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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

気まぐれ企画 もしもうちのキャラが異世界転移してしまったら7

作者: 赤川ココ

撤収、出来そうな三組のカップルです。

 復旧作業は、順調だ。

「そろそろ、帰る術を探さないと」

 ぽつりと呟くのは、長身の優男だ。

 その隣で、小柄な二人の女も頷くが、その顔は何とも言えない、複雑な表情だった。

 気持ちは分かる。

 切り出したエンも、この状況は迷惑だが、悪く無いと考えていたからだ。

 小柄な女の内、髪色も瞳の色も薄い方の朱鷺(とき)を伴侶にした、今は自分の女房と力仕事に勤しむ男は、これまで忙しさを言い訳にして、突然死した父親の事を考えないようにしていた。

 今も不測の事態に巻き込まれたことで、しんみり思い起こす余裕がないらしい。

 この男狭霧(さぎり)の兄妹である、エンの女房の(みやび)が、子供が比較的手がかからなくなった頃のこの訃報でどれほど悲しんだか、エンももう一人の小柄な女メルも覚えているので、その辺りは安堵しているが、元の世界に戻った後の反応が心配で、本格的に帰る算段を探す動きに、躊躇いを持っていた。

「……まあ、うちの会社は、コウヒもシュウレイも使えるようになったし、新入社員も優秀なの来たし、私一人抜けても大丈夫だとは思うけど……」

 朱鷺が躊躇いながら呟くのを聞き、エンは我に返った。

「いえ。うちは、早く帰らないと、不味いです」

「? 何で? (みこと)君は、もう手がかからないんだろ?」

「……台所に立たせては、不味いんです。買い出しに出た途端にここに来たので、備蓄はもうなくなっている頃ですし、自炊は禁止しているから、知り合いのところに行っているとは思うんですが、いつまでも放置していては、巻き込んでいない周囲まで、巻き込んでしまうかもしれない」

 この世界と元の世界の時差は、どのくらいなのかも分からないため、ただの体感での心配だが、あながち間違いではないだろうと、エンは思っていた。

 焚火の火を見ながら肉を切っていた男が、硬い表情で頷いているのが見えたのだ。

 メルの旦那であるその男は、包丁で丁寧に肉を骨から切り落としながら、言った。

「どんなきっかけで、他の者までやってくるか、今となっては分からないな。先程までは、所々で歪みが出来て、そこから誰かが置かれる感じだったが……ついさっき、自らやってきた者がいるようだ」

「自ら?」

 聞き返した男に頷き、クリスは続けた。

「それに先ほど来た、商団な……あれは、人間じゃない」

「先ほどのって、あの子らを送り届けてくれた人たちか?」

 先の樹木の消失で、逃げたエルフがおり、彼らを送り届けてくれた商団が、先程村を辞したところだ。

 メルが目を見開くのに頷き、夫は少しだけ目を緩めて言った。

「あれは、しょっぱなに襲ってきた奴らと、同種だ」

「同種って……ゴブリンって奴?」

「?」

 叔父姪の間柄の男女も目を見開き、顔を見合わせた。

「それって、ゲームとかでよく見る奴、ですか? 本当にいるんですね」

「呑気に感心する話でも、なさそうだぞ。……カムイの気配がある」

 聞き慣れない名前に、首を傾げるエンと朱鷺の傍で、メルだけが反応した。

「は? あの人、ここにいるのか? 何で?」

「分からん。だが、あの商団全体が、カムイの血縁の気配を漂わせていた。奴の気質が気質なだけに、本当に微かな気配だが……もしかすると、元凶は、カスミではないかもしれん」

「え。でも、あの人は、争いごととか、厄介ごとは嫌いだよね? 全く別な世界に来てまで、騒動起こすかなあ?」

「争いのためではなく、賭けのためだろう」

 懐疑的な声を出した妻に、クリスは固く返すと、メルは声を上げた。

「あ。そうか。あっちじゃあ、ちょっと賭けに勝つの難しいもんね」

「賭け?」

 何だか至る所で、血縁は賭け事をしているようだ。

 つい目を細める二人に、メルは説明を始めた。

「カムイって人は、神の威を借るクズ、って意味合いで……」

「違う、はずだが」

「クリスの従弟なんだ」

 従弟。

 エンは内心、うわあと思った。

 何人いるんだ、厄介な血縁が?

