第六話 デートのお誘い
「ねぇ、今度の日曜空いてる?」
家に帰り、晩御飯を食べて、のんびりと寄り添う形でテレビを見ながら、私は彼女に切り出した。
今、彼女は私のひざの上にちょこんと座っている。
昨日帰った後、ちょっと態度が冷たかった分、今日しっかりと甘えたかったんだろう。
まぁ、私自身こうやって、甘えられる事は嫌いじゃない。
むしろ、好きだ。
まるで、小説のワンシーンのようで。
それから、一応、昨日あったことは、それなりに話した。
もちろん、伊緒の事も言っておいた。
だけど、ただの同級生と言う事にしておいた。
変に仲が良かった事まで言って、いらぬ心配はさせたくない。
それに、私自身うまく説明する自信もなかった。
なんだか、彼女への秘密が多くなっていくようで嫌だけど、仕方がない。
こうして、付き合っていく以上、絶対に言ってはならない秘密だってあるんだ。
恋愛は小説や漫画のようにはいかない。
心を裸にして付き合っていけるほど簡単じゃない。
だから、お互いにごまかすところも必要になっていく。
お互いを傷つけないためにも。
「うん?空いてるけど?」
それはいいとして、彼女は、顔をあげて、私の顔を見ながら、そう答える。
その姿はなんだかとても可愛らしい。
なまじ整った顔立ちをしている分、お人形さんのようだ。
ちなみに、私の部屋には実は割かしぬいぐるみが置いてある。
可愛らしいものが好きな私は、ユーフォーキャッチャーでとった物を置いているのだ。
まぁ、単なる暇つぶしでやっていたにすぎないけれど。
「そっか。んじゃ、デートしない?確かその日晴れるから、二人でお弁当作って近くの緑地パークに遊びに行こ」
そして、私はついに切り出した。
まぁ、もちろん、結果は分かっている。
「え?デート?うん、もちろん行くよ」
当然の事ながらイエスだ。
結果もそれと同じイエス。
しかも、彼女は私がデートに誘った事がかなり嬉しかったのか、にこにこしている。
「久しぶりのデートかぁ。でも、聡君から誘ってくれるのって珍しいよね」
しばらくの間はそうやって、私のひざの上で笑みをこぼしながら、私の腕とかで遊んでいたが、落ち着いてくると、私の顔をまじまじ見ながらそう言った。
「デートするときって、だいたい私が誘うもんねぇ」
そして、そう付け加える。
けれど、私にしてみればその言葉は耳がいたくなる。
確かに彼女の言う通りなのだ。
私から彼女をデートに誘う事はほとんどない。
それこそ、よっぽどの理由がない限り。
だから、こんなふうに、唐突にしかも理由もなくデートに誘ったのを不思議に思ったのだろう。
まぁ、彼女がそう思っても仕方がない。
仕方ないけど、もう少しがんばらないといけないな、私は。
今度から、もう少し彼女をデートに誘うようにしないといけないな。
「あはは。そうだね、ごめんね?」
だけど、まずは謝っておこう。
こういうところが男の甲斐性にもつながるし。
いや、そんな事はないか。
「ううん、別にいいよ。でも、今度からはちゃんと誘ってよ?」
そんな分けの分からない事を答えているうちに、彼女は答えてくれた。
許してはくれたみたいだ。
そのかわり、しっかりと釘を刺されてしまったが。
まぁ、自業自得と言えば自業自得だが。
今まで、ちゃんと誘わなかった私が悪かったわけだし。
「うん、了解」
私は、彼女の言葉に苦笑しながら頷く。
彼女は、私の膝の上で、くすくすと笑うと
「よろしい」
そういった。