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240  作者: Nora_
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「うわ……」


 変な夢を見たうえにまた変な時間に起きてしまって朝から最悪だった。

 とりあえず水を飲むために下りたら「早起きだね」と急に横から喋りかけられてひっくり返りそうになったぐらいだ。


「な、なにをしているんだよ」

「早く目が覚めちゃったんだ」

「と、とりあえずどいてくれないか?」


 その変な夢には姉が関係しているから正直に言って顔が見づらい。

 たまにぶっ飛んだこともする姉でも夢に出てきたときみたいなことはしないはずだ。


「ふぅ」

「太君、もうチョコを渡しておくね」

「ありがとな」


 忘れかけていたがこの姉ももう少しで卒業というところまできているのか。


「そんなにじっと見てどうしたの?」

「もう卒業だよな」

「あ、うん、ずっとはいられないからね」

「でも、卒業しても特に変わらないよな」


 そこは間違いなくいいことだった。


「元々、同じ学校には通えていなかったからね、大学生活に合わせて出ていくとかもないからまだまだ安心してくれていいよ。元気なお姉ちゃんはいつも側にいるよ」

「なら頼むわ、姉貴がいなくなったら家事をするやる気もなくなるからな」


 目の前で食べるのも気恥ずかしいから歯を磨いてから部屋にこもって味わって食べた。

 他の異性から貰えるなんてこともないからこの姉から貰えるチョコだけが頼り……かもしれない。

 当日を迎えてもあくまでいつも通りでいられているのはこれのおかげだよなあ。


「あ、戻ってきた」

「美味しかったぞ」

「はは、もう食べちゃったんだ」

「嫉妬しないためにも必要なことなんだ」


 心配しなくてもという話ではあるが三澤が勇気を出せるように願っておく。

 変な時間に起きたことで時間だけはあるのだ、ただぼうっとしておくよりはこうしておいた方がいい。

 まあ、ずっとは集中力的に無理だから家事なんかをやり始めたりもした。


「どうせ渡すんだろうけど他にもあげるんだろ?」

「うん、女の子の友達にね」

「別に隠さなくてもいいだろ」


 三澤のことを気にしている琢だって求めているみたいだし元カレの中にだってあるかもしれない。

 やはりあそこで俺が変な対応をしたことが悪かったのか、最近は慎重になってしまっている気がする。

 矛盾していて悪いが姉のしたいように行動してくれればいいのだ。


「あの子にはあげないよ。最近教えてくれたんだけど好きな子ができたんだって、多分だけど渡したところで受け取ってもらえないと思うから」

「だから本当は渡そうとしていたってことだろ?」

「ふふ、やたらと気にしますねえ?」


 にやにやと笑みを浮かべている場合ではない。


「いや、だってその方が自然だろ」

「渡さないよ、六車君には求められたからあげるけどね」

「琢はすごいな、俺なんか直接求めるなんてできないぞ」


 冗談でも言えるような存在がいない。

 これは幼稚園時代からずっとそうで変わらないことに安心すらできてしまっているぐらいだった。

 だから三澤の好意が最初から最後まで琢に向いていたことに感謝しかない。


「太君の場合、この子だって女の子と出会えていないからじゃないかな」

「毎年、姉貴から貰えてそれで満足できてしまうのも大きいな」

「む、そうなると逆効果だったのかな……? 私が邪魔をしてしまっていたんじゃ……」

「そんな訳がないだろ、ありがたいよ、ただ俺に求められるような女子友達がいないだけだ」


 朝から相当虚しいことを言っているよな俺。

 せっかく姉のチョコで整った状態になっても自分のせいで壊れたら意味もないということでなにも発生しようがない話だけをしておいた。


