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※かぐや視点

 私のいた未来は、人類は全滅しかかっていた。

世界を一つの国に纏めたのだって、一ヵ所に知恵と技術を結集させることにより、

なんとか人類絶滅の危機を回避せんためだった。

 

 ある時、一つの物理科学者のチームが、タイムマシン理論を完成させた。


未来に明日がないのであれば、過去に明日を見出せばいい。


 そんな信条のもと、理論に引っ張られるように、次々と新たな理論が構築され、立証され、

政府の指導のもとにタイムマシンそのものが製作された。


 だが、問題があった。遙か遠い過去に、とある物理科学者が言うには、

過去へ繋がる経路が構築されれば、必ずそれを阻害しようとする働きが生じる。

未来からの来訪者が過去に存在しないことが、何よりの証拠であるという仮説だ。

 事実その通り、私たち未来人はタイムマシンを使って過去にいくつか物を転送している。

しかし、転送物が確かに過去に到着した――――という結果が得られていないのだ。

さらに世界からの圧力というべきか、タイムマシン使用の際に発せられる光線により、

私たちは過去へ飛ぶと焼き殺されてしまう可能性があった。無視できない可能性。


 それでも、未来の私たちは、諸刃の剣ともいうべきタイムマシンに可能性を賭けるしかなかった。


「かぐや。お前は、どの時代に飛ぶつもりなんだ?」


 18年制のスクールの同期ケン=H=10932374234131に声をかけられた。

卵型の特殊素材で作られたタイムマシンに乗って、目を閉じる手前であった。

私よりも後、第213期タイムトラベラーに選ばれた彼は、どうやら見送りに来てくれたらしい。

うねった蒼い髪を無造作に掻き上げ、同じく蒼い瞳がどこか心配げに私を見ている気がする。


「…って、おい。お前のその手にあるやつはなんだ?

こっちの時代のもんを過去に送るのは規律違反だろ。

お前、真っ先に世界から阻害されんぞ」


 私の腹の上に置かれた白い紙袋を見て、ケンは露骨に眉をひそめる。

紙袋いっぱいに、ストレイプトマイシンを詰め込んだ。

世界は異物が混ざり込むのを嫌う。異物が多ければ多い程、世界に発見される確率は上がり、

その圧力に阻害されてしまう。私は愛おしげに紙袋を撫で、ゆっくり笑みを浮かべた。


「そのときは、そのときです。私が飛ぶ時代は、沖田総司がいる時代ですから」


「は…?それ、超昔の歴史上の人物だろ。過去を改竄する気かよ」


「だめですか?」


「だめですか、って…。当たり前だろ!

お前、自分がなにしようっていうのか分かってんのか?

未来から来た証拠なんて持っていってみろ。俺らの未来まで、世界からの圧力がかかんだろ!」


 ケンが激昂する。

まあ、無理もない。

彼の父親は、物理屋で、タイムマシン理論を作ったグループの第一人者だったはずだ。


「大丈夫ですよ。社会的に抹殺すればいい。要は、歴史上から『沖田総司』を消せばいいだけです」


「おまえ」


「焼け焦げたって構いません。私は沖田総司に運命を感じているんです。彼を助けたい。

そうして、出来れば――――――」


「できれば?」


「私を愛してくれたら嬉しい」


 これ以上の話し合いは無意味だ。私はパネルを操作し、タイムマシンを閉じる。

薄く隔てられた向こう側で、ケンがなんとも言えない表情を浮かべている。


「私は沖田総司への愛のためなら、どうなってもいいんです」


 狂った今に相応しい愛だと思いませんか?


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