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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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79.かなり入り込まれたみたいね

 クラウスの指示を受けた若者が一礼して下がる。私達は確保した木陰で昼食を頂いた。持ってきたバスケットに冷やすための氷が入っている。


「重かったでしょう、エリーゼ。護衛に持たせたらよかったのに」


「いいえ、お嬢様のお食事を、誰かの手に委ねることはできません」


 この忠義があるから、この子は貴重なの。以前も皇族だからではなく、私だから仕えると言い切った。過去の恩なんて忘れていいと、何度も話したのにね。それでも、私はエリーゼを多少なり信頼している。少なくとも、家族の下に置くくらいには……。


「ありがとう、遠慮なくいただくわ」


「これは、せっかくですので砕いて、飲み物を冷やすのに使いましょう」


 慣れた様子で、クラウスが氷を割っていく。護衛の一人が驚いた顔をして、表情を引き締めた。短剣の使い手である私から見ても、クラウスの手捌きは見事だわ。腕に自信ありそうね。


「エリーゼ、皆に振る舞って」


「畏まりました」


 さすがに鎧ではないけれど、革製の胸当てなどを装備している。護衛のほうが私達より暑いはずよ。訓練で慣れているとはいえ、冷たい飲み物が余っているなら飲んだほうがいい。私を守る前に倒れられても困るもの。


 丁寧に礼を言って口にする護衛達に囲まれながら、正面に広がる池を眺めた。恋人達がボート遊びをする水辺は、涼しい風が吹いている。硬いバゲットに切れ目を入れ、ハムやチーズを挟んだ昼食は、するすると消えた。


 クラウスの食べる量に驚くわ。薄く切ってもらい口に入れる私の三倍くらいの速さで食べていく。護衛にも同様に昼食が振る舞われた。と言っても、彼ら自身が運んだのだけれど。給仕で忙しいエリーゼは、果物を剥き始めた。


「ご用意できました」


 お礼を言って摘まむ。その間に、エリーゼも簡単な食事を済ませた。残った氷は砕いて撒き、食器をバスケットに収納する。かなり軽くなったと思う。移動しようとしたところへ、先ほどクラウスがお使いに出した若者が帰ってきた。


 従僕と呼んでいいのかしら。どちらかといえば、貴族の侍従より専門職の文官のような印象なのよ。一礼してから、袖口に隠した封筒を手渡す。胸元に覗いている紙束は、囮? それとも別の用途があるかも。気になって眺めていたら、クラウスに呼ばれた。


「ヴィクトーリア様、先ほどの襲撃の犯人が判明しました」


「仕事が早いのね」


「はい。アディソン王国出身の男爵家三男で、現在は商家の一人娘の婚約者です」


 足元は掃除したはずと思っていたから、アディソン王国の関係者と聞いて納得する。神殿も叔父様が大掃除をしたから、不穏分子は国内にいないはずだった。私もひと暴れしたことですし……そう、アディソンの……。


「楽しそうですね」


 自然と口元が緩んだみたい。唇を引いて、笑みを深めた。軽く首を傾けて、その先を待つ。


「商家の取引先が大きく変化していました。どうやら乗っ取られる寸前だったようです。不思議なことに、現当主が寝込んでいます」


「不幸なことね」


「はい、原因を取り除いて白い部分を残すか。根から絶やす方法もありますが、今回は恩を売るほうが利がありそうです」


 聞けば、宝石ではなく鉄鉱石を扱う商家らしい。他にも火薬などに明るい。ならば残して、今後のために活用すべきだ。クラウスの言い分に頷きながら、あの平民の女性を思い浮かべた。恋人の突然の行動に、驚いて固まっていた。


「一人娘なら、新しい婚約者が必要ね」


 忠義に厚く国を裏切らない男を用意したら、どうかしら。


「姫様がお望みならば、どのようにしても叶えましょう」


 舞台俳優のように戯けた口調で、真剣な眼差しが注がれる。差し出された手を受けて立ち上がり、私は上を見上げた。木漏れ日が降り注ぐ心地よさに目を細める。


「言わずとも承知しております」


 国内に入り込んだ他国の勢力を、洗い出します。約束するクラウスに微笑みかけた。腕を組むよう促し、少し奥にある花畑に足を伸ばす。こんな穏やかな日々は、しばらくお預けになりそうだわ。今日ぐらい、目一杯楽しみましょう。

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― 新着の感想 ―
 やっぱ、花(宝石)より団子(実弾)! まさに質実剛健で、トリア様、カッコよ〜 素敵です♢  バブルに踊らされ宵越しの金を持てない私(散財お婆)も、質素倹約は苦手… 無理… 笑〜
また、あの国関係者か!。 商家の娘さん可哀想・・・。
利用された女性はお邪魔虫の婚約者!?でも、この後彼女は幸せになれそうですね!将来、忠義に厚く国を裏切らない!婚約者が出来そうだしw
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