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満面の笑みで入ってきたのはこの部屋の主である王妃だった。
その笑顔が見る間に怒りの表情に変わり、ミラを抱いている俺に向かって飛び掛ってきた。
「何をしていますの!わたくしのライラに触らないで!!」
はあ?それはこっちのセリフだ!
それにライラだと?
頭がおかしくなったのか?
まあ、こんな事を仕出かした奴だ、正常な訳が無いか。
「フィリスやめるんだ!」
「へ、陛下・・・」
「お前は自分が何をやったのか分かっているのか!!」
「ええ、やっと、やっとあの男からライラを取り返すことが出来たのよ!褒めてくれてもいいぐらいですわ!」
あの男とは・・・ボイス元侯爵で今は子爵、元ミラの父親のことだと思う。が、取り返したとは?
「そんな事は今はどうでもいい!先にミラにつけている首輪を外すんだ」
「え?それは嫌ですわ」
!!
「いい加減にしろ!俺たちがどれだけミラを探し回っていたのか知っていますよね?その犯人が王妃だとは!!早く首輪を外してくれ!!」
怒りのあまり王妃を怒鳴ってしまったが悪いとは思わない。
今もミラは瞬きしかしないんだぞ!
隷属の首輪でどんな命令をしたんだよ!
「??何を言っていますの?わたくしの物を取り戻しただけですわよ?」
!!
話にならない。
「フィリス・・・話は後でしっかり聞かせてもらうから、先に首輪を外すんだ」
「・・・嫌!だって外すとライラをあの男の元に返すのでしょう?」
やはりミラをライラ叔母上だと思い込んでいるのか?
「あいつには返さないと約束する。だから早く外してやれ」
陛下は表情には出ていないが犯人が自分の妻だった事に加え、王妃の悪気のない言動にショックを受けているはずだ。
それでも王妃を刺激しないように、諭すように根気よく説得を続けてくれた。
その結果、最初の頃よりは落ち着いて話が出来るようにはなったが、ミラの首輪を外すことだけは拒否し続けている。
無理矢理従わせることも出来るだろうが、陛下はそれを選ばなかった。
俺なら一刻も早くミラを解放する為なら手段を選ばない。
ただ、今のミラの命を握っているとも言える王妃を刺激するワケにはいかないと陛下は判断したんだ。
その説得の間、俺の膝に乗せてミラが消えてしまわないように抱きしめていた。
父上も今回ばかりは殺気を飛ばしてくることは無かった。
俺の隣に座りずっとミラの頭を撫でながら泣いていた。『なぜこの子ばかり辛い目に・・・』初めて見る父上の涙。
よく見れば随分窶れている。
そうだよな・・・ミラを大切に思っているのは俺だけじゃない。母上だって・・・や、やばい。
「ち、父上・・・ミラが見つかったと母上に連絡をしないとずっと待っていますよ」
!!!
「す、すぐに使いを向かわせる」
父上は慌てて部屋を飛び出して行った。
ミラが見つかった安心と、この状態のミラの解放のことで頭がいっぱいで、家で待つ母上やローガン、セナの事をすっかり忘れていた。
次に家に帰る時はミラも一緒だ。
まだ、王妃は拒否をしている・・・。
解放した時点で王妃の地位を失うからか?
いや、地位を失うだけで済まない。
王妃のした事は拉致、監禁、禁忌魔道具の使用、ミラを攫うために死人まで出ている。
それとも王妃は・・・。




