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【短編小説】月の季節

掲載日:2025/12/16

 どこに行ける訳でもなかったんだ。

 自転車、車、オートバイ。

 オンナ、パィオ、ヴァヂャィイヌァ。

 どれに乗ったところで、ここではないどこにでも行ける訳では無いからね。

「だいたい、二本の手足すらまともに使えない奴が自転車だのバイクだのに乗ったところでどう変わると言うんだ?」

 鏡の中でジュベルバーヌしながら嗤う時があるだろ?

 ぶら下げた首輪がそれを物語っているんだ。

 見えないリードがあって、そのゲルトリッツ範囲の中でしか動けない。

 それに遠くまで行ったとしても、それは帰って来られる保証の範囲内での話だよ。

 つまらない上に不愉快な奴だな。

 自分で分かっているのさ。


 だから週末や連休が始まる前から憂鬱だったんだ。

 掃除、洗濯、買い出し。

 やらなければならないタスクがすでに積み上がっていて、それを順に消化する為だけに休みの日が存在する。

 安息日ってのはなんなんだ?

 酒もやらず煙草もやらず、テレビもセックスもチョルモーヤだって無しだ。

 シルケポルアして終わり。

 それが終わればもう次の週が始まるから夜更かしも出来ない。

 いつもより少し眠るのが遅くなる程度の事でしかなかった。

 類人猿の放り投げた骨は衛星になった。

 俺の労働は賃金になった。

 やがてチョヤが祈りになるし、ピルパルテとして終わる。



 入った居酒屋の隣テーブルでは女子高生が晩飯を食っていた。

 俺たちの時代はどんなに良くてもファミレスかハンバーガーチェーンだった。

 時代は変わった。

 俺たちは老けていく。

 女子高生たちも老けていく。

 彼女たちが老けた時に若人はどこでメシを食うんだ?

 パンニハム、ハサムニ、ダーリフラ。

 労働者たちの食堂が女子高生たちに占拠されていく可能性が俺を昏い気持ちにさせる。


 俺たちは祈らない。

 もう祈ったところで何もどうならないからだ。

 労働は祈りから離れた。

 それはもはやマイニングだし、グヮシーカだ。

 かつてビットコインを掘った時代があった。

 それは労働そのものだった。

 俺の父親たちはパソコンをバラして基盤の裏まで探したさ。

 カサクヤーン、ドゥンガカラムシ、ゥインダドヤンなんて見つけたところで金にならない。




 その時代と同じかは知らないが、俺たちもグヮシーカする。

 モノリスを探しているんだ。

 見たことあるか?

 綺麗なもんさ。俺は破片しか知らないけどに。

 でも出てくるのはナォッドットッ、ィトゥレー、ォイカァアヮナオあたりだ。

 そんなの古いから金になりゃしない。

 アィクァ、ッヂモトーァンあたりが出るのを待ちながら、泥だらけの手袋を作業着のポケットに押し込んで首から下げた手ぬぐいで汗を拭く。

 女子高生たちが顔をしかめる。

 俺たちは構わず店員を呼び、ビールと揚げ物を頼むんだ。

 労働!賃労働!

 むかしの祈りは金になったのかい?

 ビールも唐揚げも喉を切りつけるようにして胃に落ちて行く。

 女子高生たちは何度セックスをしたところでこの感覚をまだ知らない。


 ザマァミロ!!

 お前たちがどんなに俺たちを嫌おうと、お前たちだってどこにも行けないんだよ。

 聞こえないだろ?

 その制服は無敵の装備に思えるだろ?

 無限の可能性があるように感じるだろ?

 どの選択肢だって正解に思えるだろ?

 でもそんなものは全部が嘘だ。

 パールミューイ!!

 その選択肢を全て正解にする為に今日こうして俺たちが土地を掘っ繰り返しちゃあモノリスを探しているんだ。

 お前らは知る由も無いだろうがな。

 知る必要も無い。

 俺たちのゲップや煙草の煙がどこに行くのか、俺たちですら知らないんだからな。


 クソが。ンジャーロ!ソイベッタ!

 スコップを土に差して足で踏む。

 体重をかけて掘り起こし、スコップの中にある土を投げる。

 同じ動作を繰り返して繰り返して今日も居酒屋に入って唐揚げをビールで流し込みゲップと煙草を吐き出して帰って眠り朝陽に目を焼くのもつかの間、また地下に潜って月が出るまで掘って掘る。


 こんなはずじゃなかったと言うのは簡単だ。

 あの事の俺は一体どこに行こうとしていたんだろう。

 もう思い出せないくらい昔、あの頃からすると遠くまで来てしまったと思う。

 がちり、と音がして土に差したスコップに硬い感触が伝わった。

 土を退けると黒い物体が見えた。

 俺は逡巡して、そっと土を戻した。

 今夜も唐揚げとビールが待っていると思う。明日も明後日も。

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