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240  作者: Nora_
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02

「ねえ六車君、確かお姉さんがいるとか言っていたよね?」

「いないよ? 僕がいつも口にしているのはここにいる瀧本先輩のお姉さんのことだよ」

「あ、そうなんだ。まあ、どっちでもいいんだけど会ってみたいんだ、大丈夫かな?」

「大丈夫だと思うけどそこはこの人に聞いてもらわないと」

「い、いや、怖いから六車君がお願い」


 彼に付いてきてこれまでわいわいとやっていたのに怖いとは何故なのか。

 一応、聞きやすくするために彼女の方を見てみたが「怖い……」と余計に怖がらせてしまったみたいだった。

 仕方がないから前みたいにメッセージだけは送っておくか……。


「どっちにしてもメッセージが返ってきたら言うよ」

「お願いします」

「というか、六車が連れていってやればいいんじゃないか?」

「それは駄目ですよ、だって僕が頼んだら断られる可能性の方が高いですから」


 どこがだよ、これまで一回も断られたことがないのによく言う。

 なんなら彼の言うことならなんでも聞くぐらいだ、家事のことで衝突している俺に言えることではない。


「あ、もしもし?」


 授業が終わって廊下を歩いているときに上手く気づくことができたのはいいがいちいち電話をする必要はないだろう。


「流石に誰が相手でも初対面のときからぐいぐいいけるというわけじゃないし六車君も連れてきてね、あと太君がいてくれないなら断るから」

「おう、じゃあ大丈夫だって伝えておく」

「うん、学校が終わったら私の方からそっちの学校にいくから待ってて」

「わかった、じゃあな」


 遠いから二人のことを考えて、か。

 正直、会いたがっているのは二人の方だから姉貴が気を遣う必要はないと思う。

 性格的に会いたいなら来いとは考えないし言えないだろうから俺が本当は止めなければいけない立場なのか。

 だってなんのために意地を張って家事をしているのかという話になってしまうしな。

 とはいえ、もう今回は変えることはできないから次からはそうしようと決めた。


「あの」

「ん? ああ、いたのか」


 これまた次の休み時間に変なことが起きた。

 単身でやって来たみたいなので話しやすくするために教室から出る。

 相変わらず寒いが俺としても教室で女子と話しているところをあまり見られたくないから仕方がないことだ。


「六車君って先輩のお姉さんが好きなんですよね?」

「さあな、悪いけどそうとしか言えない。隠そうとしているとかじゃなくて中途半端だからさ、なにがしたいのかよくわからないんだ」

「ならもしかしたらという可能性もゼロではない感じですかね?」

「そうだな、絶対なんてことはないからな」


 でも、やりづらいだろうな、だってすぐに叶子さんが~だからな。

 姉がそれっぽいことを一回でもすればぐいっと踏み込みそうだ。

 陽キャだって勇気が出ないときもある、それでも陰キャと違ってずっと臆しているわけではない。

 普段から隠しもせずに表に出している彼だからこそ影響を与えられている可能性も高いわけで。


「好きなんだな」

「あ、いえ、まだ気になっているところです」

「その状態になったら余程のことがない限りは進んでいくだけだからな」

「……ですね、過去に経験があります」


 それより怖いとか言っていたのに大丈夫なのだろうか。

 もう姉が受け入れた以上、無理をして俺のところに来る必要は全くない。

 条件を出されているから今回は同じ場所に存在していなければならないものの、結局のところ本命は姉ではなく六車なのだから次もない。


「先輩はありますか?」

「ないけど実際にそうやって変わった人間を見たことがある」


 姉のことだ、そして実際に上手くいって付き合えるところまでいった。

 その人と上手くいかなくなって別れたところから家事を意地でもやるようになったしそのとき倒れたから――その人のせいじゃねえか。

 家事のことでしょうもない言い争いをすることになったのもそこからきていると考えると萎えるな。


「六車はなんかまたよく来てくれるようになったからな、それだけで俺からしたらいい人間に見えるし思う。大して知らないけどそんな六車が俺のときよりも近くにいるんだろ? やりづらいこともあるだろうけどありがたいことだよな」