 そんな気持ちに気付いたのか、メルが鼻を鳴らす。

「あの人の厄介さは、カスミのとは違うよ。あの人はね、子孫の潜在能力を、無理に引き出す体質なんだよ」

 引き出すタイミングは、種付けの瞬間、だ。

「……」

「強い後継者が欲しい女に、襲われることが多くてね、一族からさっさと逃げたんだよ」

 そんな人が、どんな賭けをしているのかというと、その子作りに関するものだという。

「……これも、似通ってない?」

 朱鷺の呟きに、エンは無言で頷いた。

 確か、雅と狭霧の父親も、カスミと子作りに際して、何やら賭けをしていたと聞いていた。

 それも知っているメルは、頷いてから内容を話した。

「カムイは、伴侶の狐と、賭けをしてるんだよ」


 昔々、狐に惚れられたカムイは、優しく尽くしてくれるその狐と、一度だけ情を交わした。

 後日、その時の種が芽生え、狐が別な男と共にその子供を育てていると知り、抗議しに行ったのだ。

「その別な男も、別な狐を伴侶にしている男でさ、ある理由で、その伴侶との子供を、カムイの伴侶と共に育てることになっていたんだよ。で、ずるいと泣いたカムイに、伴侶はあなたとは子供を養えないって、はっきり言ったんだけど、余りに泣くものだから仕方なく、条件を出したんだよ」

 この子たちが育ったら、私はまた別な男と子を作る。

 あなたも、いろんな女と子供を作って見せてよ。

 その数が、私の子供たちの数を上回ったら、今度こそ一緒に暮らして、子を作って養いましょ?

