第二話 彼女の真意
godaccel様、感想ありがとうございました。
お返事させていただきました。
その日一日の私は、本当に暗かった。
彼女の真意が読めず、悶々と一人で考え込んでいた。
それでも、結局答えは出ず、私は諦めて家に帰った。
片道三十分ほどの距離を自転車でのんびりと走る。
緑が多く、風も涼やかで気持ちいい。
実家に比べれば大都市と言ってもいいこの街だが、ところどころ田園が残ってて心が安らぐ。
やはり、私はどうも根っからの田舎人のようだ。
まぁ、無理して都会人になりたいとは思わないが。
人間が多くて、時の流れの速いところはどうしても苦手なのだ。
軽やかに走り抜ける。
やがてアパート街に入る。
ここは大学の新設にあわせて作られた。
もちろん、私の通っている大学ではなく、その他の私立大のだ。
その大学は私の通う大学とは違い総合大学で、かなりのマンモス校。
そのため、たくさんの学生住人が確保できる。
だから、ここにはたくさんのアパートがある。
もちろん、私の借りているアパートもそこにある。
まぁ、一応名目上はマンションとはなっているが。
大学の目の前を通り過ぎ、角を曲がる。
そこを過ぎれば、私のアパートはすぐそこ。
もう一度角を曲がるとたどり着く。
申し訳程度に作られている駐輪所に自転車をとめ、鍵を閉める。
そして、そのまま中に入る。
所詮は学生マンション、中は簡素なつくりをしている。
私は入り口傍にあるメールボックスを確認する。
あるのは広告紙だけ。
それをそばに置いてあるゴミ箱に捨てると、部屋に向かう。
私の部屋は一階の一番奥。
つまるところ101号室。ドアに手をかけ、中に入る。
鍵はかかっていない。
もちろん、かけ忘れたわけではない。
「ただいま」
「あ、おかえり」
中に人がいるから。
もちろん、それは沙希さん。
彼女の部屋は僕の部屋の隣。
実は、この部屋は、僕の母親に内緒で話し合って決めたものだ。
もちろん、だめだしをくらったら諦めるつもりだったが、あっさりと了承をもらった。
理由は、新しいのに相場より安く、設備も充実している。
これだった。
まぁ、これならば、母親も断れなかった。
そして、それぞれ僕は101号室を。
彼女は102号室を借りたのだ。
その結果として、お互い部屋の行き来が多くなり、必然的に半同棲みたいな形となった。
今のやり取りだって、初めのころは、なんだかお互い恥ずかしかったものだ。
「まだ、したく終わってないから、テレビでも見てて」
それはさておき、靴を脱ぎ、中に入ると、彼女はそう続けた。
どうやら、まだ晩御飯の準備は終わっていないみたいだ。
半同棲が始まってからは、まずは役割分担を決めた。
とはいっても、当番制だ。
どちらも、家事をしっかりとする。
共同生活をする上で必須のことだ。
私が料理をする事だってある。
私は、かばんをかけるとソファに腰掛けて、テレビのスイッチを入れる。
とはいっても、この時間帯はまともな番組はない。
だから、必然的に彼女の方に気が向く。
彼女の手伝いをしたいからだ。
もちろん、以前はお願いした。
だけど、あっさり却下されたのだ。
彼女は、最初から最後まで自分で作った物を私に食べてもらいたいといった。
そういわれては、なんとも言えない。
素直に言う事を聞くことしか出来ない。
まぁ、私も彼女が手伝いを申し出られたときは、彼女と同じようにしたけど。
お互い様だ。
私は、彼女の方を見て、内心でため息をつくと、テレビへと目を戻した。
そして、そんな退屈な時間が過ぎ、待ちに待った時間がやってきた。
彼女の用意した夕飯をやはりおいしかった。
日に日に腕が上がっていっているのが分かる。
そんな彼女を見ていると私もうかうかしていられなくなる。
私とて彼女に食べてもらうのだから、自信を持って出せる物にしたい。
まぁ、今でも自信を持って出せるが、やはり日々精進していなくては。
夕食を終えた私たちはソファに座る。
最近は、私のひざの上に座るのがお気に入りらしく、いつもちょこんと座っている。
