表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

四角い箱の中

朝、目覚めると重苦しい気分になる。

部屋のクローゼットに入ってる可愛くもない制服。

それを取り出して袖を通す。




学校という場は、どうしてみんなと同じことをさせるのか。

不思議でならなかった。




リビングに行っても誰もいない。

うちはママとふたりで暮らしていた。

ママは昨日、帰って来なかったらしい。

ママの部屋は昨日と同じように散乱したままだった。

ため息を吐くと、あたしはママの部屋を閉めた。






見たくない。

ママの部屋。





ママは昼間。

この部屋の中に男を連れ込んでヤっていたんだろう。

その後仕事に出たきり帰って来ていない。




あたしは人として冷めているのかもしれない。

普通、自分の親のそんな現場を目撃したら驚愕するに決まってる。

だけどあたしは何も感じることなくその横を通り過ぎるだけだ。





そして終わったママは、何も言うつもりもないのか。

あたしと顔を合わせることもしないまま、家から出て行く。





それが当たり前になっている。





学校であたしが問題視されていることも知らん振り。

別になんか言って欲しいと思ってるわけじゃないけど、あたしは学校から冷たい目線を向けられている。




家を出たいと何度も思っている。

でも家を出れないことも分かっている。



あたしはまだ働くことも出来ない、ただのガキだから。




家の中も四角。

学校も四角。




どうしてこうも同じなんだろう。

毎日、同じことの繰り返しでイヤになる。





それがイヤなだけ。

ただ、それがイヤなだけ。




あたしはどうしたいのかも分からない。

無力な自分にイヤになる。




誰もあたしのことを理解はしてくれないだろう。

学校のクラスメートも理解はしないだろう。



テーブルの上に置かれている万札1枚。

今週はこのお金で“生きなさい”という。

あたしはそれを財布に入れて、家を出る。




コンビニに立ち寄って、パンとお茶を買う。

そして歩きながらあたしはそれを食べる。

それがあたしの日課だった。



コンビニの前にはイカツイお兄さんたちがいつもと同じようにして座って話していた。

いつもあたしの顔を見てはまた話すという状態。

何か用があるわけでもないらしい。





ただ、見ているだけという状態。




そしてその傍をあたしは気にしないで通り過ぎていく。




ただ、気にしないだけ。





そうやって毎日、同じことの繰り返しだ。

毎朝会う、コンビニの店員さんも。

あたしに不審がることもなく。




ただ、あたしにパンを売る。




それだけのこと。




どこに行っても四角い箱の中にいる、あたし。

家も四角い。

学校も四角い。

立ち寄るコンビニも四角い。





どうして、こうも四角いんだろう。






あたしの目に映るものの全てが四角い。

持っている通学カバンも四角い。

生徒手帳も四角い。

筆箱も教科書もノートも四角い。





この世の中、四角いものだらけだ。

四角いものを見ると、ウンザリしてくる。


パンを食べながら、あたしは四角い箱の中へと入って行く。

門ではまた頭の固い大人の代表が立ってあたしを見据えている。

今日もまた四角い部屋で四角い紙に反省文なんてものを書かされるだろう。




「小花!」

門を通り過ぎようとしたあたしに、先生が叫ぶ。




いつもと同じ。




門のところであたしを待ち構えている“センセイ”

あたしをジロッと見ては頭に怒りマークを出してくる。

「お前はいつもっ!」

怒鳴り声は四角い校舎の中まで聞こえるんじゃないかってくらいだ。




あたしは今日もまた短いスカート履いて、マニキュアつけて髪を赤く染めて、メイクをしているだけ。




ただ、それだけなのに。




どうしてそれがいけないんだろう。

あたしはそれが不思議でならない。

これをやめたらあたしじゃなくなるのに。

“センセイ”は“あたしじゃないあたしになれ”と言う。




いい加減、ウンザリしてきた。



それでもあたしたちは、“センセイ”に従うしかないんだ。



分かっているけど、それって酷くない?

自分自身を見失うんだよ?

“自分”というものが見えなくなるんだよ?




それをしたくないから、あたしはこうして“生きている”って訴える。





分かってはもらえないけど。

ま、分かって欲しいなんて思わないけどね。





「小花。放課後、生徒指導室に来い」

“センセイ”がそう言う。



だけど、それに答えることなくあたしは自分の四角い箱の中へ入って行く。

そんなあたしを見て、他の生徒たちは「またか」なんて思っているんだろう。



でもあたしは構わなかった。

“あたし”が“あたし”でいられるなら。

他のことなんかどうでも良かったんだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