表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/102

07.あれらは私の獲物ですわ

 当初の予定だった守り袋は、受け取らなかった。婚姻届の状況がわかった上でなら、問題ないわ。でも今はまだ早い。そう判断した。


 馬車で屋敷に戻り、執事を呼びつける。彼に問い質したが、何も知らなかった。ならば、夫の独断なの? いえ、そもそも夫ではなかったわ。なんと呼べばいいか迷い、しばらく公爵と呼ぶことにした。


 公爵が婚姻届を出さない理由に、思い当たる節はないわ。この婚姻は、アディソン王国側から持ちかけられたものよ。国境関連で騒動が起き、戦に発展する手前で申し入れがあった。私も納得しての輿入れだったのだけれど。


 リヒター帝国は三人の兄が、それぞれに役割を分担して支えている。カリスマ性で人を纏める長兄ルートヴィッヒ、賢く頭脳戦に長けた次兄エッケハルト、武力に特化した戦上手の末兄フォルクハルト。兄様達が守る国を、私も守りたかった。


 政略結婚ではあるが、王族の血を引く貴族との婚姻よ。スチュアート伯爵モーリスは、先代王の庶子だった。認知はされたが、前王妃の嫉妬が激しく公爵の地位は与えられなかった。侯爵でも納得せず、仕方なくぎりぎり高位貴族に分類される、伯爵の地位を与えた経緯がある。


 不遇な状況に腐らず、精進して実力で騎士団長に登り詰めた有望株。事前情報を信じて結婚したのに、まさか婚姻届が受理されていないだなんて。想像もしなかった。そもそも情報自体が間違っていた可能性もある。帝国貴族の情報だから、と信じたのがいけなかったかしら。


 モーリスは私との婚姻で戦を防いだ功績により、公爵に陞爵した。リヒター帝国の皇女を娶るなら、伯爵のままでは拙いと王家が判断した結果よ。それぞれの国で盛大な結婚式を挙げ、周囲も私を公爵夫人として認めていた。


 それなのに公的な書類一枚が、私を私生児を産んだ未婚の母に貶めたの。






「お茶を飲め。一度に話すと辛いだろう」


 気遣うルヴィ兄様に頷き、新しく用意されたカップに口を付ける。お茶の種類を変えたのね。


「このお茶、私の好きな花茶ね」


「ああ、白にしたぞ」


 こういう気遣いはルヴィ兄様らしいわ。私の好きなお茶を急遽取り寄せてくれたのだろう。香りを楽しみ、淡い色を堪能しながらもう一口。ほっとするわ。


「一番最初にすべきは、あれだろ。イングリットの守り袋の手配だ!」


 どうだと胸を張るフォルト兄様は、相変わらず考えるのが苦手ね。でも今回は正しい答えだと思う。


「そうね……イングリットの守り袋は必須だわ。急いで手に入れましょう」


「状況確認は手配済み、報復はじっくり、ゆっくり、真綿で首を絞めるように行うのが僕の流儀ですから」


 意地悪く笑うエック兄様の顔は、暗い影が差して恐ろしい。でも私は頼もしく思えた。兄様達に任せて、叶わないことなどない。いつだって私を大切に守り、優先してくれたから。でもね、今回はダメよ。


「エック兄様、じっくり絞めるのは賛成しますわ。でも獲物を譲る気はありませんの」


 私の獲物です。穏やかな口調で伝えたのに、なぜか兄三人は青ざめた。嫌ですわ、淑女の微笑みに対して失礼でしょう?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ひとつ気になった用語が。 「うっそりと笑うエック兄様の顔は…」とありますが、「うっそり」とは「ぼんやりとしている様、うっかりしている様、またその様な人」をさします。「うっそり」を言い換えると、「ぼんや…
>リヒター帝国は三人の兄が、それぞれに役割を分担して支えている。カリスマ性で人を纏める長兄ルートヴィッヒ、賢く頭脳戦に長けた次兄エッケハルト、武力に特化した戦上手の末兄フォルクハルト。… >政略結婚…
順当なのは戦争までの時間稼ぎと油断を誘う為に偽装結婚をしたのかな? 2年も籍が入ってないのは言い訳できんよね。今回は娘の手続きを自分でしたから気づけたけど、出生の時とか戸籍が必要な時はたくさんあったや…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