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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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86.王家の正当性が失われた日

 クラウスと逢瀬を重ね、お茶会も頻繁に開く。可愛い娘ジルヴィアと過ごす時間も経て、私達は親子へ近づいていた。穏やかな日々は表面のみで、裏で動く策略はいつでも血(なまぐさ)いもの。


 二人で並んで薔薇を眺める庭へ、エック兄様は報告書を持参した。


「こういう場では控えるものでしょう?」


 私達は逢瀬の最中なのに、と唇を尖らせたら、エック兄様はひらひらと封筒を揺らす。


「あとで怒るのは、トリアではありませんか? 僕は別に構いませんよ」


 そう言われると気になる。目配せし、代わりにクラウスが手を伸ばした。この頃、彼との関係が心地よい。少しの身振りや手振りで、意図を汲み取ってくれる。私を尊重しているのが伝わった。


 そういえば、ガブリエラ様が「かなり前からそなたに惚れている」とか言っていたわね。本当か、直接尋ねたことはないけれど。こうして大切にされている状態から、嘘ではなさそう。


 モーリスも私に乱暴を働いたり、粗略にしたりはしなかった。ただ、執着すれど愛情を感じなかっただけ。政略結婚だから、こんなものと思っていた頃を思い浮かべる。


「どうぞ」


「ありがとう、クラウス」


 受け取った封筒は開封されていた。取り出したのは、一束に綴じた報告書だ。バラけないよう、糸綴じされていた。本のように捲って読むのね。覗き込んだら、クラウスが頬を寄せた。


「エック兄様はそちらにお座りになって。クラウスも読むなら広げるわ」


 運ばれた椅子を兄に勧め、報告書は膝の上で開いた。二人が覗き込めば、自然と距離が近くなる。触れる髪が擽ったく、口元が緩んだ。


「やれやれ、僕はお邪魔なようですね」


「そこにいらして!」


 同じ言葉を重ね、気恥ずかしさを誤魔化す。エック兄様は肩を竦め、私達のベンチに並ぶ位置で空を見上げた。たまには日に当たって、ゆっくりなさったほうがいいわ。いつも難しい顔で書類と睨めっこ、婚約者のライフアイゼン公爵令嬢にも叱られたばかりでしょうに。


 報告書には、先日のアディソン王国の顛末が記されていた。


 一人で逃走を図ったアディソン王は、国境付近でフォルト兄様達と遭遇。捕獲した後、民に引き渡された。怒り狂う民の投げる石を浴びながら投獄された。


 先に捕縛された王姉は投獄中だが、民による処刑待ちだ。王子二人は自害して果てた。毒を隠し持っており、牢内で服毒したと記録している。まあ妥当なところかしらね。


「どこへ逃したの?」


「先代の王妃殿の屋敷だな。先先代の実家と聞くが、少しばかり手を入れた」


 最低限生活できる程度の修復や生活費の援助ね。今回のお礼だけれど、彼女はそのままでは受け取らなかった。だから、王子二人の監視目的で与える。孫と生活できる上、生活に困窮せず済むわ。セットにすれば、辞退される恐れはない。


「残していいの?」


 禍根の種になる。亡国の王子など、帝国の将来に影を落とすのでは? 含みを持たせた問いに、エック兄様は肩を竦めた。


「予想外の収穫がありました。あの子らにアディソン王家の血は流れておりません」


「あら」


 驚いた。クラウスも顔を上げて目を見開く。彼はどちらの意味で驚いたのか。


「まさか、もうご存知だったとは……手土産が消えてしまいましたね」


 へにゃりと眉尻を下げたクラウスが説明を担当した。アディソン王家の二代前の王は、子種がない。いくら注いでも、子はできなかった。王家が絶える心配をした当時の宰相により、傍流の公爵家が己の子を差し出す。養子ではなく実子として、神殿を欺いた。


 この時点で直系は絶えていたの。公爵子息が王を名乗ったのが、先代だった。彼は親が違うため、王女と王子を妃に授け、愛人にモーリスを産ませる。すでに喜劇ね。


「では……守る血筋などなかったと? 民には腹立たしいこと」


 その言葉通り、真実を神殿から知らされた民は、王や王姉を許さなかった。

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― 新着の感想 ―
まあこれは仕方ないでしょう。不妊の男が一定数生まれるのだからどんな王朝だって直系は途切れるもの。どこの国にもあることだと思う。日本だってはっきり皇室のものと判明している古墳の調査はさせないですしね。
公爵から王だと血筋がだいぶ薄いしなあ
なんとまあ!昔から、皆を欺いたり騙したり…腐ってますね。ヤレヤレです。 執着と愛情は別物って事ですね!今はしっかり愛されてて良かった!
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