プロローグ
第二部開始です。
それは私が小さな頃だった。
まだ何も知らない無知な頃の私だった。
人を信じ、人を愛していた頃の私だった。
ただただ、何も考えずに居た頃の私だった。
その頃の私は、初めて現実を見た。
とても悲しい現実だった。
自分が一人だと知った。
誰も自分を見てくれていないと知った。
誰も自分を守ってくれないと知った。
誰にも愛されていないと知った。
愛されるような自分で居ないと誰も愛さないと知った。
親に愛されるには、自慢の息子で無くてはならず。
妹達には、頼りになる、強い兄では無くてはならず。
クラスメイトには、人がよく、使い勝手のいい学友で無くてはならなかった。
だから、私は姿を変えた。
少しずつ、姿を変えていった。
そして、高校の時に完成した。
そこには、完璧な私がいた。
誰にも嫌われない私だった。
誰にも否定できない私だった。
けれど、それと同時に、誰にも愛されなかった。
誰にも肯定されなかった。
私は、いつしか、方向性を間違えていた。
臆病な私はいつの間にか、間違えていた。
私は、臆病な私は、嫌われることを恐れていた。
拒絶される事を恐れていた。
裏切られることを恐れていた。
だから、私は、誰にも近づかなかった。
近づけなかった。
常に一人で居た。
心に誰も近づけさせなかった。
だから、私は、完璧だった私は、孤独な存在になった。
誰にも愛されなかった。
誰にも受け入れられなかった。
そう、たった一人を除いて。
本当の私に気づき、愛してくれた人を除いて。
私が、精一杯愛した人。
心の底から愛して、そして守りたいと思った人。
私の唯一の恋人。
彼女だけは、そんな私を愛してくれた。
そんな私を受け入れてくれたその彼女によって、私は救い出された。
孤独の牢獄から抜け出せた。
今の私は、もう以前の私ではない。
完璧だった私はもういない。
簡単にもろく崩れ去ってしまう弱い存在。
もう彼女なしでは、語れない存在。
けれど、それでも、彼女は私を受け入れる。
そんな私を受け入れる。
それを私は幸せに思う。
彼女といれる事を幸せに思う。
彼女に愛されている事を幸せに思う。
そして、まどろみの中で生きていけるこの事を、私は幸せに思う。
他の誰でもない彼女と一緒に生きていける事を。