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240  作者: Nora_
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01

 自転車でいくにも歩きでいくにも中途半端な場所に家がある。

 何故そんなことになったのかは家の近くにある高校は学力的に無理だったからだ、私立ではないだけマシだがどうしてもっと努力をしておかなかったのかと後悔した。

 なにが辛いのかと言うと冬は寒い中、朝から頑張らなければいけないから困る。

 でも、それも自分が悪いわけだから誰かのせいにはできないのがアレだ。


「あ、やっと出てきた」

「おはよう、もういくのか?」

「うん、今日は早くいかないといけないから。ご飯を作っておいたから温めて食べて」

「おう、気を付けろよ」


 家が近いからという理由だけではないが姉はいきたかった近い高校に通えている。

 だからまあ、合うことは基本的にない、一緒に登校することもない。

 それでも仲は悪い方ではないからこうしてやり取りはずっと続けていた。

 両親が朝早かったり夜遅かったりするから家事は基本的に姉がやる。

 その際、手伝おうかと言っても全く聞いてくれないから地味に悲しくなることも多いため、時間が合いづらいというのは精神的にはいいのかもしれなかった。

 ただ、無理をして倒れたことがあったからやはりできることはしてやりたいのだが……。


「よしよし」

「え?」

「ううん、いってきます」


 やたらと真面目な顔で見てきていたと思ったら急に変なことをされた。

 昔はよく頭を撫でてもらったりもしていたが俺ももう高校一年生でしかも男だ、定期的に撫でてもらっていたら恥ずかしい存在にしかならない。

 まあいいか、なんにしても俺も学校があるからいかなければならないわけだしな。

 いや寧ろお前の方が早く出ないと不味いだろと言われてしまうだろう。


「さみぃ」


 やはり自転車を買ってもらって自転車通学をする方がいいかもしれない。

 余裕があるときならともかく少しの寝坊なんかをしたらその瞬間に遅刻が確定する、俺はこれでも皆勤賞を目指しているから躓くわけにはいかないのだ。

 いい点はなにかがあっても内側を落ち着かせた状態で授業なんかを受けられることだ。

 だからまあ……悪いことばかりではない――とはわかっていても毎回言いたくなるぐらいの距離があった。


「あ、おはようございます」

「おう、おはよう」


 六車琢むぐるまたく、彼はそれこそ遅刻しそうになったときに出会った遅刻仲間だった。

 とはいえ、同級生というわけではないから一緒にいられる時間は少ない、なにもない場合はこうして挨拶をするだけで終わる日もある。


瀧本たきもと先輩、今日の放課後に瀧本姉先輩に会いたいんですけど可能ですか?」


 瀧本太樹(たいき)が俺の名前、姉の方は叶子かなことなっている。

 違う学校なのにどうして知っているのかは彼が家に遊びに来たときに姉が部屋に入ってきたからだった。

 それからあっという間に盛り上がってたまに一緒に遊びにいくぐらいの仲になっていた。

 だからもう俺のところに来てくれている理由は姉といたいためでしかないのが、うん、寂しい。


「連絡先を交換しているんだからそれで聞けばいいだろ?」

「だって瀧本先輩は瀧本姉先輩、叶子さんの予定を知っているじゃないですか」

「知らないよ、放課後にだってなにか急に予定が入ったりするかもしれないだろ」

「だからその相手は僕ですよ」


 いや、僕ですよと言われても困るが……。


「わかったよ、一応メッセージを送っておいてやるから離れろ」

「お願いします」


 先延ばしにすると忘れるから送ってから教室に向かった。

 しかし……本当に冷える教室だ。

 どちらかと言えば中央というところで窓からも廊下からも距離があるのに関係ないぞとばかりに冷えている。

 暖房とか使わせてくれてもよくないかと文句を言いたくなる。

 珍しいことが起きたのはテンションが低くなりそうだったところで六車が来たことだった。


「放課後になったら先に帰るとかしないでくださいね」

「姉貴が受け入れてくれないと始まらないな」

「仮に無理だったとしてもです」