「はい、ちゃんとこっちにもどうしたい? と聞いてくれるところが特にありがたいところなんです、あとはまあ……身長も高くて格好いい……ですからね」

「はは、そうだな」

「で、でも、まだ気になっているだけですから!」


 どちらでもいい、悲しそうな顔ばかりをするようにならなければそれでいい。

 だが、頑張れとかは言わないようにしておいた。

 俺に言われなくても努力をするだろうし上手くいかなかったときにこちらが気にしたくないから。

 上手くいくことだけを考えてやれよと言われてしまうかもしれないが残念ながら性格的に無理だったからせめてものという話だ。

 それよりも放課後にどういう風に存在しておくかをよく考えておく必要があるため一人の時間が必要だった。




「でね、新しくできたお店はそこまで女の子寄りって感じじゃなくてね」

「へえ、じゃあ僕がいっても楽しめそう?」

「うん、だから今度いこうよ、大体どこになにがあるのか覚えたから案内してあげる」

「お願いね」


 あ、これは姉ではなくあの女子が六車と盛り上がっているだけだ。

 姉は注文したコーヒーを飲んで黙っている、俺も当然黙っているしかない。


「ねえ太君、帰って家事をしてもいいかな?」

「協力してやるか」

「うん、言い争いになるぐらいなら協力してやった方がいいからね」


 ということで金を置いて出てきた、止められなかった……。


「はあ~せっかくこっちまで来たのになあ」

「どこか寄っていくか?」

「ん-今日はいいかな、今度お出かけしたい」

「それなら友達といってこいよ」

「うん、友達とも太君ともいくよ」


 一緒の日でもなければ構わない。

 途中、おでんという言葉に負けそうになったが二人で誘惑に打ち勝ち家まで帰ってきた。

 料理は任せて洗濯物を取り込んだり畳んだりしていく。


「暖房はいいなあ」

「寒い場所でも友達がいてくれたら寒さも気にならないよ」

「俺は無理だな」


 六車のことはいい奴だと思っているがそこまでだ。

 誰かといられてポカポカ温かい気分に~なんてなった経験がない。


「ならこうして手を繋いでいたらどう?」

「そんなことをしていたら馬鹿姉弟になってしまうだろ」

「女の子の友達はいないみたいだからあっちの学校では六車君とすれば――あいた……」

「馬鹿なことを言っていないで食べようぜ、来たということはもうできたんだろ?」


 六車がそんなことをしてきても姉といたいからでしかない。

 そこから手を離しつつわかったから離れろよと折れているところしか想像できないから駄目だ。


「「いただきます」」


 矛盾しているがご飯に関しては全て姉に任せてしまった方がいい気がする。

 意地を張っていたあの数日間は自分で作っていたものの、開けるときのワクワクしたそれが全くなかった。

 あ、はい、そうですよねというそれとうんまあという味、食事の時間は楽しくなければならないのだ。

 趣味がないから食事とか入浴とかそういう時間をいいものに変えていかなければならないのにそれではね……。


「ちょっとじっとしてて、はい、取れたよ」

「まだまだ子どもだな」


 なんか俺が小さい頃の母みたいな顔をしていて直視しづらいんだよな。

 女子の方が色々な面で早く育つというのは本当のことみたいだ、ただ、これも別れたことからきているのだろうかと考えてしまった。

 ならいまも付き合ったままだったらどんな姉になっていたのか。


「うん、作った人間としては嫌そうに食べているわけじゃないから安心できるけどね」

「当たり前だろ、姉貴が作ってくれた物は全部美味しいからな、あっ、嫌いな物は無理だけど……」

「それならお姉ちゃんって呼び方に戻してほしいな」

「なんにも繋がっていないだろ」


 姉はたまにおかしくなる……のもなあ。

 でも、弟にできることなんてほとんどない、またあのときみたいに倒れないように協力をするぐらいか。

 しかし……これにしたって役に立てているのかどうかわからない。

 やっぱり両親の片方でも早く帰ってきてくれればもう少しぐらいはごちゃごちゃ考えずに済むのに……。


「ごちそうさま、洗ったら風呂に入ってくる」

「置いておけばいいよ」

「やめろよ、すぐに甘えたくなるだろ」


 まあ、二人分ぐらい一気にやった方が効率的だとは俺もわかっているが流石にな。

 なんかこれなら俺がいない方がよかった、一人だと力を抜いてこれだというところでなにもしないことを選べたのにな、と。


「はあ~」


 冬の風呂は好きで嫌いだ、出られなくなるから厄介だ。

 あと、本当なら一番に入らせてやりたいが姉の後だと入りづらいからこうして先に入らせてもらっている。

 中学生ぐらいからもう駄目だった、意識しているみたいであれだが無理だからどうしようもない。


「冷めたら追い炊きしてね」


 なのに姉はよくこうして入浴中にやってくる。

 追い炊きなんて言われなくてもする、いやしないと出られないからいちいち言わなくていいのになんだこれは。


