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10.見栄と嘘と真実 その2

リリが着替えと風呂に連れて行かれた間、暇になった。

朝方見た侍女と、ミーナが部屋を整えたりしている。


「ミーナ、昼間俺が持ってた荷物ってどこにあるのかな? まさか捨てちゃった?」


 片付けというよりは俺の監視といった侍女に話しかけてみる。

やはりご機嫌は麗しくないようで、きっと睨むように見てから、こちらですと案内される。


 寝室の奥の方に昨日はなかったはずの扉ができている。

正確には、昨日は取っ手がなく、ただの色の違う壁だったところにドアノブがついて、扉になっていた。中は寝室よりもだいぶ小さな部屋。リリの衣装部屋をぎゅっとコンパクトにまとめたような雰囲気だ。

衣装箱と小さな棚、クローゼットらしきものがあり、その横に今日持って帰ってきた袋と、人形だけが丸椅子の上に置かれている。


「ここは?」

「殿下の衣装部屋です。服と靴は殿下のサイズに合わせて直したものからこちらに運ばせます。

何かお入り用のものがございましたらお申し付け下さい」


「大事なリリを取った相手に随分丁寧だね?」


「他にご用がなければ失礼いたします」


 けんかをしかけたつもりだったのだが、相手にしてもらえなかった。

さっさとじっくり話し合いたいと思ったのだが。

愛想の悪い侍女は、そのまま出て行こうとする。

その肘のあたりを捕まえてみた。


「金貨の入った財布と服は? ミーナが持っているの?」


 射殺されそうな視線をうけて、手を離し、少し後退る。どちらが気に触ったのだろうか。

服はきれいに畳まれて衣装箱の中、財布と銅貨は一緒に鍵のついた棚に入っていた。


「こちらが鍵です。

殿下は、陛下の婚約者となられました。

以後、このような格好で城内を歩き回られることのないようお願いいたします」


 いけなかったのは服の方だったらしい。

大事な陛下の婚約者がこんな格好で外に出るなと言いたいようだ。


「ミーナは何が不満? 俺の顔? 性格? 身分?

それとも、俺がリリを害そうとしていると思っている?」


「失礼ながら、殿下、昨日はどうやってこの部屋にお入りになりました?」

「移動魔法。入ったのはこの部屋じゃないけど。この離宮よりもだいぶ離れたところから直接リリの部屋に入った。お城の中を見たのも今日が初めてだし、お城の庭も初めて入った。

他には?」


 嘘は言ってない。だから少しも後ろめたくはない。

いくら睨まれても、見つめられても動揺しないのを見てあきらめたのか、納得したのか、彼女は少し息をついた。


「…魔力が高いというのはわかりました。貴族ではないというのも。

率直に伺います。陛下をたぶらかしてどうなさるおつもりですか?」

「まだ、誑かしていないよ? 

どうしたいかというなら、リリにはかわいくて幸せなお嫁さんになってもらって、平和な国の女王様でいてもらう。

できれば早く俺に惚れてもらって、幸せな家族になってもらおうと思ってるけど?」


「ご冗談を」


「リリをいいなりにして、この国を乗っ取って、俺が王になるとか言えばミーナは納得する? 

そんなことしないよ。この国はリリが一生懸命守ってきたものだろう? 

俺は…ただ美人なだけのリリだったらそれも考えてもいいかもしれないけど。

リリはあの美貌で中身はかわいらしい女の子だ。

そんな子が困っているのに手を貸さないのは男としておかしいと思うけど? 

それに、リリの中身が外見に追いついたときが見てみたい。

できれば俺の手で追いつかせたいってのが男の夢だと思うけど?」


「変態」


 ミーナは小さな声だが、吐き捨てるように言った。

それほど変なことを言っているとは思わないんだけどな。


「リリは大事に大事に守るよ。心配なら見張っていればいい。

今まで通りにね」

「私は、陛下にお仕えするものです。私の命をかけても私が(・・)生涯陛下をお守りします」


 ミーナは本当に強い人のようだ。ここまで言ったのに立て直した。

普通なら侮辱されたと言って、平手打ちくらいされそうなものだが、それもなかった。

穏やかとは言いがたい表情だが、俺を怒鳴りつけるようなことはしない。

自分がリリを守るんだという強い意志を感じる。


「そうだね。やっぱり、ミーナの反応が普通だよね。きっと」


 自身が女性で、突然現れた男に、しかも他の人が使わないような怪しい魔法を使う男に警戒心を持たない方がおかしい。

気絶するほどの美形だったり、世の女性が夢に描くような理想の男だったりしたら話は別なのかもしれないが、残念ながら俺の容姿はそれらに該当しないだろう。

リリに一目惚れされた自覚もないし。


「突然目の前に現れた男にミーナだったらきっと攻撃するとか、人を呼ぶとかするだろ?

