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次の日、私は風香ちゃんに会いに出かけた。
落ち合う場所は、山のふもとにある駅の改札前。おじさんにお願いして、車で送ってもらったのだ。
当然ながら反対された。
風香ちゃんに会うこと自体、見つかってしまう危険が伴う上、人目につきやすい駅前で会うなんて。
だけど、風香ちゃんと会って話したいという思いは強く、私は無理を承知でお願いし続けた。
一歩も退こうとしない私に、最後にはおじさんのほうが根負けし、こうして連れてきてもらえることになった。
ただし時間はなるべく短めに、十分程度を目安として考えることと、話し終わったら速やかにおじさんの車で帰ることを約束させられた。
駅に着くと、改札前にはすでに風香ちゃんが立っていた。
「おじさん、ありがとう。行ってきますね」
「ああ。ゆっくりできなくて悪いが、状況的に仕方がないと思って諦めてくれ」
「はい、わかってます」
そう言い残して、私は風香ちゃんのもとへ急いだ。
おじさんは改札前の様子が見える位置に停めた車の中で待機している。
できればすぐ近くで話すほうが安全だとは思うけど、おじさん自ら、聞かれたくないような話もあるだろうからと、少し離れた位置に車を停めてくれたのだ。
「風香ちゃん!」
「和歌菜!」
抱き合って再開を喜……ぼうとしたのだけど、
パシーン!
いきなりビンタが飛んできた。
「え……風香ちゃん?」
「もう、ほんとに心配したんだからな! それに、あれから電話してもつながらないし、メールも返してくれないし!」
目に涙を浮かべながら、必死に不満をぶつけてくる。
「あ……ごめん。ケータイの電源切っちゃってた」
「こら~! ……でも、そっか。隠れてる身だもんな、仕方ないか……」
「うん。ごめんね」
親友なのに連絡をくれない! なんて言って、いじけていた私だったけど。
考えてみたら、自分のほうからだって、電話したりメールしたりといったことをまったくしていなかった。
実際には、風香ちゃんはメールを送ってくれていたわけだし、悪いのは私だったと言えるのかもしれない。
そんな意味も込めて、そしてなにより涙を流すくらい心配してくれていたことに対して、私は素直な謝罪の言葉を送る。
「会えてよかった」
「うん、わかなも。だけど、すぐに戻らないといけないの」
「そっか、そうだよな……」
会えたことは嬉しい。いろいろと喋りたい。
綾芽さんもいるんだよ、とか、闇フェスで歌うんだよ、とか。
聞いてほしいことはたくさんあるのに。
今ここで喋るわけにはいかない。
親友である風香ちゃんを疑っているわけじゃない。
念には念を入れて黙っておくべきだと、おじさんに強く言われていたからだ。
――これからどうするつもり?
もしそんな質問をされたら、いったいどうやって答えようか。
車の中でずっと考えていたけど、答えは見つからないままだった。
嘘をついてしまえば楽なのかもしれない。
それでも、風香ちゃんに嘘をつくなんて、そんなことはしたくない。
私の苦悩とは裏腹に、風香ちゃんはそういった質問をしてこなかった。
会えただけでいい。そう思ってくれているのだろう。
私も同じ思いではあった。
ただ、ひとつだけ、気になっていたことを質問してみた。
「そういえば、わかながいなくなって、お母さんやお姉ちゃんの様子はどうかな? やっぱり心配してるよね?」
電話もメールもくれなかったお母さんとお姉ちゃんではあっても、さすがに心配はしているはずだ。
そう思って訊いてみたのだけど。
「んーと、どう……かな」
「えっ? 心配、してないの……? 出来の悪いわかなは、いらない子だったってことなのかな……?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……。でも、え~っと、なんというか……」
動揺する私をどうにかなだめようとするものの、風香ちゃんは上手く言葉の続かないしどろもどろな状態。
「風香ちゃん、どうしたの? なにかあったの……?」
尋ねてみても、風香ちゃんは口の中でなにやらもごもご言うだけで、ちゃんとした答えを返してはくれなかった。
「ごめん……」
どういうわけか、うつむいて謝るだけ。
「どうして謝るのか、わかんないよ……。謝るべきなのは、わかなのほうなのに……」
「ごめん……」
会話にならない会話。
時間もないのに、沈黙が流れる。
ちらり。
視線を向けると、おじさんがこちらにじっと睨みつけている様子が確認できた。
長く話しすぎだ。瞳だけで叱責されているように思えた。
「そ……それじゃあ、そろそろ戻るね」
「あっ、うん」
風香ちゃんは私の言葉に素直に頷く。
できればもっと長く喋っていたい。そう思っているのに、状況が許してくれない。
これは仕方がないことなのだ。
私は自分の胸に言い聞かせて、親友のもとを去る。
「元気でね、風香ちゃん」
「……和歌菜も」
次にいつ会えるかわからない。
会うことができるかどうかもわからない。
そんな別れ際なのに、やけにあっさりとした幕引き。
いくらなんでも、これじゃあ、味気ないな。
そんなふうに考えた私は、無理に笑顔を作って、大きく手を振った。
風香ちゃんも、笑顔で手を振り返してくれた。
だけどその表情は、なんだかとても寂しそうに思えた。




