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94.未熟な恋 *** SIDEウルリヒ

 化粧直しを終えた姪は美しかった。いや、たとえ化粧をしなくともトリアに見惚れるだろう。文武ともに備え、整った外見や気の強さも武器に変える。


 高望みをしないと決めたのは、自分自身だ。神殿に入り、大神官を目指したのも、心を鎮めるためだった。


 トリアが八歳の頃だったか、誘拐未遂事件が起きる。連れ去られそうになったトリアは、なんとか無事に助け出された。咄嗟の機転で、部屋の扉を封鎖したらしい。


 助けに来た騎士も開けることができず、扉を叩き壊したほどだ。机や椅子が複雑に組まれ、その見事さに大人が絶句した。部屋にいた侍女エリーゼと二人で作ったというから、彼女の才能は抜きん出ている。


 ルートヴィッヒ、エッケハルトにフォルクハルト。兄を三人も持つ末姫だが、ヴィクトーリアが一番輝いていた。まだ若かった私も見惚れ、心が囚われていく。神殿へ入らないかと提案されたのは、この時期だった。


「トリアとお前の結婚は認めてやれない。わかるな?」


 血が近すぎる。皇族が真っ先に習うのは、血統を残すこと。兄上の言い分は理解できた。もしヴィクトーリアと結婚できても、子は望めないだろう。年の差だけなら、王侯貴族によくある話だが……血の濁りは許容できなかった。


 兄上は義姉上に惚れて妻に娶った。だが生まれた子は、ルートヴィッヒだけ。皇族を増やすために、各地から側妃を娶った。それぞれに子を産ませた兄上の努力が、ヴィクトーリア達だ。俺が台無しにするわけにいかない。


「一族同士が惹かれ合うのは、呪いのようなものだ。神に仕え、いずれあの子らの助けになってくれ」


 兄上に頭を下げて頼まれる。滅びたリヒテンシュタット帝国は、皇族同士の血族婚が続いた。その濁りは、同じ血を引く家族を恋愛対象とみなす。先細りして途絶える運命を覆すため、数代前から側妃を娶って子を増やす努力をしてきた。


 俺がその努力を踏み躙ることはできない。トリアが外の男と結婚して子を成し、血を存続させるには……俺は不要だった。懐いてくれる可愛い姪と認識しているうちに、離れてほしい。兄上の言葉に頷き、俺は皇族籍を抜けた。親子ほどの年齢差があるのだ。彼女が成長して美しくなれば、俺の惹かれる気持ちも育ってしまう。


 大神官を目指したのは、いつかトリアの役に立つため。その努力がやっと報われる。嫁いで子を成して戻った可愛い姪は、新たな恋を見つけた。ローヴァイン侯爵クラウスは、文句のつけようがない。


 トリアに愛され、彼女を愛して守る実力を持ち、兄上や義姉上も認めた。俺の恋心は昇華され、親のような心境になりつつある。彼女の前に立ちはだかる敵を排除し、幸せを見守りたかった。


「兄上の決断は正しかった」


 間違わずに済んだことに、俺は心の底から感謝している。神々への信心が生まれ、トリアが無邪気に腕を組もうと強請っても揺れなくなった。ジルヴィアに祝福を与え、化粧を直したトリアに腕を貸す。


 先ほど、彼女が席を外した際にクラウスと話した。トリアに関する話が多かったが、昔の思い出を口にしても懐かしさが込み上げるだけ。求める気持ちはなかった。あの頃の気持ちは、気の迷いだった。そう結論づけ、神々に感謝を捧げる。


 嬉しそうにクラウスに微笑みかけるトリアの姿に、胸は痛まなかった。ただただ幸せを祈る感情が溢れ出る。


 だからこそ、彼女の邪魔をするものは許さない。兄上達も次の策に打って出ると連絡があった。夕食会でどこまで話すか、悩ましく思いながら足を踏み出した。

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― 新着の感想 ―
なんかどちらかと言うと自分が中心でなくていいと拗らせた結果な気も
秘密の恋心…。でも今は、親のような親愛!良いですね!トリアさんの幸せをただ喜べる!そして、恋愛を微笑ましく見守る!最後に邪魔者を全力で排除!素敵です!
滅びたリヒテンシュタット帝国は、現実世界の古代イラン発祥のゾロアスター教や、古代エジプト社会のように、近親婚が一般的だったり推奨されていたのですね! 近親婚による『血の濁り』が発覚するまでは、『純血を…
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