リリはね、俺を見た途端、夫になれって言ったんだ。

リリはそんなに困っていた? 敵しかいなかった?」


「…私は、幼いときから陛下にお仕えしてきました。ずっとお側におりました」


「ミーナやクレインをリリは頼りにしている。たぶん大臣のセニールさんも。

君たちにもリリは助けてと言えなかった。

いや、君たちだからか?

 ミーナ、リリにとっての敵って誰? 

何をしたら俺はリリを助けてあげられる?」


 今までのからかうような嘲るような口調ではなく、まじめに話しかけると、ミーナは先ほどまでよりも幾分穏やかな目線で俺を見た。


 知らない人がいきなり近寄ってきたら、人は警戒する。

それが自分や自分の大切な人を傷つけそうなら全力で排除しようとする。

排除できなければ関わらないようにする、壁を作る。または、無視する。

自分が傷つかないように。

それが普通の人の反応だと俺は思っている。

まして、彼女たちは権力の中枢にいるのだ。

どんな人でも彼女たちに愛想を振りまき、気に入ってもらおう、取り入ろうとするのをずっと見てきたはずだ。

表面は笑顔で優しく接していても、心の中では警戒を怠らないくらいのことはするのが普通…だと思ったのだが、リリもミーナもちょっと違うようだ。

若いからというだけではない何かがあるような気がする。


「何を考えておられるのですか、殿下」

「ミーナを少し怒らせてみたかった。

リリを役目抜きで大事に思っているってのはよくわかった。

それと、ミーナは結構強い人だと言うことも確認できた。

本音で話したら、ちゃんと答えてくれそうだって事も。

俺がここに来れたのは本当は事故みたいなものだった。

一目惚れって訳ではないけど、リリのために力になりたいと思っている。

…信じる?」


「陛下は先代陛下が倒れられてからずっと王として、この国のために働いてこられた。

その陛下の敵と言えば、まずは隣国ダンガリア、ローゲン公国。

そして、陛下を女と侮る貴族たち」


 落ち着いた声。

憎い相手のことを言っているというよりは、淡々と事実を述べる彼女。

リリの国、リュクレイ王国は南は海、北東がローゲン公国、北西がダンガリアという国に囲まれているという。

ローゲン公国は、農産業が盛んで、ダンガリアは工業と酪農が盛んだという。

リュクレイでは広い国土に、バランスのよい産業と、何より発展した魔法具が特産品らしい。

前国王(リリの父親)のときは、強力な軍と、安定した治政に手を出す隙もなかった他国が、虎視眈々と狙っているらしい。

自国の貴族たちは、大国の権力を持つのが女だというだけで自分たちが国を思うがままに操れると思っているらしい。

今のところはまだリリの力が保たれているが、権力の座を狙うものはあとを絶たない。

一番力のあるソロン公がいままでそれらをうまく操り、自分だけが力を持つと言う形を取っていたが、今後はわからない。

ミーナらしく事務的にそんなことを教えてくれた。


「俺は魔法騎士団を調えて、軍事力を上げ、貴族たちからリリを守る。

とりあえずはそこからかな?

俺は貴族じゃないから、国と国の争いや、貴族の上下関係なんかもよくわからない。

これからどうしたらリリの力になれるのか、何をしたらいいのか、ミーナに聞くことにする」


 よろしくねと彼女の目を見ながらいうと、深々と一礼された。


「殿下の行動理由が、同情でも、恋情でも、欲でも、陛下の敵にならない限り、お手伝いさせていただきます」


 身も蓋もないお言葉だ。取りあえず協力してくれるらしいが。

少しでもリリの敵になれば容赦はしないということだろう。

ミーナは用が済んだとばかりに形式的な礼だけしてさっさとリリの元へ戻っていく。

その後ろ姿は別段怒っている風でもなく、俺に対して心を許したという感じでもない。


ここの人たちは、思ったより素直でかわいらしい人が多い。

そして、面白い。


リリのように真っ直ぐに俺を信じてくれる人。

ミーナのように、警戒し、敵視はしながらもリリのためならば妥協して手を貸そうとしてくれる人。

ヒースのように、リリにいわれて俺のことを守ろうとしてくれる人。

そして、俺を早く排除しようと動き出した人々。


さて、取りあえずは人員確保と、こっちの魔法を見てみないと何も始まらないな。

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