い身分と見なされます。

基本的に、会食中は下位のものから話しかけることはなりません。

陛下からお声がかかるまで決して口を開かないようお願い致します」


 難しい決まりがあるようだ。

食事中はしゃべってはいけないというわけではないらしい。

リリが来る前に色々聞いた方がいいかもしれない。


「俺から他の人に話しかけるのも陛下に話しかけられてからの方がいいのかな?

あとは陛下より先に食事に手をつけてはいけないとか、そんなのはないですか?」

「できれば全て陛下の後にお願い致します。

テーブルマナーに関しては、音を立てず、器を持ち上げずに召し上がっていただければ大丈夫だとうかがっています」


「うかがっています? 誰に?」


「離宮の侍女たちや、本宮の給仕をした侍女に聞き取りをいたしました。

殿下は貴族ではないと承りましたので、本来なら所作などを学んでいただいてからと思うのですが…。

いえ、急でしたので基本的なことだけ手短に説明させていただきます」


 明らかに、リリの隣に立つのはまだ早いんだぞと言われている気がする。

ルイスからしたら、身分も教養もないだろう男が城の一番いい席に座ろうというのだから、少しでも完璧に近いものにしたいのだろう。

手短にというにはかなり事細かな説明をされ、本日の朝食のときに食べた野菜の食べ方が違うとか細かい指摘も受けた。


 確かあの時はミーナと給仕をしてくれた侍女さんが二人。

その誰かが俺の所作を見て覚えていて、それをルイスに報告したと言うことだ。


 王宮、怖いとこだな。


 覚えきれないほどの基本的なことをルイスに聞かされながら待っているとようやくリリがやってきた。実際綺麗なのだが、本当に女神に見えた。


 淡いブルーのシャープなドレスに金の髪を高く結い上げ、銀のティアラをちょこんと載せている。

あまり開いていないドレスの首回りには銀糸で綺麗な刺繍が施され、装飾品をつけていなくても華やかな感じがした。


 誰の手も借りず歩いてきたリリがすっと俺の肘に手を載せた。

思わずにやりとすると、リリが不思議そうな顔をしていた。


閲覧、お気に入りありがとうございます

長さは適当でしょうか?

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