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機の残聖  作者: レンナポ
1/7

セットアップ   幼き機壊








―――――全ては嘆きから始まる。











屋敷の庭には雨が降っていた。全てを叩きつけるような水滴の弾丸。

身体の熱は既に極限まで奪われている。

噴水の水は溢れ、草木はシズクに耐えている。

白髪の青年。

幼いころの鏡夜・ツィーングラムはそんな殺伐とした景色の中に人を見て、驚愕の表情を浮かべた。

彼は英国のツィーン家の宗主にして跡取り息子。幼いころより帝国学を叩き込まれてきた。

力こそ全て。情など枷。涙とは敗北の証。

それらを信じて疑わなかった。それゆえ強くなれたと感じていた。信じていた。

「お母さぁん・・・・・・」

人は少女だった。自分と同じくらいの女の子だった。長髪の黒髪はしな垂れ纏わりついていた。

少女の手はもう一人、女性の手を握っていた。しかし、女性の手には―――血が溢れんばかりに噴出していた。

「あ・・・・」

目が合った。少女の目は悲しみに染まっていた。私は心が痛んだ。感じたことのない痛みはゆっくりと私の首を締め上げる。

その女性は闇で父が潰した時羽財閥の宗主だった。手にはカッターナイフが握られていた。自殺。見せしめ。

疼く罪悪感―――押さえつけた。

少女は血塗れになった女性をなお見捨てていなかった。無駄だと思った。頚動脈は完全に切れているだろうと思った。

「無駄だよ。その人はもう死んでる」

無表情な瞳で吐き捨てた。心の痛み。止まらなかった。

「血を流しすぎた。もう助から―――」

言葉は止められた。少女は私に抱きついた。身体は恐ろしいほど冷たかった。

傘を落とした。拾おうと思った。だが少女は強く抱きつき、抑えてきた。

「おか・・・さん・・・・どう・・・して・・・・!!」

少女は涙を流し、嘆いた。私は動けなかった。少女に束縛されていた。

解く必要があった。説く必要があった。

だが言葉は出なかった。ただただ無言だった。

「嫌・・・・だ、よ・・・・もう・・・・ひと・・り・・・は・・・・!!」

時羽財閥社長―――俺が殺した。

邪魔だと思った。相手には知恵があった。一発逆転。一縷の望みはあった。

社会的に抹殺した。偽罪を作り上げた。検事官。裁判人。公聴人。すべてこちらのサイド。

判決―――英国で懲役10年。

私は迷った。だがそれは許されなかった。進まなければこの世界は変えられないと分かっていた。

「・・・・そう、だな。独りは嫌だな・・・」

だが俺は少女を切り離せなかった。どこか姉のツバキに似ている部分があった。同じ心情を持ってしまった。

私は少女を抱きしめた。少女は困惑の瞳を浮かべていた。

「君を優良な孤児院に送ろう。大丈夫。私のお墨付きだ」

私はまだ甘かった。子供だった。因果関係を理解していなかった。

「――――だから、幸せになってくれ。時羽の者よ」

悪を行いて善は還らない。それ故人は滅びる。

死は還ってくる。利子をつけて叩きつけてくる。そんな簡単な世界を―――私は見てみぬ振りをしていたのかもしれない。


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