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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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60.愚かな選択の末路 ***SIDEアルホフ王

 一つ減った軍事同盟の当事者が顔を合わせた。我がアルホフ王国とデーンズ王国の間にある森、小さな砦で行われる。なぜか神殿関係者も顔を出した。神官だろうが、顔を隠している。


 我が国の神官は、大神官の補佐をする男だった。名前をなんと言ったか。あとで調べさせておこう。詳細に報告すれば、我が国の安全が担保される。宰相のラウエンシュタイン大公が、そう約束した。


 すでに失敗している以上、これ以上の失態は許されない。彼らに背けば、リヒター帝国はすぐに軍を動かすはずだ。エーデルシュタイン元帥に攻め立てられたら、防衛ラインなどすぐに突破される。


 これが最後のチャンスだった。国が存続するか、子孫が生き延びられるかどうか。


「どうした? 具合でも悪いのか」


 デーンズ王に話しかけられ、ゆっくり深呼吸する。ラウエンシュタイン宰相が命じたのは、一つだけ。不安の種を蒔くことだった。気取られないよう、落ち着いた声で切り出す。


「リヒター帝国の宰相から、問い合わせがあった。軍事同盟を嗅ぎつけたようだ」


 これで参加の目的は果たした。そのことで頭を悩ませたように振る舞い、ざわつく男達の様子を窺う。正面に立つのは、話しかけてきたデーンズ王だ。その隣にデーンズの神官、アディソンの神官、離れた場所に事務官が数人。


 俯いて動かないのは、アディソンの王太子だった。今回は王が国を離れられないと、代理を寄越した。一番余裕がないのは、アディソン王国で間違いないな。これも報告情報に付け加えよう。


 ふと耳に飛び込んだ話が気になった。


「大神官が不在ゆえ、その件は任せよう」


「承知いたしました」


 アルホフの大神官が頭を下げる。命じたのはデーンズ王だ。妙な言葉が聞こえた。大神官が不在? ならば、ここに来ている神官は、誰が送り込んだ? アディソンも大神官ではない。軍事同盟の締結時に顔を合わせた。見間違えるはずはない。


「大神官が不在、だと? 何かあったのか」


「いや……従弟なのだが、どうやら行方不明らしくてな」


「そんなことがあるのか」


 デーンズ王は言葉を濁した。伝えられない何かがある。つまり、秘密裏に処理した? 大神官に何か不手際があったか、それとも王位でも狙った? いや、大神官となれば還俗は不可能に近い。この情報を持ち帰れば、リヒター帝国の俺に対する心象が一変するはず。


「大神官といえど、人ですので。不幸が起きる可能性は否定致しません」


 庇うような発言をした大神官は、アルホフの調和と夜を司る神殿を治める。名はジーモン、他国の貴族出身と聞くが……詳細は気にしたことがなかった。親しげに振る舞う様子から、デーンズ王国出身の可能性に思い至る。


 軍事同盟を持ちかけてきたのも、この男だった。下話をしたあと、デーンズ国王と引き合わせる。あの時はリヒター帝国を脅威に感じていたため、迂闊にも簡単に信じたが……。いま思えば不自然な点が多かった。


「なるほど。では、アディソン王国はどうしたのだ? 王太子殿の様子はおかしいし、神官も前回と違うようだが」


 少しだけ欲が出た。こんな機会はもう巡ってこないだろう。だから、多くの情報を手に入れたい。我がアルホフ王国が生き残るために、必要だった。他国に誘導され騙されたのなら、その証拠があれば帝国に許されるかもしれない。


 様々な思惑で目が曇ったのは……切羽詰まっていたから。鋭い視線を向けられ、焦りから言葉を紡ぐ。それらがさらに危険を呼び込む。だが、まだ慢心していた部分がある。


 一国の王に手を出せるはずがない、戦争になるぞ――。雨の中、帰りの馬車が襲撃され、護衛がすべて倒された。引きずり出され、泥の中に這い蹲る。懇願する声より早く、喉に剣が刺さる。どくどくと流れる命が、赤く視界を彩った。


 死体を獣に食わせろ……そんな声が聞こえ、意識が薄れていく。そうか、殺害の証拠がなければ……王の暗殺にはならない、のか。死体すら残してやれず、国の行方も危うい。


 すまなかった、我が子や孫に詫びる言葉は、雨の音にかき消された。

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― 新着の感想 ―
アルホフ王の最後は神殿を敵にした者の末路に相応しいものでしたね! これ、アルホフ王以外の身の程知らずは既に処分がなされていてもおかしくはないですね♪
余計な欲を出さなければ、生きられたかもしれないのに…。ドンマイ!
血生臭い末路。裏切り者に相応しい( ´・_ゝ・) 小人振動パックは猫作者さんの毛並みで埋もれてます。
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