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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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80.愚者の逃走劇 ***SIDEアディソン王

 なぜだ? どこで失敗した! 叫びたい気持ちを押し込んで隠れる。自分の城なのに、人目を忍んで逃げ回る無様に体が震えた。怒りと激しい恐怖、八つ当たりすら難しい状況だ。


 周囲を警戒しながら、騎士が誘導する。アディソン王家に伝わる避難路は、直系のみに伝えられた。ここへ逃げ込めば、城を襲う国民に遭遇する心配はない。地下の水路を通り、城の裏手にある石造りの古い遺跡に出るだろう。


 リヒテンシュタット帝国が存在した頃の、古い神殿跡だ。今は使用しておらず、神殿も民も見向きもしない。倒壊の危険があるとして、立ち入り禁止の措置が取られた。実際には、城の緊急出口として管理されている。突き当たりの壁に掛かる肖像画の裏から、急いで脱出した。


 騎士が三人、姉と子供達……俺を含めても両手の指に満たない。人数が多いほど、発見される危険が高まる。召し上げた妾もすべて置いてきた。宰相には足止めを命じたが、本来は騎士団長である異母弟の仕事だ。あのバカは、大切な帝国の人質に逃げられただけでなく、自らも行方不明となった。


 そうだ、アイツが悪い。あのバカがきちんと役目を果たしておれば、俺が逃げるような事態にならなかった。国民だって大人しくしていたはず。口の中で罵りながら、出入り口で安全を確認した騎士に続く。


「はぁ、やっと城を出たのね」


 靴で擦れた踵が痛いと嘆く姉を横目に、かつて神像が座した台に腰掛ける。石造りのため冷たいが、数日は我慢だった。ここからデーンズ王国の支配地域まで、三日程度かかる。馬が必要だな。


 息子達は怯え切っており、身を寄せて震える。覚悟も誇りもないが、これでも血の繋がる我が子だった。見捨てていけば、他国に利用されるだろう。どうしても足手纏いになれば、処分すればいい。王である俺が生きていれば、国も王家も復活できる。


 ふと、物音が聞こえた。騎士が剣の柄に手を触れる。だが抜かずに耳を澄ませた。小さな物音は徐々に大きくなり、人の足音や声であると知れる。問題は……その声が我々を探す響きだったこと。


「なぜだ、どうしてバレた? ここを知っているのは……王家の! 誰が裏切ったのだ」


「陛下、詮索は後にしましょう。脱出のため、我々が囮になります」


「いや、待て」


 囮として騎士三人を置いて、女子供を連れた俺が逃げ切れるか? それくらいなら、女子供を捨てた方がマシだ。俺の身を守る奴が絶対に必要だった。体力バカの異母弟と違い、俺の剣術は最低レベルだ。生き残るためには……。


「我々で追っ手を引きつけるから、ここに隠れていろ」


「陛下……っ」


「心配するな、王太子も一緒だ、見捨てたりせぬ」


 言い聞かせ、騎士と共に足早に離れた。そのまま止まらない俺に不思議そうな顔をする騎士もいたが、命令に服従するのが彼らの習性だ。ぐるりとまわり込んだ先で、放牧した馬を確保する。


「いくぞ」


「で、ですが……殿下を」


「王は俺だ」


 困惑した顔の騎士に護衛を命じ、馬に跨る。馬具はないため、タテガミを手綱代わりに握った。迷う騎士の一人を残し、二人を従えて走り出す。先ほどの遺跡がある方角で声が上がった。叫び声と怒号、残った一人の騎士が駆け戻る。バカな男だ。あれらを助けようにも、多勢に無勢なのは明白だろう。


 馬を走らせた先で、丘を越えると……そこには大人数の兵が配備されていた。


「点灯!」


 号令に合わせ、一斉に松明に火が灯る。赤々と夜空を照らす光に、全身から力が抜けた。兵士の装備を見ればわかる。あれはリヒター帝国の軍だ。単騎が進み出て、大声を張り上げた。


「王が国を捨てれば、すなわち滅びと同じ。恥を知れ!」


 護衛の騎士二人は、さっさと剣帯を外して馬を降りる。投降すると示す彼らの裏切りを前に、俺はまだ逃げ道を探していた。そんなもの、あるはずないのにな。

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― 新着の感想 ―
お話が佳境に入ってきたようでいつも更新を楽しみにしています。 少し気になる点がありこちらに書き込みさせて頂きました。 『77.仕事を終えたら…』では、アディソン王が城から逃げ延びた後に小神殿の侯爵家…
愚王は最後まで愚王でしたね〜 國王はその責を負って首を捧げ、将来の為に血筋を繋ぐなら皇太子を逃すのがまともな王族でしょうにw 儒に染まり切った中華では、『宛城の戦い』で父、曹孟徳を生きて逃す為に、自分…
 王の器ですらなかったな。
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