「おはようございます」

「おはよう、こうして校門で待っていたということは琢はまだ来ていないんだな」

「はい、やる気を出しすぎてしまったので六車君が悪いわけじゃないですけどね」


 当然、一緒に残るなんて空気が読めないことはできないから別れた。

 教室に着いても鞄だけ置いてすぐに出る、いつもと空気が違うからいづらいのだ。


「先輩」

「いいのか?」

「六車君にはもう渡してきましたよ」


 やはり余計なお世話だったか、俺なんかよりもよっぽど勇気を出せる人間というところだ。

 同じように壁に背を預けて目を閉じているのが謎だが……。


「あーまた男子と一緒に過ごし始めたからか?」

「いえ、渡した後は一緒に教室にいきましたから」

「ならなんでここに……?」

「お散歩です、そうしたらたまたま先輩が廊下にいたので相手をしてもらおうと思いまして」


 それこそ仲のいい女子同士というわけでもないのだから一緒に過ごしたところでなにかが出たりはしないが。

 仮にいくとしても本命に渡した後すぐである必要はない。

 まあ、心臓に影響がゼロというわけではないだろうから少し距離を作りたいだけなのかもしれないがその場合は留まるよりも歩き続けることが効果的だろう。


「これをどうぞ」

「いやいや、なにかの間違いだよな?」

「間違いじゃありませんよ」

「ありがたいけどそこは琢にだけでいいだろ」


 ここでありがとなと終わらせられないところに駄目なところが出てしまっている。

 毎年、安定して貰えるような人間とは違って余裕のなさが出すぎだ、これでは安定することなんか一生ない。

 ただ? これは本命がいる相手から貰った場合だけかもしれないし……俺だけが悪いわけでもない気がすると、更に駄目なところを見せていくスタイルだ。


「……だって六車君にだけあげたら露骨すぎるじゃないですか」

「はは、それを聞けたら安心できたけどな」

「先輩はおかしいです」


 自覚しているから安心してほしい。

 あとこうして奇跡的に貰えても姉のそれよりも食べづらいところがあることを知ったバレンタインデーとなった。




「それが毬花ちゃんから貰ったチョコなんだね」

「おう」

「それなら早く食べてあげないと、なんで食べないの?」


 それは姉貴が見てきているからだ、しかもこういうときに限って真顔でな。

 しかも部屋でのことだから逃げられない、ここにだって付いてきたから離れたところで姉は一緒だろう。

 そんなに必死になるほど三澤からのチョコを欲しがっているのだろうか?


「なーに? 可愛い後輩の女の子がくれたからなの?」

「違うよ、姉貴がガン見してくるからだ」

「ああ、私のことなら気にしなくていいよ、それより早く食べて感想を聞かせてほしいな」


 でも、時間をかけすぎても食べづらくなるだけなのは事実だった。

 だから勢いだけのところもあったがなるべく味わって食べさせてもらったら甘くて美味しかった。


「それで?」

「美味しかった、姉貴のは少し苦かったから甘さ全開なのがいいのかもしれない」

「ふーん、じゃあほら、私のスマホを使っていいから言ってあげなよ」

「いや、流石にそれは直接言うよ」

「なんで?」


 いや、逆になんで今日の姉からはこんなに圧を感じるのか。

 朝から喧嘩をしていたとかでもないし放課後だってすぐに帰ってきたのにこれだ。


「どうしたんだよ?」

「……だってどうせ可愛い後輩の女の子から貰えたことの方が嬉しかったでしょ?」

「ん-ありがたかったけど申し訳ない気持ちになったからな」


 ありがとうで終わらせておけばいいのに余裕のないところを晒してもしかしたら微妙な気持ちにさせてしまっていたかもしれない。

 経験を重ねていかなければずっとあのままだが相手を微妙な状態にしてしまうぐらいならない方がいいという難しいところがある、そういうのもあって姉からだけというのは楽でよかったのだ。

