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11.魔法具ってどんなもの?

 着替えを持って寝室に戻ると、ちょうど侍女が一人、俺を少し遠慮がちに呼んでいた。

リリが呼んでいるという。

 衣装部屋に入ると、夜着に包まれたリリ。

濡れた髪を侍女が乾かしているところだった。

側に行って、髪に手を触れ、呪文を唱えると金の髪がふわりと乾く。


「ありがとう、グレッグ」


 少しだけ女王様に戻ったリリがお礼を言ってくれた。

顔色は風呂上がりのためか悪くないが、まだ少し硬い表情のままだ。


「いつでもどうぞ。俺も風呂に入ってくる」


 侍女たちの好奇の目をなるべく気にしないように浴室へと向かう。

ハンナさんの案内で脱衣所まで来たのだが、一人にしてくれる様子はない。

貴族なら手伝ってもらうのが通常なのだろうが。


「一人にしてもらえますか? 用があったら声をかけますから」


 ハンナさんは浴室の中を確認して、静かに一礼して出て行ってくれる。

これも暗殺予防の一環なのだろうか。

一人だけの空間に少しほっとしながら風呂に入る。


 昨日俺が現れたところにも何の異常もなく、少し蒸し暑い広い風呂場は静かだった。

同じ場所にもう一度立ってみるが、変化はなく、わかることもなかった。


「まじめに理論組み立てるかな」


 今のところ特に帰りたいと思わないからか、やる気は起きない。

今日市場を見て思ったのだが、少し変わった外国に来ているようなそんな気分なのだ。

言語も何とかなった。食べ物も毒さえ入っていなければおいしい。

美人も多いし、リリもかわいい。

なにより、うるさい主任方もいないし、面倒な学生もいない。

知人友人に会いたくなるほどの時間もたっていないからというのもある。

普通の魔法を使っただけで感心してもらえるのも優越感が満たされて、悪くないと思ってしまう。

まぁ、このままだと自分がだめになりそうで怖いが。


 のんびりと湯につかりながら色々考えてみる。

まだ、夢の中にいるようでぼんやりしているが取りあえず明日からやりたいことは決まった。

昼間買ってきた簡易な服に手早く着替えてリリの衣装部屋まで戻る。

待っていてくれたのか、ハンナさんが寝室への扉を開けてくれた。

 リリは昨日と同じようにソファに座り、俺を見た。

昨日よりはきっちりと編み込まれた金色の髪、手首と足首まで隠れる真っ白い夜着。

ただ座っているだけなのだが、品というのはにじみ出るものなのだと実感する。


「リリ、明日の予定は?」


 隣に腰掛けると、リリと同じ飲み物が目の前に置かれる。

ミーナともう一人彼女よりも少し年上に見える侍女が世話をしてくれるようだ。


「明日は午前に教会で祝福を受け、昼前に城に戻り国民に顔を見せ、公爵たちと昼食。

そのあとは、地方領主や貴族たちとの面会。夕刻からは祝賀会となっている」

「忙しそうだね。俺はリリの隣にいてもいいのかな?」

「是非」


 頼ってもらうのは悪くない。

リリとしては俺を守ってくれようとしているのかもしれないけれど、公の場にリリの隣に立つ男として出て行くのはどうなんだろう。


「リリの婚約者として、目立っていいと理解したけど?」


 少しだけ悲しそうな顔をしつつも頷くリリ。

彼女の心はもう決まっているようだ。

それならば、俺がどうこう言うわけにもいかない。

何しろリリは女王様なのだから。

リリの手を取り、ベッドに腰掛けさせると、侍女たちは静かに部屋を出て行った。


「さっき、ミーナと話をした。俺は事故でここに入ったこと。

リリの敵と立ち向かえるように協力して欲しいこと。

ミーナは俺がリリの敵にならない限り手伝ってくれると約束してくれた。

ただし、俺がこの世界の人間ではないことは言ってない。

これから先も誰にもいうつもりはない」


「グレッグはダンガリアに近い山中の生まれで、私がかの国に父の代理で赴いたとき、道中の私を見かけた」

「そう、それで一目惚れして、魔力を上げて、昨日ここにやってきた。

確か十年前の今頃って事だったよね。てことは、十六のときに十歳の子を見て一目惚れか。

ちょっと怪しいやつだな。リリなら十歳でもかわいらしい子だったろうけど」


 いつ訊かれてもいいようにとリリと打ち合わせた偽の馴れ初めは誰にも訊いてもらえず、今に至る。

