表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

第七話 らぶらぶバカップル公園デート

彼女との約束の日。


私たちはそれぞれの部屋でお弁当を作っている。


私が彼女のために。


彼女が私のために。


それぞれがそれぞれのためにお弁当を作るのだ。


もちろん、発案は彼女。


私も、なんら困る事はないので、即座にオーケーを出した。


昨日のうちに下ごしらえをしておいた物を、いっきに調理して行く。


せっかくのデートだから凝った物にしたい。


そう思ったら、やはり前日から準備しないとどうにも間に合いそうにもなかったのだ。


特に煮物系統は昨日のうちにあらかたしておかないと、味が染みない。


凝ると決めた以上手抜きは許されないのだ。


出来上がった料理を一つずつ皿に分けて、その後弁当箱に入れる。


もちろん色彩のバランスを考えてミニトマトを入れてみたりする。


気がつけば、お弁当の中がおかずで一杯になっていた。


どうやら料理に夢中になりすぎて量の事を考えていなかったみたいだ。


そんな自分に苦笑しながら、別の弁当箱を棚から出す。


おかずをつめた物よりかは少々小さい。


まぁ、それぐらいがちょうどいいか。


炊飯器に入っているご飯に軽く塩を振り、混ぜる。


おにぎりを作るのだ。


炊飯器からご飯を取ると手のひらにのせる。


もちろん、しっかりとラップをしいている。


ご飯の上に、紅鮭の切り身をのせると、ラップで包み軽く握り、形を整える。


弁当の大きさと形を考えて、俵型にする。


出来上がったそれに、海苔を巻いて完成。


それを弁当箱に詰めると、また次のおにぎりに移る。


せめて、あとこんぶとかつおも握っておきたい。


私は、ご飯を手のひらのラップの上に置くと、また握り始めた。


準備を終えると私たちは、早速自転車に乗って出かけた。


もちろん、彼女は私の後ろに座っている。


なんだか、私たちの間ではまってしまったのだ。


彼女もまたこうやって腰にしがみつくのが暖かくて気持ち良いみたいだ。


それがなんだか心がつながっているみたいで嬉しかった。


風を切りさき進む。


それがとても気持ちいい。


たまにこうやって身体を動かすのも良いものだ。


今度機会があったら、彼女と連れ立って軽くスポーツをしてみるのもいいかもしれない。


彼女は運動神経のかなりいい。


それに変わって、私はたいした事のない。


なら、ちょうどいい相手になるだろう。


むしろ、彼女に手を抜いてもらわないといけないかもしれないけど。


それはいいとして、ようやく緑地パークに着いた。


休みのせいか子供づれが多い。


その逆にカップルは少ない。


まぁ、ここはデートスポットではないから、しかたない。


それに、むしろ私はこういうところの方が好きだし。


対人恐怖症みたいなものがあるだけど、子供だけは例外だ。


私は意外と子供が好きなのだ。


従妹が良い例だ。


一度、従妹が家に遊びに来た時に、ちょうど彼女もいたのだけど、そのときの私の様子を見て笑われたのだ。


あまりにもの変わりようにびっくりもしたと言っていた。


まぁ、彼女の言うとおり、確かに豹変していたけれど。


それぐらい、可愛いんだからしかたがない。


だから、すべからく可愛い物好きな私が子供好きなのも当然なのだ。


なんとなく、論理がむちゃくちゃなような気がしないでもないけど。


「う~ん、やっぱ緑に囲まれるって気持ちいいよねぇ」


私たちは、木陰にシートをしくと、寝転がった。


そよそよとふく風と、木漏れ日がすごく気持ち良い。


「そうだね。やっぱり、来て正解だったでしょ?」


そう答えながら、私は木の葉の隙間から見える空を眺める。


雲は小さな綿雲が見える程度で、綺麗に晴れ渡っている。


絶好のピクニック日和だ。


周りでは、はしゃいでいる子供たちの声がする。


そこはまるで都会の喧騒など無縁で、どこにでもあるような暖かな世界。