 返すときも実際に連れていってでも問題にはならないのもいい。


「なら私からのときは?」

「それはなければ困る、今年は変なことが起きただけで身内から以外はゼロだからな」

「なんか適当……」

「適当じゃないよ、それ前提で動いているんだから頼むぜ」

「やだ」


 おいおい……。

 ま、まあ、もう終わった話ではあるから来年までになんとかできればいいか。


「どーん、ばーん」

「な、なんだよ」

「そうやってすぐに離れるところが怪しいんだよー」

「三澤には本命がいるんだからさ……」

「関係ないよ、その状態でもくれたんだから」


 とりあえず攻撃されては困るから座らせてから距離を作った、「どーん、どーん」などと口にしながらあっという間に近づかれて終わった。


「私は今日やっとあのときの太君の気持ちがわかったよ、仲がいい異性の子とはいてほしくないよね」

「待て、元カレの話をしたときのこととか――」

「だって露骨だったもんね、あれだと人によってはそういう風に見えちゃったんじゃないかな?」

「まあ、姉貴に対しては踏み込んだ考え方をするときもあるけど……」


 なんかシスコンみたいで恥ずかしくなってきた。

 それもこれも振られてからあんな顔をしつつ倒れたりした姉のせいだ。


「ならいいよね」

「な、なにが?」

「もう私達が付き合っちゃおう!」


 もうそのことなんてどうでもよくなるぐらいにはぶっ飛んだ発言をしてきやがった……。

 どうして今日はこんなにおかしいのか、それこそ誰かに告白をして振られでもしていなければ合っていないテンションだ。


「よ、酔ってんのか?」

「ううん、素面だよ?」

「え、前々からそうだったわけじゃないよな? あ、いや、いまだってただの冗談だろうけどさ」

「ううん、冗談じゃないよ、前々からでもあるしね」


 逃げ……ようとしても俺の部屋だからできないんだよなあ。

 しかも自分が扉前に座らせたせいで余計にできなくなっているアホ、困ったものだ。


「どう?」

「いや、姉貴なら余裕でできるんだから外で探せよ」

「嫌だ、うんって言ってくれるまでずっとここから動かない」


 二人だけではどうにもならないから邪魔をして悪いが琢を召喚することにした。

 もちろん途中までは迎えにいった、ついでに欲しい物を買わせてもらうこともした。


「ちょっと待ってください、太樹先輩的に問題があるとかどうかは置いておいたらどうなんですか?」

「それは……」

「即答できないということはアリ、なんですよね?」


 まあ……関係が変わったところでいつも通りにやっていくだけだから問題もない。

 全てを吐けば誰がどう見てもシスコンで気にしているぐらいだから寧ろ安心できる……可能性もある。


「それに三澤さんまでも取られたら嫌なので」

「そんなのじゃないだろ……」

「とにかく、いま大事なのは太樹先輩的に大丈夫かどうかですから」


 もうこれ以上は変わりようがないか。

 自分がどうかというのもその通りでしかない、すぐに馬鹿なことを言っているなよと切り捨てなかった時点で答えが出ているような気がする。


「……わかったよ、もう家まで送るわ」

「え、このままいきますよ?」

「そ、そうか? なら入るか」


 で、入った瞬間に琢に抱き着いた姉がいてなんだそりゃとなったがどうやら事故みたいで離れてからはこちらにくっついてきた。


「やっぱりお姉ちゃんより六車君なんだ」

「違うよ、どうにもならないから来てもらっただけだ」

「そうですよ、安心していいですよ」


 彼が来ても一切変わらなかったから後は本当に姉次第だった。

 まあ、損なこともないから任せておけばいい。


「え、放課後はすぐに別れちゃったの?」

「はい」

「それは寂しいだろうね、私なんて距離がある分、太君がすぐに帰ってこなくて寂しくなっちゃったぐらいなのに」

「でも、チョコは貰えましたから、それだけで本当にありがたいですよ」

「そうだよね、本命の子から貰えたら嬉しいよね」