これから先いつ訊かれてもすらすらと答えられるようにしておかないといけない。

できればその頃のリリの姿がわかるものとかあればいいんだが。


「その頃の肖像画ならありますが」


 見せて欲しいというと、リリは、ベッドそばの石壁に手をそっと当てた。

何もなかったはずのただの石の壁がスクリーンとなる。

最初に映し出されたのは若い男。王冠をかぶり、立派な姿。多分リリの父親だろう。

次は、リリよりもほっそりした金髪の女性。そして、小さな少女が映し出される。

肩を少し過ぎるくらいの金色の綺麗な髪。

明るい紫のドレスに白いレースがふんだんに使われ、少女が嬉しそうにこちらを見ている姿。

これなら一目惚れもおかしくない。かもしれない。


「この子のために頑張って魔力あげる…かな? 山の中で育ったから純粋だったと言うことで押し通すことにしようか。

これが魔法具?」

「はい。絵画を何枚も納めておくことができるものです。

特注で作らせたのでこれと同じものはありません。二00年近く前の天才の作品といわれています」

「魔法具を作る天才か。

この国は魔法より魔法具が主流みたいだね。

明かりも、料理なんかの保温もそうだし、風呂場の換気に保温に水回りもそうなのかな?」

「そうです。この離宮の多くは魔法具です。城や商家などでは魔法を使える人はわずかだから、魔法具が中心です。

今のリュクレイにあるほとんどの魔法具はサングレイの発明だといわれています。

少ない魔力でも動かせる技術は今でもわからないようです」


「わからない? つまり同じものは作れないということ?」

「いいえ。まるっきり同じものなら作れます。中の構造を真似ればいいのです。

しかし、一カ所でも元と違うものは正しく動かなかったり、必要な魔力量が違ったりとほんのわずかな差でも許されない構造になっているのだと技術者たちは言っています」

「そのサングレイさんの技術を継いだ人はいないの? 

それでこの国の特産品は魔法具?」

「技術をまとめた書物があり、それを王宮で管理しています。

現在でもそれを元に製品を作っています。

他国でも類似品はありますが、やはりサングレイにはかなわないというのが結論のようです。

現在我が国の主要な産業のひとつです」 


 少し誇らしげに言うリリ。

 魔力の弱い人でも使える道具は確かにどこの国でも需要があるだろう。

中身を分解してもまねできないくらい精巧なものが多いのかもしれないが、新しく設計図を引くことができないのならば、少し厳しいかもしれない。


「魔法具は、決められた場所に手を触れて魔力を流すと作動する感じかな?」

「はい。魔法具にもよりますが、使用者が魔力を流すと、それを貯蔵して、長時間利用ができるよう工夫がされているそうです。

ほとんどのもの、特に離宮の中のものは魔力が少なくても使えるように工夫がされているとのことです。

市販のものの中にはある程度の魔力が必要なものがあると聞きました」


「魔法具の書物見せてもらったりできないかな?

簡単なやつでいいんだ。それと、信頼できる技術者も紹介してくれるとありがたい」

「グレッグは魔法具をつくる心得があるのですか?」

「手先はわりと器用だと思うけど、心得があるわけじゃない。

俺のとこにはないものだから純粋に興味がある。

魔力を貯める装置なんて考えもしなかったから。

機械ものの中を見るのって面白いし、普通の人が分解してどうにかしようとしてもわからないようにできてるんだろうし。

色々聞いても変に思われないよね?」

「わかりました。近いうちに時間をとれるように手配します」

「それと、こちらは早急になんだけど、魔法が少し使えて、口の堅い人を紹介して欲しい。

こちらの魔法が見てみたい。

できれば俺の魔法に疑問を持っても、そのまま騎士になってくれそうな人がいい」

「こちらから魔法騎士団に推薦したいと思っていた者ならいます。

騎士になるにはまだ若いと言われて、今は近衛で見習いをしているカルドア伯の子息です。

明日は無理ですが明後日なら大丈夫です」


 明日は生誕祭というやつでリリと俺の体は空かないらしく、びっちりとやることが決まっているらしい。

閲覧、お気に入りありがとうございます。

長すぎるので途中ですが、切りました。


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