 いや、必死にこちらに合わせようとしなくたって姉とのそれを邪魔したりはしないのだが。


「え、どうした? あ、冬で風邪を引いてしまったとか?」

「違いますよ、友達なんですから一緒に帰るのは普通じゃないですか」

「そ、そうか」


 なら放課後は予定ができたことになる。

 ただ通って授業を受けて一人で帰るよりは遥かにいい。

 だから地味に喜んでいたら『いいよ』と返ってきていたのでありがとうと送っておいた。


「大丈夫だってさ、家に来いよ」

「よしっ、ありがとうございます!」

「いやそれは放課後に姉貴に言ってくれ」


 そうだ、遊んでいる間に家事をささっとやってしまえばいいのだ。

 ナイスな存在でしかないからもう一度礼を言っておいた。

 なので授業も気持ちよく受けられて、昼なんかも姉策の弁当を食べてからしっかり休めたのもあっていい気分だった。


「いきましょう」

「おう」


 この後輩がどれだけ姉といられるかで結果が変わってくるから頑張ってほしい。

 しかももっとよかった点は家ではなく外で姉貴と遭遇できたことだった。


「たまには外で遊んできたらいいぞ」

「家がいいな、程々のところで家事を――な、なに?」

「いいからいいから、受け入れたんだから付き合ってやってくれよ」

「……わかった。六車君、そういうことだからどこかにいこう」

「はい! それじゃあ瀧本先輩、また明日もよろしくお願いします」


 姉にしか意識がいっていないとしても可愛い後輩だ。

 さて、さっさと家事を終わらせるか。

 たまには外で食べてくるぐらいでいいが普通に帰ってきたときのために全員分を意識して作っていく。

 風呂なんかも溜めたり、掃き掃除なんかも済ませたところで「ただいま」と姉が帰宅。


「あーやっぱり……」

「いいだろ、食べるか?」

「それは食べさせてもらうけど……今度からはやめてよね」

「信用してくれよ」

「しているよ、だけど家事は私に任せておけばいいの」


 なにが姉をそこまで拘らせるのか。

 言い合いになってもあれだから諦めて先に入ってしまうことにした。

 いや、一番に入ってもらう予定だったが誰も入っていないのがもったいないから仕方がない。


「はぁ」


 最近言い出したことではなくて前々から言っているのにこれだから俺の力で変えることはできないとわかった。

 なら他にやりたいことを見つけてもらうしかない、恋なんか一番いい気がする。

 六車と、とは言わないから誰か気になる異性でもいてくれれば楽でいいのだが如何せん、知らないからな。

 こういうときに別の学校というのは困る、つまり結局は努力不足の自分が悪いで終わってしまう話だ。


「太君、すぐに入るから蓋はしなくていいからね」

「もう出るよ、外にいて冷えただろ」

「うーん……太君に追い出されたようなものだからそれだとマッチポンプになっちゃわない?」

「ならないよ」


 俺に見せる趣味も姉に見る趣味もないから出てもらってすぐに服を着た。

 冬は出づらいから好きで嫌いだ。


「ん? そういえば髪の毛がだいぶ長くなったな」

「あ、切った方がいいかな?」

「いや、好きにすればいいと思うぞ、長いときも短いときもあったから違和感は全くないから」

「そっか」


 テレビを見るような趣味もないから湯冷めしないようにこのままベッドに寝転ぼうとして課題の存在を思い出してテンションが少し下がった、が、やらなければいけないからさっさと終わらせてしまうことにする。

 ついでにスマホを出したら『楽しかったです!』と何故か俺に送られてきていて困った、別に報告してくれなくていいのだ。

 六車のことを出した俺だがずっと叶子さんが~と言われ始めても疲れてしまうからやっぱり他の男子の方がいいな。


「入っていい?」

「おう」


 これはいつものことで最低でも三十分ぐらいは姉が意識して集まるようにしている。

 朝はゆっくりできない分、夜ぐらいは~という考えかららしいが休めばいいのにと言いたくなるときは多い。

 いや、実際にぶつけることも多いが全く届かないで終わる繰り返しだった。


「今日は朝からばたばたしていたけど放課後にまで影響しなくてよかったよ、だって六車君からのそれを受け入れちゃっていたからね。誰だって放課後になって急に無理って言われたら悲しいと思うからさ」

