12
俺たちが2年に上がる前日の夜、父上の執務室に呼ばれた。
部屋には両親とローガン、セラ。
既に父上と母上には報告済みなのは、二人が難しい顔をしていることが何よりの証拠だ。
「何があった?」
「はい。新学期から編入してくる生徒の名前が・・・エルザと申しまして、孤児院に送った娘と同一人物だと思われます」
「貴族しか通えない学院だぞ?」
「はい、孤児院を援助していたカトラーレ子爵に気に入られたようで・・・引き取られたそうです」
「だが、子爵にはエルザの事は伝えていたはずだろ?」
「その子爵が急死し、跡を継いだ息子には伝えられていなかったようです」
はぁ・・・
「デューク私なら大丈夫よ」
深いため息をつく俺の手を握って、微笑みを見せるミラ。
「私にはローガンもセナもいるし、デュークが守ってくれるんでしょう?」
ああ、ああそうだ!
俺はミラを守るためなら何だってする!
「当たり前だろ?」
「ふふっ、それに私とエルザは血の繋がりもない他人よ?親しくする必要もないわよね?」
「そうだよな!」
「それにね・・・ふふっ、私だって大好きなデュークを守りたいと思っているのよ?」
くぅ~俺のミラが可愛すぎる!
なんだよ、なんなんだよ!守りたいって!
自然とミラを抱きしめようと手を伸ばそうとした瞬間・・・分かっていますよ?手を繋ぐところまで・・・ですよね?
だ・か・ら!皆んなして俺に殺気を向けるなよ!
ミラが作り出したほのぼのとした空気が殺伐とした場になるじゃないか!
「さあ、明日から登校よ。2人ともそろそろ寝なさい」
「気になる事があれば、些細なことでもいいから相談するんだよ?」
それに俺たちは頷いて自室に向かった。
「ミラ、本当に大丈夫か?」
「うん、デュークってば心配し過ぎよ」
「・・・わかった。でも何があっても俺が守るから」
これは絶対だ。
朝クラスメートの顔を確認したが、エルザの顔は確認出来なかった。
まあ、前回は侯爵令嬢として育ったはずなのに阿呆そうな顔と話し方だったからな。
やはり今回も阿呆なのだろう。
クラスが違えばそう会うこともないだろう。心配事が一つ減ったな。
と、思っていたのだが・・・
新学期が始まって何事もなく一週間が過ぎた頃だ・・・
食堂に向かう俺たちの前からパタパタと走ってく令嬢らしくない女が・・・
「お義姉様~、お会いしたかった」と、目に涙を浮かべてミラに抱きつこうとした女が・・・
周囲の生徒たちもその女の言葉と光景に頭に???マークを浮かべているようだ。
そりゃあそうだろう。
実際にその女、エルザが抱きついたのは140cm程しかないセラだったのだから。
うんうん分かるぞ。
どう見てもセラの方が妹にしか見えないよな。
エルザがミラに抱きつく寸前でセラが間に入ったのがこの光景なんだが・・・
「私には妹なんて居ないんだけど!アンタ誰?」
「ち、違います!わたくしのお義姉様はコッチです」
おいおい、人に指を指すなって教わらなかったのか?
この礼儀知らずな女に周囲の生徒たちも眉を顰めるているのが分からないか?
「どなたですか?私にも妹はおりませんが」
よかった・・・エルザを見てミラが過去の虐待などがトラウマになっていないかだけが心配だったが、様子を見る限り大丈夫そうだ。
「お義姉様!わたくしです!エルザです!!」
「・・・ああ!ボイル子爵の後妻の連れ子の方にそのようなお名前の方がいましたわね」
今思い出したかのように胸の前で手を打つミラ。
ミラがウチの養女になった経緯や、ボイル子爵家が以前は侯爵家だった事を当時幼かった生徒達は知らない奴が殆どだろう。
『後妻の連れ子って、なあ?』
『それ他人じゃん』
『公爵令嬢に抱きつこうとしたぞ』
『ちょっと可愛いけど、あれはないな』
周囲からの視線も声も気にならないのか・・・馬鹿だから気にならないのだろう。
「そ、そんな酷い!お義姉様はいつもそうやって、わたくしを虐めて楽しいですか!」
周囲の生徒たちの頭に本日二度目の???マークが浮かんでいる。
皆んな思っているぞ。いつもっていつだよ!ってな。
馬鹿だとは思っていたが本当に馬鹿だった。
困惑する周囲と顎が外れそうなほど口を開けて驚愕を隠せないセラ。
ミラは左右に首を振って背を向けた。
俺もそれに続こうとしたのだが・・・
「貴方なら分かってくれますよね?」
周囲の反応が思っていたものと違って焦ったのか、今度は俺に同意を求めてきた。
見下ろす俺に胸の前で祈るように手を組み、上目遣いで目には涙を溜めている。
・・・あざとい。
コレがこいつの可愛いと思うポーズなのか?
ミラに同じポーズでお願いされたら、どんな事でも叶える自信がある。
ほんとミラと比べると雲泥の差だな。
「ミラの傍にいつも居る婚約者の俺が、お前を知らないのに、いつミラがお前を虐めるんだ?」
「え??」
何を驚いているんだ?
「今、お前は公爵令嬢であり、俺の婚約者であるミラを嵌めようとしたのか?・・・命が惜しくないのなら続けろよ。誰が誰をいつも虐めているって?」
見る間に顔色が青に変わっていくエルザにさらに追い打ちをかけようとしたところで・・・
「デューク、もうそのくらいで許してあげなよ」
と、そこへ颯爽と現れたのは我が国の第二王子オズワルド。
麗しい美貌のオズワルドの登場にここぞとばかりに縋り付くエルザ・・・目がハートになっているぞ。
オズワルドはそれを冷めた目で見下ろしてから俺に小さく頷いて見せた。
「デュークはミラに付いていて。私はこの令嬢の話を聞いてあげるよ」
ふぅ~今回のオズワルドは大丈夫そうだ。




