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*沖田視点
―――――――少女は、未来から来たらしい。
少女は、かぐや=T=10932374234002と名乗った。
Tとは何かと尋ねれば、姓の略称だと教えられた。
他人か己かを紙面の上で識別するための記号に過ぎぬのだと、淡々と説明される。
僕には考えられないことだった。武士と一部の商人に与えられた姓は、みなが欲しがっている。
特権階級以外の人間が憧れてやまない姓は、近藤さんや土方さんがそうであるように、
刀を持つ人間は自分で勝手に名付け、名乗り上げているほどだ。
では、10932374234002という数字は何かと尋ねれば、生まれた順番だと答える。
「何故、生まれた順番などが分かるんです?」
「私のいた時代では、世界は一つの国として機能しているんです。
世界が一つに統合されたその日から数えて、10932374234002番目に生まれた人間。
これも結局、識別番号にしか過ぎないんです」
「ふぅん。そもそも未来って何。貴女の知る未来とは何」
「言ったところで信じられます?実感なんてできるはずないでしょう?
未来なんて、『ひどく遠い明日』とだけ理解してくれてたらいいんです」
「ひどく遠い明日、ねぇ?」
火傷に効くという薬草をすりつぶし、少女の頬に塗ってやる。
染みるのか、少女がぎゅっと唇を噛んで堪える。
人外の容姿であるが、この火傷がなければより一層美しかっただろう。
聞けば、彼女は僕と同じ日本人らしい。にわかには信じがたい。
少女を囲って1ヶ月が過ぎていた。
こうして薬草を塗ってやるのは、僕の日課になっていた。
佳人として側にいて欲しいのだと近藤さんや土方さんに紹介すれば、
彼女の容姿に目を丸くしていたが、
珍しい僕個人の我儘だからとあっさり屯所にいることを許可してくれた。
正直、ひと悶着起きるかと心構えていただけに、拍子抜けしてしまったくらいだ。
「それで、どうして貴女は僕を助けてくれるんですか?
いい加減教えていただけますよね」
医者に正確な見立ては貰ってはいなかったが、薄々自分の病状は察していた。
誰にも告げていない病状を、少女・かぐやは一発で当て、所見までつらつらと語ってくれた。
なんでも彼女は、未来では医者を志す学徒だったらしい。
縁もゆかりもない僕のために、未来から薬(『更生物質』というらしい)を持ち出し、
『退夢真神』などという謎の力を使ってやって来て、甲斐甲斐しく世話をしたいだなんて、異常だ。
近藤さん以外の人間にさして興味を持てない僕からすれば、狂気の沙汰としか思えない。
「…言わなきゃだめですか?」
「勿論です。胡散臭い薬を飲んでいる僕に、ご褒美くらいくれたっていいでしょう?」
「胡散臭いって…」
僕はかぐやのことを気に入っていた。
膝の上に乗せて、彼女の細い身体を抱き締めてやる。
「それに、僕、『死ななきゃ』いけないんでしょう?
貴女の言う日付に、『沖田総司』は社会的に抹消されなきゃいけない。
僕の唯一を奪うんです。僕に新しい唯一をくれませんか?」
近藤さんのために生きられない僕なんて、僕じゃない。
そう言って彼女から治療されるための短所を聞かされたときに僕は大暴れし、
そんな僕に彼女は泣きながら懇願してきたのだ。
『生きてくださいっ。それが未来での近藤さんの意思でもあったんですっ』
卑怯だよね。そんなこと言われたら、僕が折れるしかないじゃないですか。
自分で言うのもなんだけど、僕は誰かに依存しないと生きていけない。
僕という個人は、誰かを支えにすることでしか生きていけない。
僕の魂を支えるための柱になるような、そんな人間が必要だ。
「僕の自惚れでなければ教えていただけませんか?かぐや、貴女の気持ちを――――――」
僕と同じ気持ちなのか、答え合わせしていただけませんか?