そして、それにあわせて私は彼女をすっぽりと腕で抱き込む。
小説でこんな事をしているのを読んだからだ。
まぁ、我ながら、変なところからしかも偏った知識ばかり集めているとは思うけど。
でも、彼女はそうすると嬉しそうにしていた。
だから、私も幸せだった。
直接ではないけど肌と肌とのふれあいでお互いの心が暖かかった。
「ねぇ、どうして、あんな事言ったの?」
そんな中で、ずっと気になっていた事を聞いた。
いくら考えても答えは出ない。
ならば、直接彼女に聞いたほうがいいと思った。
所詮、彼女と私は他人。
なんだか、冷たい言い方かもしれないけれど、それは変わりようがない。
彼女の考えている事が完全に分かるわけではない。
分かるはずがないのだ。
だから、私は彼女に分からないことがあったら、聞くことにした。
間違いを起こさないためにも。
また、あのときのように勝手に勘違いをして彼女を傷つけたくはないから。
「どうして、合コンに行けって言ったの?」
私は聞きなおした。
彼女が小首をかしげていたからだ。
まぁ、いきなりすぎて、ついていけなかったのだろう。
だけど、今度こそそれで通じたみたいで、彼女は頷くと
「縛りたくないから、かな?」
彼女は、笑ってそう言った。
「ほら、私って、すっごくやきもちやきでしょ?ちょっとでも、他の女の人と仲良く話してるだけで、すぐに不機嫌になるし。理不尽な事でも怒り出しちゃう。私もダメだとは思うんだけど、どうしてもそうやっちゃう。でも、いつまでもそんな事してたら、聡君の自由がなくなっちゃうでしょ?友達とかもいなくなっちゃうかもしれない。周りから良くないうわさを立てられるかもしれない。でも、私はそれもいやなの。自分のせいでまた聡君を傷つけたり、追い込んだりしたくないの。だから、ちょうどいい機会かなって思ったの。自分を我慢させるための。まぁ、聡君には悪い事をしたかなって思ったけど」
そして、続けてそういいきった。
彼女は、『また』、と言った。
それは、私と同じで、自分のした過ちを後悔しているのだろう。
そして、それを繰り返さないために必死にがんばっている。
その答えが、合コンだったわけだ。
まぁ、確かに、彼女の考えにはそれはぴったりなのかもしれない。
自分自身を嫉妬と言うものから耐えさせるには、ちょうどいい。
自分の彼氏が、合コンに行っている。
それだけで、十分気が気でなくなり、妬心が顔を出してもおかしくない。
まぁ、彼女が言った通り、私としてはすこし困った事ではあるが。
やはり、できることなら、行きたくないのだ。
でも、彼女のためと思って、一肌脱ぐしかないわけだ。
彼女は、私にたくさんの物を与えてくれている。
だから、私も彼女にたくさんの物を与えたい。
恋愛は契約みたいなものだと思う。
いや、恋愛だけではない。
人間関係と言うものは、契約みたいなものだ。
お互い何かを与え合っている。
何も与え合えなければ、関係は続けられない。
価値の等価交換。
だから、私は彼女から何かをもらっている以上、彼女が望む物を与えなくてはいけない。
それは、彼女のためではなく、自分のため。
彼女を失いたくない自分のため。
その想いはきっと彼女も同じだと思う。
私を失いたくない。
だからこそ、私に私が望む物を与えようとする。
そうでなければ、わざわざ自分が苦しむような事はしないはずだ。
誰だって、自分が傷つくのは嫌なのだ。
その傷を耐えて、それに見合っただけの何かを与えられなければ。
「そっか、分かった。んじゃ、一応行ってくるよ」
私は、彼女に答えた。
今の私はたぶん笑顔だと思う。
自分でも分かるほど、顔がにやけていると思う。
それぐらい幸せだから。
自分の想像が取り越し苦労ですんだから。
やはり、彼女の思いは私と同じ物であってくれたから。
なら、行くしかない。
「あ、その代わり、浮気はだめだからね?」
「もちろん、分かってるよ」
とはいえ、しっかりと釘を刺されてしまったけど。
まぁ、最初から浮気なんて物をする気は皆無だけど。
彼女以上に愛せる人なんて、きっと私にはいないから。