なんとなく、幸せだった。


こっちに来てから、ここまで心が静まるのは初めてだ。


彼女と一緒にいるときも確かに、心が静まる。


彼女といるだけで幸せを感じる。


でも、やっぱりそれだけでは、足りなかった。


どこまでも、都会の喧騒が離れなかった。


もちろん、本当に都会なわけじゃないだろう。


東京や大阪の方に行けば、もっともっと人がいて、喧騒も大きいだろう。


だけど、私にとって、ここは、やはり都会なのだ。


たくさんの人がいて、たくさんの車が通り、たくさんの店であふれかえる。


そこで見られる自然はちらほら程度。


どこにも心休まる空間なんてなかった。


だけど、この公園は違う。


子供たちの楽しそうな声。


そして、たくさんの緑。


都会の喧騒とは完全に切り離された空間。


心休めるには最適な場所だ。


私は、閉じていた目をあけると、彼女を見る。


彼女は、すやすやと気持ちよさそうに寝息をたてていた。


彼女も、私と同じように、朝早く起きて準備していた。


まだまだ寝たりなかったのだろう。


私は、彼女の頭をあげると、膝の上に置く。


彼女が私にやりたがっていた事。


どうして、そこまでしたがったのかが、知りたかった。


だから、私は彼女の頭を膝に置き、そっと彼女の額を優しく撫でた。






気がつくと、私もいつの間にかに寝てしまっていたようだ。


携帯を取り出すと、時間を見てみると、だいたい30分ほど経っていた。


ただ、変な格好で寝てしまっていたせいか、身体の節々が痛い。


膝枕しながらのお昼寝はどうやら、お勧めできないらしい。


それはさておき、彼女の方を見てみると、まだ眠っている。


本当に気持ちよさそうだ。


思わず悪戯心がわいてくるが、押しとどめる。


一瞬、キスでもしてみようかと思ったけれど、不意打ちみたいでなんだか嫌だ。


それに、彼女とて、眠っている間にされるのは嫌だろう。


むしろ、起きているときにしてと絶対に言うだろう。


最近の彼女は、ことあるごとにキスをねだる。


特に、卒業式の後の打ち上げで、アルコールを取ったんだけど、彼女は酔うと積極的になるらしく、キスをねだり始めたのだ。


小声でいっていたのが、唯一の救いだけど、するするとしなだれて来るから、周りにしてみれば、あまりにもあからさま過ぎる。


おかげで、酔ったクラスメイトははやし立てるし、挙句の果てにはキスをしろと騒ぎ出したのだ。


しかも、彼女はこれ幸いと思ったのか、一緒になって騒ぎ出すし。


おかげで、皆が見ている前でやらされる羽目になった。


あの時は本当に死ぬほど恥ずかしかった。


それと同時に、彼女にアルコールは絶対に飲ませちゃいけないとも思った。


こっちの身が危険になる。


それこそ、彼女に押し倒されたなんて事になったら、笑えない。


それに彼女も、次の日、落ち込んでいたし。


しきりに私に謝っていたものだ。


というわけで、彼女にはアルコールは取らせない事にした。


もちろん、私も彼女の前では取らない。


まぁ、まだ未成年なんだから当然なんだけど。


けれど、もはや、大学に入れば形骸化しているとしかいいようがない。


ゼミの教授が薦める事だってあるのだ。


どうのこうの言ったところでどうにもならない。


たしなむ程度には飲まないといけないわけだし。


それはいいとして、今更ながらに思ったけれど、かなり話がずれてきている。


私はため息をつくと、彼女をもう一度見る。


相変わらず気持ちよさそうに眠っている。


なんだか、子猫みたいだ。


彼女の額、頬を軽く撫でる。


すると、彼女は小さく身じろぐ。


なんとなく、その姿が従妹とだぶる。


彼女を前にして考える事じゃないのかもしれないけれど、なんとなくそう思ってしまった。


やはり、こうして見ていると彼女は幼く見える。


今日は、化粧なんかしていないから特にだ。


たぶん、普通に高校生に見えてもおかしくない。


まぁ、つい最近まで高校生だったんだから当然と言えば当然だが。


