12.予想外の魔法事情
「この国で魔法を使える人はそんなに少ないのかな?」
「城にいるものたちの中には三十五名。地方の領主たちは数名が使えます」
「え? それだけ??」
俺が見た騎士団だけで五十名はいるだろうし、昨日の広間には三〇〇名近い貴族と、倍近い兵士や侍女やらがいたはずだ。
魔法使える人が一割よりも低いって。
先行きがだんだん暗くなってきた。
「俺のとこはまるきり使えない人がほとんどいないくらいだったから。
リリは、魔力がある人と、魔力の質がわかるんだから、リリに見てもらえば魔法騎士団とかすぐに人が集まると思ってたけど、かなり真剣に集めないと厳しそうだね」
「私が見てわかるのはかなり力の強い人や、特徴の強い人。
または、すぐ側にいる人なのです。
大勢が一カ所に集まっていたり、謁見などで遠くにいるとはっきりとわからなくて」
「今まで見つけた人はどうしたの?」
「クレインに任せました。近衛として適切な能力があれば近衛に。
それ以外は警備兵や、国境の守備隊などに配属されています」
近衛や国境の方から人を持ってくるのは不可能。
本人の希望があれば警備兵くらいは何とか勧誘しても怒られないかもしれないが、苦情が来るだろうなぁ。
人事に外部から横やりが入るの俺も嫌だったもんなぁ。
そうなると、新しい人を見つけ出さないといけない。
魔力があっても魔法が使えないリリのような人を集めて、使えるようにする。
これはだいぶ時間がかかりそうだ。
「俺がだいたい魔力の高そうな人を集めて、一人ずつ面接。
それをリリに見てもらえば…」
「それはできません」
「時間がない? それとも何か他に理由がある?」
「魔力が見えること、父に秘密にしろと言われているのです」
「え? 俺は聞いたけど?」
「グレッグは特別です」
真顔で断言されると少し照れる。
探査系の魔法がないと思われている世界で、リリの力は異質なのだろう。
お父さんとしては、かわいい娘を守るために言ったのか、それとも、王様として世間を混乱させないためになのか。まるっきり別の理由という可能性もあるな。
それは置いておいて、取りあえず、特別というのはなんかいい響きだ。
「ありがとう。
もちろん今日みたいにリリには変装してもらう。
リリに何かを判断させているなんて思わせない。
それでもだめ?」
「私の言うことは嘘かもしれませんよ?」
「少なくとも今日の二人は俺が見ても魔力のある子供だった。
あれくらいの年だとまだまだ成長する可能性がある。
得意分野がわかっているなら、教えるのもやりやすいし。
リリの言うことが間違っていても、それはその時本人と相談していけばいいだけだしね。
リリには魔力ってどんな風に見えるの? たとえば俺とかは」
「グレッグの力は全て、満遍なく強く、綺麗です。輝く太陽のような光」
「リリには魔力は光に見えるんだね。俺の場合は、至近距離だと熱が一番近い感覚かな。
ほわんと温かいような。ああ、この人は魔力があるなと感じる。
広範囲で探索魔法をかけたときは、星の光かな? 強い人ほど目立つ感じ」
実際に魔力のある人を探しながら感覚をいってみる。
なんだか昨日より魔力の高い人が多い。人が集まっているのだろうか。
「クレインに協力してもらって、リリを町に連れ出して探すのは無理だろうね」
「そうですね。普段なら町に出る時間はありません。
それに、クレインにも魔力が見えると知らせているわけではありませんから。
何度も町に出るとなると、止められるでしょう。
いつも魔力が高い人を見つけると、その人が気に入ったから、雇ってくれるようにとお願いしているのです。私のわがままとクレインは思っているみたいです」
不思議そうな顔をしていたのか、リリはそう説明を付け足してくれた。
「そうしたら、今日の子もそう思われて、兵士の見習いとしてスカウトしちゃったかな?
俺頼むとき、魔力があるからとか詳しいこと全く言わずに頼んだから」
「明日、そちらも手配します」
取りあえず団員見習一名か。
明日は忙しいそうだから、明後日から団員募集のビラでも配るかな。
そうだ、明後日と言えば。
「明後日エルと昼食の前に東の離宮で魔法を見せてもらって、今日みたいに外で昼食。
そのあと、エルと、もう一人の金髪の子と一緒に簡単な魔法の勉強会をしようと思う。
リリも少しだけ参加してくれると嬉しい」
「はい。少しだけなら朝議のあとにご一緒できます。
東の離宮は元々王族専用の鍛錬所でしたから、広い中庭もありますし大勢でなければ部屋も使えるはずです」
「本当にリリは、俺の言うこと何でもきいてくれて。大丈夫?」
編み込まれた金の髪をなぞるように指を這わせても、嫌がることなくじっとしている。
リリには目をつぶってと言い、さわり心地のいい髪から手を離し、自分の衣装部屋へと入る。
目的のものを持って戻り、小さく呪文を唱えてから人差し指でいくつかまるを描く。
「リリ、目を開けてみて」
いくつもの小さな光りの粒が、小さな円を描いてリリの周りを踊るように回る。
イメージは妖精のダンスだ。
「リリ、二十歳の誕生日おめでとう。
この光の数くらい沢山リリに楽しいことが訪れますように」
小さな子供のように手を伸ばして、光を追いかけていたリリが嬉しそうに俺に微笑む。
女王陛下の作ったような笑みではなく、花が咲いたような、明るい笑顔。
すごい強力だ。かわいすぎる。
「ありがとうございます。グレッグの心のようにとても、とても綺麗です」
「俺の心は綺麗じゃないので、リリは今日からこれをだっこして寝てください。
安眠と、俺のために」
押しつけるように昼間買った人形をリリに抱かせる。
金髪美女が可愛らしい白いふあふあの犬のぬいぐるみを抱いて小首をかしげている。
これはこれで…。
「リリ、おやすみ。いい夢を」
「……おやすみなさい」
頬に挨拶を受けて一瞬動きが止まったが、促すと、リリはそのままころんと横になり、ぬいぐるみを嬉しそうに抱いたまま目を瞑った。
寝付きがよくて結構である。
少しだけ距離を開けて俺が横になる頃には、すやすやと可愛らしい寝息が聞こえてきた。
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