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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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97.何を選ぶか、私が口出ししてはいけない

 夕食会で出た提案に懸念を示したのは私、賛成に回ったのがエック兄様とクラウス、叔父様だった。立場を保留したルヴィ兄様は、もう少し考えたいと答える。私も反対ではないの。


 デーンズ王の攻撃は、アルホフ王国から見たら宣戦布告に等しいわ。内々の会合とはいえ、赴いた自国の王を襲撃された事実は覆らない。腹を立てるのが当然だし、国の面子を考えてもデーンズ王国と戦う理由があった。


「ヴィクトーリア様は、お優しいですね」


 表宮から中の宮へ向かう廊下で、クラウスが穏やかな声で語りかけた。手を預けて並んで歩く彼を見上げる。突然、どうしたのかしら。


「アルホフ王国の民を心配なさっているのでしょう? 王を殺されたことに、憤るのが民です。リヒター帝国でも同じことが起きるはず。隠されて、すべてが終わった後に知っても……取り返しがつきません」


 少しだけ視線を伏せて告げられた言葉に、私は息を吞んだ。立場を入れ替えて想像すればいい。お兄様達に不幸があって、私は何も知らずに泣くだけ。でも後になって「実は」と真相を知らされたら? どうしてもっと早く教えてくれなかったのか! そう抗議するでしょう。


 アルホフ王国が戦いの道を選ぶか、賠償を請求するか。はたまた別の道を模索するのか……選ぶのは私ではなく、彼ら自身だった。勝手に私が決めて押し付けるなんて、冒涜だわ。彼らにも選ぶ権利があり、知る義務があった。知る権利ではない、課せられた義務なの。


 一国の王が謀略で殺害され、その真相を他国が操作して隠したら。私なら相手国を絶対に許さない。


「そうね。彼らの権利と義務を侵害するのは、私の権限ではないわ」


 謀略、策略、様々な知恵を巡らして戦うのは仕方ない。私は民を死なせたくなくて、そのために選べる道に進んだだけ。アルホフ王国の当代王や貴族、民は自分たちで選択するでしょう。


「叔父様に連絡して頂戴。覚悟が決まったわ、と」


「承知いたしました」


「それと……ありがとう、クラウス。愚者にならずに済んだわ」


 私に意見してくれる人がいるのは、幸せなことね。滅びた国々の王のように、独りよがりの愚者になる心配が減るもの。微笑んで彼の腕に寄り掛かった。繋いだ手を解いて、腕を絡める。少し歩きにくいけれど、こうしていたかったの。


「お役に立てたなら、幸いです」


 臣下の口調を崩さないクラウスの微笑みに、ちょっとした悪戯心が芽生えた。


「クラウス、私を呼んでみて」


「ヴィクトーリア様」


「そうじゃないわ。トリアと呼びなさい、命令よ」


 皇族としての命令と突きつければ、クラウスは瞳を大きく見開いた。表情が一瞬固まり、春の雪解けで綻ぶ蕾のように柔らかく動く。仕掛けたのは私なのに、見惚れてしまった。


「トリア様、感謝申し上げます。親しげに呼ぶ皆様が羨ましかったのです」


 どきどきして苦しい。顔が赤くなるのがわかって、混乱しながら顔を逸らした。でも頬だけでなく首も赤いでしょう。バレているのを承知で、顎を反らす。


「っ、婚約者でしょう? 当然の権利だわ」


「では、モーリス殿も同じように?」


「いいえ」


 彼には呼ばせなかった。私の愛称が「ヴィー」でない理由は、皇族特有の慣習があるから。本来なら、私は「ヴィ」の響きを使えない末娘だもの。ガブリエラ様が名前を確定しなければ、全く違う名を与えられたでしょう。


 畏れ多いと名前の変更を申し出た亡きお母様が、せめてもと「トリア」の愛称を使った。いつしかお兄様達もそれに倣う。今になれば、トリアの響きは私を示す大切な宝だわ。私が大好きで、私を愛してくれる家族が使う愛称だもの。クラウスにも権利がある。


「醜い嫉妬でした」


 詫びる口ぶりで、クラウスは眉尻を下げた。ずるいわ、そんな顔をされたら何も言えなくなるもの。

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― 新着の感想 ―
ヴィクトーリア皇妹は、『見えすぎるがゆえの傲慢』に陥っていましたね~ 作中でローヴァイン侯爵が述べていたように、『國の進路』は『自國民が決める』ものであって、他國は助言や支援に留めるのが筋。 ヴィクト…
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