私も同じく外見だけを見れば、確実に高校生に見えるだろう。


まぁ、髪の色は高校生らしくはなく、染めているけれど。


彼女に染められたのだ。


私は髪が多く、少々重たい感じがする。


だから、彼女が軽く見せるために染めたのだ。


いや、もちろん、最終的に染めたのは私で、彼女は提案しただけだ。


まぁ、最初は私もいやだったけれど、確かに鏡で見てみれば、私の頭は本当に重く見えたので、素直に彼女の言う事を聞いたのだ。


まぁ、今はそれで良かったとは思っているけれど。


今はこの色の方がしっくりとくるし。


ちなみに、彼女は染めてはいない。


まぁ、彼女は今の髪色がぴったりだし、変に染めて髪質を傷めるのも良くない。


なので、それは私も賛成だった。


まぁ、だからといって、私の髪質はどうでもいいかというと、そういうわけでもないけれど。


でも、まぁ、どうせ大学にいる間だけなのだから、別に良いだろう。


元々、さほど気にしているわけでもないし。


「……」


さて。


いい加減暇になってきた。


彼女の寝顔を見ているのはいい。


正直、心の中がほんわかあったかになる。


それはいい。


だけど、言い方が悪いかもしれないけれど、いい加減飽きた。


いや、別に彼女に飽きたわけではない。


ただ、こうして膝枕をして、彼女を見つめ続けるのに飽きたのだ。


こういう状態で延々と、起きるまで見つめ続けるというつわものがいるらしいが、私にはどうやら無理そうだ。


結局、彼女を膝の上に寝かせながら、もう一度眠りについた。


起きた時に体中の節々が痛むだろうけど、まぁ、それも良いだろう。


目を覚ましたときに彼女がどんな反応をするかを見る事の方が楽しみだからだ。


それから、数分後、膝の上で身じろぐのを感じて、私は目を覚ました。


膝の上を見てみれば、彼女がもぞもぞと動いている。


どうやら、もうそろそろお目覚めのようだ。


私は軽く伸びをして、固まりかけている身体をほぐす。


その間に起きてしまった彼女は、私の顔をまじまじと見る。


それにあわせるようにして、私も彼女の事を見て


「おはよう」


にっこりと笑ってそう言った。


一応、どんなふうに言おうか考えていたのだが、やはりこれになった。


まぁ、たぶん、これが一番ダメージが大きいはず。


「ぇ、ぇぇぇえええ!?」


その予想はしっかりと的中した。


彼女は、びっくりして起き上がると、頬を両手で押さえて、声を上げる。


ここまでリアクションしてくれると、私としては嬉しい。


本当におもしろい。


だから、こんな絶好の機会を見逃すわけには行かない。


少しばかりからかってみるのもおもしろいだろう。


「本当に気持ちよさそうに眠ってたね。どうだった?」


私は、そういうと小首をかしげる。


「もう、笑わないでよ!」


けれど、表情に出てしまっていたようで、拗ねた彼女は、私の事を軽くはたくと、そっぽを向いてしまう。


なんだか、そういうところを見るとほっとする。


彼女もまだまだ子供なんだなぁ、と。


私と一緒なのだと。


「ごめんごめん。ほら、拗ねないで?」


私は、彼女を後ろから抱きしめると、彼女の頭を撫でる。


ほとんどバカップルと同じだ。


もちろん、昔の私ならしないし、したくてもできなかっただろう。


やはり、彼女への遠慮があったから。


だけど、今は違う。


別に彼女の意思を無視しているわけじゃない。


彼女が嫌がるのならば、私はしない。


ただ、心の中にあった壁を少しずつ壊していっているのだ。


心をできるだけ裸と裸で付き合えるようにしている。


「もうそろそろお腹もすいてきたしお弁当にしようよ、ね?」


彼女もきっとそれを分かっていてくれるはず。


言葉にしないと伝わらない事もある。


そういうけれど、言葉で伝えてはいけないものもだってある。


事恋愛に関してはそういえる物があると思う。


言葉にせず心同士で感じるからこそ、温かくなれることだってあるんだ。


