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げっそり窶れた父上が帰ってきたのは2日後だった。
あの話の通じない王妃を相手に聞き取りは手こずっただろうことが父上の見た目だけで窺えた。
俺たちいつものメンバーとミラが父上の執務室に呼ばれた。
「まずはミラを抱きしめさせてくれ」
そう言っているが既にミラは父上の腕の中で、さらに父上はミラの頭にスリスリしている。
「お疲れ様です。お義父様」
ミラも喜んでいる。が、俺は面白くない。
「取り敢えず全員座ってくれ」
ローガンとセナが固辞するが、父上の話が長くなると言う一言で全員が席に着いた。
もちろんミラは俺の隣だ。
それぞれの前にお茶と軽食が置かれると侍女達が退室するのを確認してから父上が話し出した。
あの後、王妃の私室に場所を移動し聞き取りを始めたそうだが、俺がミラを連れ去ったことで取り乱し、落ち着かせるまでにかなり時間を要したそうだ。
それからが更に大変で、王妃が陛下に過去の恨みをぶつけたそうだ。
『好きでもない男』『嫌いだった』『貴方のせいでどれだけわたくしが辛い思いをしたと思っているのか』『ライラと姉妹になる為の婚姻』『ライラがいれば夫も腹を痛めた子もいらない』等など・・・
(本人を前にして言ったのか・・・仲睦まじいと思っていたが、それが王妃の本心か・・・キツイな)
王妃はカイルのミラを攫う計画を知り、カイルの計画を阻止しようとする陛下の作戦も手に入れ、裏をかいてライラを手に入れたと。
開き直った王妃は陛下と出会ってからの気持ちと、学院での理不尽な虐めや仕打ちの数々を全て話したそうだ。
(王妃はその頃から壊れてしまっていたんだろうな)
そんな時に助け出してくれたライラ叔母上を救世主のように感じたそうだ。
(ライラ叔母上に異常とも言えるほど執着してしまうのも仕方がない事なのか?・・・いや、それでも誘拐や監禁は重罪だ)
そしてミラとの1ヶ月以上に及ぶ生活の話になると、それまでとは態度も変え恍惚とした表情で楽しそうに、幸せそうに話したそうだ。
『ライラは好き嫌いがないから何でも食べますのよ』
『ライラは子供を産んだとは思えない程肌も若々しいの』
『一緒に刺繍もしましたのよ?相変わらず不器用なところもライラらしかったわ』
(ミラ・・・刺繍の腕など必要ないからな。そんな恥ずかしそうにしなくてもいいんだよ?)
暫くはその調子で機嫌良く話していたそうだが、それまで一言も言葉を発しなかった陛下が王妃に声をかけた途端豹変したそうだ。
『・・・・・・ずっと、ずっと、ライラと一緒にいられると思っていましたのに!本当に貴方が嫌い!イーサン様!貴方も嫌い!カイルも!オズワルドも!嫌い!ライラを奪ったボイル侯爵が一番嫌い!・・・わたくしはライラだけが好きですの!他の人はいりません!』
それからは落ち着くまで相当時間がかかったそうだ。
結局、最後まで王妃がライラ叔母上の死を認めることはなかったそうだ。
カイルもオズワルドも俺も成長しているのに、ミラだけが王妃の中では幼いままだと。
今回の処罰が決定するまでは王妃に監視をつけてそのまま私室に閉じ込めるそうだ。
(幽閉か・・・毒杯か・・・どんな処罰になろうが、もう王妃として表に出ることは出来ないだろうな)
陛下の落ち込みようは見ていても辛いものがあった。と・・・
『王妃がおかしくなったのは私が原因だったのか?・・・初恋だったんだ。初めて出会った時フィリスは不安そうな顔をしていたんだ。そんな彼女を守ってあげたくなったんだよ。私がした事は中途半端だったんだ・・・言い訳に聞こえるかもしれないが、私が卒業した後も何度も彼女に聞いていたんだ、「虐めや暴力を受けていないか?」「学院は楽しく過ごせているか?」フィリスは微笑んで大丈夫だと、楽しいと言っていたんだ』
『兄上だけの責任ではありません。私も気にかけていましたが気づかなかったのですから。あの当時の令嬢たちは巧妙に上手く隠れて王妃を壊していったのですね。気づいて救い出したライラに依存してしまうのも無理はありません』
『だからと言って無実には出来ない』と陛下はそう言って涙を落としたそうだ。