 ならあのときの告白云々は結局嘘だということになるのか。

 まあ、振った振られたなんて話はなるべくない方がいいからその方がいいか。

 しばらくの間は盛り上がっている二人の会話を聞きつつ黙って座っていた。

 そうしない内にはっきりしないといけない時間がやってくるからそのための心の準備をしているのもある。

 心臓にそう負担をかけないためにもさくっと答えて風呂にでもいけばいい。


「ありがとな」

「いえ、頑張ってください」

「おう」


 相変わらず距離はあるが必要なことだからすぐに仕方がないことだと片付けられた。

 家に着いてリビングを見てみても誰もいなかったから二階へ移動すると「おかえり」と姉が話しかけてきた。


「ん? もう風呂に入ったのか」

「うん、二人ももうすぐ帰ってくるからみんな入っていないと詰まっちゃうから」

「なら俺も風呂に――やっぱり先の方がいいか」

「うん、さっきのあれは冗談じゃないから」


 謎に一歩分だけ離れてから姉が求めるなら受け入れると答えた。

 いやだってこうとしか答えられないだろう。

 シスコン気味なところがあったって特別扱いしていたわけではないのだから仕方がない。


「よし、こうなったら名前呼びね、はい」

「え、叶子って呼ぶのか?」

「あはは、なんか新鮮だ」


 慣れないしいまでも普通に帰ってくるから姉貴のままでいいと思う。

 そもそも姉が飽きればあっという間に終わる関係だからなるべく余計なことはしない方がいい。

 だって色々と変えたうえで飽きられたらそのときの俺がどうにかなりそうだし……。

 あとは姉相手に本気で求めるようになっていっても怖い。


「両親には内緒にしようね」

「まあ、言っても仕方がないしな」


 ぶっ飛ばされることもないが興味を持ってもらえることもないかなと。

「あ、そうなの?」ぐらいで終わるところが容易に想像することができる。

 それでも姉弟で馬鹿なことをし始めたということで流石に興味を持つのだろうか? ……そうなったら面倒くさいからやはりそのままでいいか。


「あとは……お、やっぱり一緒に寝ないとね」

「それなら俺の部屋だな」


 そのまま鵜呑みにしてベッドで二人で、なんてするわけがないからどちらでもいいと答えるのが一番だった。


「えーそこは順番にしようよ、私の部屋のベッドの方が柔らかいよ?」

「正直、床で寝るからどっちでもいい」

「えー」

「じゃ、風呂に入ってくる」


 冷えた体をしっかりと温めておかないと風邪を引いてしまいそうだ。

 もう二月も後半に入るとはいえ、冬であることには変わらないから意識して行動しなければならない。


「えへへ」


 だというのに扉を開けてくる鬼のような人間がいてくれたが。


「今度のお休みは遠出しよう、たまには県外にいこう」

「なにか食べたい物でもあるのか?」

「ううん、ただお出かけしたいだけ、だけど外にいればすぐに気になる存在が現れるだろうから問題もないよね」

「だな、あっという間にそういう男を見つけそうだよな」


 最近、嘘をついたばかりだから元カレとの件も信じられなくなっていた。

 本当はアピールをされていたのにただ断っていただけなのではないかと邪推したくなる。

 いやまあ、戻りたいなら別にその方が自然だからいいのだが、うーん……。


「振られてからずっとそんな浮いた話はなかったのに?」

「探していなかっただけだろ」


 男というのは単純だからにこにこ笑みを浮かべておけば影響を受けたりもするのだ。


「というかさ、ふふ、気にしてくれているみたいだね?」

「そりゃあな、だけど縛るつもりはないから本命を見つけたら言えよ」

「えーなにそれー」


 なにそれって普通の発言だろう。

 考えて言っているのに明らかに不満がありますと言いたげな顔をしていたからはぁとため息が出た。

 で、入口のところにいつまでもいられても困るから一旦廊下に出てもらったのだった。

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