 でも、もし勝てなかったら……この人の子にも、何か守護をつけて頂戴。

 聞いていた男が目を丸くする前で、カムイはそれに応じた。

「定期的に、伴侶と会って、その度に勝てなくて、とうとう、異世界で増やすことにしたんじゃないかなあ……」

 迷惑だ。

「本気で、あの狐に惚れてしまった、のか? 矢張り?」

「どうだろう。私には、全く分からない状況だから、何とも言えない」

「まあ、あちらの世界では、色々と弊害があるからなあ」

 クリスがしみじみと言い、爆弾を投げた。

「リョウの時は、何とかなったが、人間とは相性が悪い男だからな、あれは」

「……リョウ? あの、まさか……」

 朱鷺が固まる横で、エンは恐る恐る確認した。

「その人、リョウのっ?」

「ああ、父親だ」

「孫に、血が、入ってるうっっ」

 頭を抱えた姪の横で、エンは内心思った。

 オレはセーフだが、あの辺、不味い。

 そんな二人に構わず、メルは旦那を見上げた。

「ゴブリンって、変身するタイプ、いた?」

「それだ。恐らく、容姿は変わらないまま、知能が優れた者が、生まれたのだろう。カムイは、獣でも人に見えればイける男だ」

 厄介だなと、クリスも顔が苦い。

「ただ、自分一人だけなら分かるが、我々までこの場所に連れて来る理由が、今一はっきりしない。だから、早く元の世界に戻った方がいいのは、確かだ」

 一応、今は用心して、この辺りに壁を作ってあるが、破る何かを作り出している者が、いるかも知れない。

「そんな奴相手に、何処まで対処出来るか分からない」

 これは、誰かが感傷に浸るのを、心配している場合では、ない。

 すぐに作業中の二人を呼び、事情を話していると、突然大地が震えた。

 クリスの顔が強張る。

 長身で清楚な美女の雅と、甘く整った顔立ちの狭霧が警戒し、エンも姿勢を改めた。

 何事とエルフたちが動揺する中、先程商団が去った方向の木々の間から、人影が一つ現れた。

 薄色の金髪を肩から前に流して編み込んだ、長身で色白の女だ。

 村の住民は緊張したが、客人たちはつい明るい声を上げた。

「セイっ」

 揃った声に答え、こちらに歩み寄る女を、メルが手を振って迎える。

「セイ、来てくれたのかっ。助かった」

「? 困ってたのか?」

「当たり前だろ。突然連れて来られたんだぞ」

「ふうん」

 目を細めて周囲を見回す女が、何を考えているのか、珍しく分かった。

「い、言っとくけど、別にここに永住する為に、復旧を手伝ってるわけじゃ、ないからねっ」

「そう願うよ。尊が心配し過ぎて泣いてるのに、親がそれじゃあ……」

 慌てて言いつくろう雅に無感情で返すと、セイは短く言った。

「迎えに来ました。この二人は、強制的に連れ帰りますが、あなたたちは、どうしますか?」

 真っ直ぐ訊かれ、メルは即答した。

「帰る。旦那が怪我したら、嫌だもん」

「メル……」

 クリスは妻の言い分に感動しつつ、正直に言った。

「多少の怪我なら秒で治るが、その心、嬉しい」

「クリ……」

 見つめ合う夫婦に、セイは目を細めながら頷き、考え込むもうひと組のカップルを見た。

 婚姻関係はないが、一応心は通っている二人の方は、意見が分かれていた。

「朱鷺は会社の従業員だ。今、無断欠勤している状態だろ? 一度、戻ろう」

「大丈夫だよ。セイが来たと言う事は、コウヒたちにも話は通ってる。少しこっちでゆっくりして行こう」

 やけに真面目に言い募る伴侶に戸惑い、狭霧はセイに尋ねる。

「そう言う判断で、いいのか?」

「まあ、間違っては、いません」

 無感情に頷かれ、朱鷺が内心安堵して、さらに言い募る前に、セイは続けた。

「そのコウヒさんが、(れん)に泣きついたので、私は小父さんを頼る羽目になりましたが」

 空気が、強張った。

「え。今、何て?」

 青ざめるメルに、セイは首を傾げて繰り返す。

「だから、コウヒさんが蓮に泣きついたから、会社の穴は、心配ないって……」

「そこじゃないっ」

 エンが顔を引き攣らせ、言う。

「蓮と一緒に来たんじゃ、なかったのかっ?」

「ああ。あの人は、手が空かなかったんだ」

「うわあっ。朱鷺、帰ろうっ」

「? ああ、大丈夫ですよ。私は、日帰りで往復する予定ですから」

 慌てた狭霧に、セイはさらりと言い切った。

「そこじゃないよ。セイ、お前の言う小父さんって、シノギ坊の事だよねっ?」

「そうだけど?」

 メルの真剣な問いかけに、また首を傾げたセイの前で、クリスが唸った。

「お前、それは不味い。何故、実の父親を小父さん呼ばわりなんだ?」

「? 知り合ったのが、ごく最近なので、呼びづらいんです。代わりに、蓮が呼んでくれてますし」

「そこでも、ないっっ」

 律儀に答えていたセイは、焦って声を上げたメルを見た。

「セイ、シノギ坊は? 何で、一緒じゃないんだっ」

 血相を変えている女に、それより長身の女はすぐ答える。

「商団の棲家に、先に行った」

「……それは、どうして?」

 無感情な声の答えで、雅が慎重に問う。

 遅ればせながら、メルの不安の理由を察したのだ。 いや、この場の知り合いたちは、ここで考えは一致していた。

 そしてそれに気付いても、取り繕わず答えるセイは、相変わらずだった。

「この世界の均衡を、壊しかねない血を、根絶やしにするため、だよ」

 この世界を、根絶やしにするのと、同意義の言葉だった。

 





 

ご愁傷様です。

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