「だな、わざわざ俺に送ってくるぐらいには楽しめたみたいだから俺的にもよかったよ」

「でも、どうせなら太君にもいてほしかったな。空気を読もうとしてくれるのはいいけどすぐに帰っちゃうのが太君の悪いところだと思う」

「いやあのまま付いていったら六車に敵視されるだろ」


 いまは変わらなくても関係が深まっていけば自分以外に一緒にいる男子なんて邪魔でしかないだろう。

 俺だって攻撃してくるなんて思いたくはないが実際にそうした人間を見たことがあるから怖いのだ。

 友達がいなくてもなんとかなるようになっているものの、敵ができた途端に普通の学生としても過ごしづらくなるから避けたいのだ。


「学校では実は~みたいなことがあるの?」

「いや? 可愛げのある後輩だけど姉貴にしか興味がないからな」

「私はそう思わないよ、いまは私の番というだけじゃないかな」


 出会ったばかりならそれもあり得たがもう冬なのだからそれはない。


「まあそれはいいや、姉貴が嫌じゃないなら相手をしてやってくれ」

「嫌じゃないけど太君にもいてほしいという話だよ」

「家だけで満足してくれ」

「もう……」


 強制はできないからやはり自分から出ていくようになってほしかった。

 帰ったらすぐにご飯を食べられる状態にしておいてやるから気にせずにな。

 なんかポカポカ攻撃をされているからその全てを防ぎきって部屋に帰しておいた。

 もっと早起きをするためにも早く寝る必要があったからだ。




「ふぁぁ……ねみい……さみい……」


 早起きして洗濯物を干したり朝ご飯を作ったりしたことでもう体力が半分ぐらいしか残っていなかった。

 しかもそのうえで昨日みたいにポカポカやられたから拗ねられた状態で別れてきたのも微妙だ。

 それでも少なくとも一回はできたから悪くはない、放課後も早く帰ってやろうと思う。


「おはようございます」

「おう……」


 この爽やか後輩は冬でも変わらずに元気で羨ましい。


「今日の放課後は予定を入れないでくださいね」

「流石に連日は無理だろ」


 結構なんでも受け入れようとする姉でも連日同じ人間と遊びにいくことはほとんどない。

 また弟の俺から見て無理をしてほしくないから休ませてやってほしかった、と積極的に遊びにいってほしいなんて考えていた俺が言うのもあれだがここは変わらない。


「瀧本先輩に頼んでいるんですよ?」

「俺? じゃあ家でいいか?」

「はい、と言いたいところですけど瀧本先輩達の家って遠いですよね……」

「家が無理なら無理だな」


 昨日の姉の気持ちがいまわかった。

 でも、まだ一回できただけで一日できたわけではないからここで終わらせるわけにはいかない。

 先に帰宅しておいてなにもしない姉ではないからもう走って帰るぐらいでいなければ駄目だから諦めてくれるぐらいが丁度よかった。


「わかりましたよ、いきます」

「無理をしなくてもいいぞ、それに姉貴に会いたいからだってバレバレだしな」

「む、流石にそこまで自分の欲求に従って行動しているわけではないです」


 どうだか。

 まあ、放課後まではいつも通りでなにもない平和な一日だった。

 特に待つこともせずに歩いていると後ろから鞄で攻撃されて意識を向ける。


「よく年上が相手なのにそんなことができるな」

「先に帰るとかありえないですから」

「優秀な後輩は走るのも速いから余裕だっただろ」

「馬鹿瀧本先輩」


 サンドバッグにはなりたくないのだが。

 口撃されるぐらいならいままで通り、挨拶ぐらいで終わる方がいい。


「じゃ、のんびりしてくれ」

「叶子さんの真似ですか?」

「そうだよ、姉貴が帰ってくる前に終わらせるんだ」


 で、終わったら少し寝転ぼうと思う。

 意識して早い時間に起きるのはダメージが残ることがわかった。

 姉はこれを毎日していたわけだからなんでもっと早く動いてやらなかったのかと後悔しているぐらいだ。

 駄目と言われたからなにもしないを繰り返していたなんて馬鹿すぎる。


「極端にやると嫌われますよ、交代交代でいいじゃないですか」

「いやだからそれができなかったから急いで帰ってきてやっているんだよ、姉貴が受け入れてくれていたらこうなってはいない」

「必要なのは話し合いです」

「いやだから――」


 何度同じことを言わせるんだよと吐こうとしたところで「ただいま」と姉が……。


「あー! だからやらなくていいって!」

「落ち着けよ、六車だっているんだぞ」

「六車君がいても関係ないよ! なんで太君がやっちゃうの!」

「なんでって姉貴ばかり疲れることになるのは違うからだ」


 わかるだろ、嫌がらせがしたくてしているわけじゃねえよ。

 そもそも早い時間に母がいてくれたらと面倒くさくなってきて誰かのせいにしたくなる。

 話し合いをしろと言われたってずっと進まない状態で続けたくなんかはない。

 だったらごちゃごちゃ言われてもさっさと動いてしまった方がいいだろう。


「悪い六車、少し姉貴の相手を頼む」

「なら今度は言うことを聞いてくださいね」

「おう」


 この状態でわかるだろうが動いてもらうだけでなにもしない人間ではない。

 姉に求めてばかりだとがっついているように見られてしまうからなんて理由からだろうが俺に用があるならちゃんと付き合う。

 今日だって家事を済ませてしまえば付き合うつもりだったしな。


「六車君、どうせならここで話をしようよ」

「叶子さんも少しは瀧本先輩のことを考えてあげてくださいよ」

「知らない、だって太君は言うことを聞いてくれないもん」


 見られていたってやらせてくれるなら構わない。

 寧ろ雑にやっているだけではないことをわかってもらえるならありがたいぐらいだった。

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