私は、弁当の準備をする。


それを見た彼女は、ため息をつきつつ、その作業を手伝ってくれる。


別に最初から本気じゃなかった。


遊びの範囲。


お互い心を見せ合えるから、そんなふうにできる。


ここも変わった事。


以前の関係ではなかった事。


以前の私ならきっと、心の中は不安で一杯だっただろう。


でも、今の私は彼女の事を信じられるから、不安はない。


これは、妄信ではなく、信頼。


彼女と言う人を知る事が出来たからこそ、抱けるもの。


「んじゃ、食べようか?」


私は彼女のお弁当を、彼女は私のお弁当をそれぞれ手に持つと


「うん、いただきます」


「いただきます」


二人声をそろえてそういうと、弁当箱のふたをあける。


私のお弁当。


彼女が私のために作ってくれたお弁当の中身は色とりどりだった。


栄養のバランスも良さそう。


それになにより


「沙希さんらしいね」


彼女らしい。


本当に可愛らしく並べられている。


女の子のお弁当。


そんな感じのするものだ。


私は、その中から玉子焼きをつまむと、口の中に入れる。


その瞬間に出しの甘さが口に広がる。


優しい甘みが玉子の味を引き立てている。


「うん、おいしい」


私は、条件反射のようにそうつぶやいた。


相変わらず彼女は基本がしっかりとできているから、安心して食べられる。


日に日に腕をあげていっているから、上達の度合いも見られて、その楽しさもある。


彼女の料理は本当に、私にいろんなものを与えてくれる。


「そう?ありがとう」


私の呟きが聞こえたのだろう。


彼女は、そういうと嬉しそうに表情を崩す。


「聡君のお弁当もすっごくおいしいよ?なんだか、勉強になるよ」


そして、続けてそう言った。


まぁ、勉強になるのどうのこうのはいいとして、彼女の口に合ったみたいで良かった。


一応、私の料理は彼女の舌に合わせている。


そのため、少しばかり実家の味とは違う。


微妙な塩加減とかそういった本当にちょっとした違いも考慮している。


たぶん、実家ではそんな事はしないと思う。


かなりめんどくさいことだし、疲れるからだ。


だけど、彼女のためだと思うと、それも別の話しになってしまったのだ。


何が何でも彼女の舌に合うものを作りたかった。


そして、彼女の笑顔が見たかった。


お弁当を食べると、またお昼寝。


せっかく、公園に来たのだから動いても良いと思うけれど、木漏れ日が気持ちよすぎて、二人そろってそんな気分にはなれなかった。


まぁ、食べてすぐ寝ると太ってしまうけれど、しっかりと運動しているから、大丈夫だろう。


「どう、かな?」


彼女は、私の顔を覗きこむとそう尋ねる。


ただいま、私は彼女の膝の上。


今度は、彼女が私に膝枕をしてくれている。


「うん、とっても気持ち良いよ」


女の子特有のやわらかさが、気持ち良い。


なんとなく、こういう言い方すると少々いやらしく感じるけれど、素直に答えておく。


どうせ、彼女の事だ。


そんなふうに感じる事はないだろう。


彼女もまた私と同じく恋愛初心者。


あらゆる面で経験が少ないし、知識もない。


本当に、純情と言うか、純粋さを失っていない。


そこが、彼女の良いところでもあるのだけれど。


「そっか、それは良かった」


案の定、彼女は、嬉しそうに声を上げると、にこにこしている。


全く、気にしているような様子はない。


本当に可愛らしくて、微笑ましい人だ。


私は、目を閉じる。


せっかくの機会だ。


こんな幸せな状況はそうそうない。


ならば、この機会を逃すのはもったいない。


せっかくだから、膝枕をしてもらいながら、お昼寝してみるのもありだろう。


まぁ、彼女は、最初からそのつもりで、私に膝枕をしてくれているのだろうけれど。


「んじゃ、俺、ちょっと寝させてもらうね?」


そして、私はゆっくりと眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