「姉貴は寂しがり屋なのか?」

「うん、そういうのはあるよ、だから毎日太君の時間を貰うでしょ?」

「だ、だからって風呂に入っているときぐらいはよくないか?」


 何故黙る……。

 気になるからまた出てもらってさっさと服を着た。

 勢いが大切だからこうして出られる点はいいが困るのは困るからな。


「もう、あんまり拭けていないよ、そこに座って」

「いいよ、こんな程度で風邪は――誰か来たな、出てくる」


 鍵を開ける前に誰が来たのかはわかった。


「こんばんはー」

「これまでなにをしていたんだ?」


 遠いのによくやるよ。

 幸い、あの女子は連れてきていないみたいだったからそこはいいが。


「ずっとお店で喋っていました」

「……上がれよ」

「はい、お邪魔しまーす」


 真っ暗ではあるがこれでもまだ十八時半とかだから距離を考えなければそこまでおかしな行為でもない。

 気になる異性でもいれば寒さなんかも気にしないで頑張れるということなのだろう。

 とにかく、もう誰に会いに来たのかなんて聞く必要もないから飲み物だけ出して部屋に戻ってきた。


「いやー暖房が効いていなくても外より暖かいですねえ」

「姉貴はいいのかよ?」

「はい、だっていまからお風呂に入ろうとしていたところですよね? 邪魔なんてできるわけがないじゃないですか。それにお風呂に入った後の瀧本先輩とのお喋りを楽しみにしているという話でしたし尚更邪魔なんかできませんよ」

「よく知っているんだな」

「全部教えてくれました」


 ストーカーでもなければそうだろう、教えてくれなければなにもわからない。


「あっ、それよりも途中で帰らないでくださいよっ」

「今更かよ……大体、呼び止めてこなかった時点でな」

「二人が黙ってしまったからあの子もこっちに話しかけてくるしかなかったんですよ」


 うわあ……マジでいるのかこういう奴――と言いたいところだがそれこそ姉があの人のことを気にするまでは異性がアピールをしてきても全くわかっていなかったから今更になって同類を見つけたことになる。

 なんで求められる人間に限ってこうなのか、それとも演技? 大変なことにならないようにわかっていながらも気が付かないフリをしているだけなのか?


「なんかこそこそして怪しいですね、こうして手を繋いじゃったりしているんじゃないですかー?」

「よくできるなそんなこと」

「握手と変わりませんよ。ふむ、瀧本先輩の手は大きいですね、頭を撫でられたら気にしている女の子は一発で駄目になるかもしれません」

「そんな効果はねえよ」


 あるなら泣いている顔を四回以上見なくて済んだ。

 結局、あのとき力になれたのは両親だけだ、俺は負担をかけただけでしかない。

 ただ笑顔になればいいわけではないとわかった件だ、もう痛々しくて仕方がなくて俺の方が逃げていたぐらい。


「太君入るよ」

「おおっ、湯上り姿の叶子さ! ……ん?」


 布団で顔以外を隠していて妖怪みたいだった。

 それでも流石と褒めるべきかすぐに陽キャは「その姿も新鮮でいい!」と盛り上がっている。


「まだ六車君に見せるのは早いからね」

「瀧本先輩ならいいんですか?」

「それは家族だからね、太君は普段からもっとすごい私を見ているから余裕だよ」


 普通の姉貴しか見たことがないから勘違いはしないでほしい。

 彼氏とデートのときはそれはもう洒落た格好をしていたがな。


「も、もっとすごい叶子さん……だと!?」

「あーえっちな顔をしているね、やっぱり私の対応は正解だったんだ」

「そんな顔はしていません、ほら、真面目な顔です」

「ん-付き合っていた男の子の顔の方が好きだな」

「「え」」


 いやまあ好きになった人間と比べればそうだろうがいちいち出す必要はないだろう。


「え、だ、だって好きになって付き合ったぐらいなんだよ?」

「いやそうじゃなくて、いいのか……?」

「あはは……もう過去のことだもん、六車君に知られても問題ないよ」


 本人がいいなら気にしていたところで気持ちが悪いだけだからここでやめておくか。

 興味を持つかどうかはわからないが今度動こうとした際にもいまの発言は大きい気がする。

 実際に動こうとしたときにごちゃごちゃ心配されたら面倒くさいだろうから。


「つ、付き合っていたのか……って、普通ですよね、叶子さんレベルの人が未経験なわけがないですもん」

「あっ、き、キスは未経験だけど」


 なーにを言っているのか……。


「なんと! じゃあ次に付き合えた人はラッキーですね」

「それはどうかわからないけど……今度は長く続くといいな」

「そうですね、僕だったら途中で別れたりしませんけどね」

「ははは」

「む、本当ですから」


「え、六車君……?」となるには好感度が足りなかったな。

 頑張るのはいいが別のところでやってもらいたかった。

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