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06.神殿は嘘をつかない

 先触れを受けた神殿は、大神官を含め十数人で出迎えた。結婚式の際の寄進は、かなり弾んだもの。侍従が四人で支える大きな傘を使い、神殿内まで歩いた。


 我が娘イングリットの守り袋を受け取りたい。事前に頼んでいたため、守り袋はすぐに運ばれた。夫が受け取ると約束したものの、仕事に追われて忙しい。それなら私が受け取ればいいと考えた。


 待つ間に九柱の神々に拝礼する。一柱ずつ丁寧に頭を下げ、最後に女神像に花を捧げた。神殿で私が行う、いつもの手順だ。


「お待たせいたしました、ご令嬢の守り袋でございます。受け取りの署名をこちらへ」


 王族から平民まで。子が生まれれば、名を記帳して神々に感謝を捧げる。神殿の守り袋を授かり、我が子へ渡すのが慣例だった。受け取り欄に署名するためにペンを手に取り、動きが止まる。


 フルネームで書かれたイングリットの家名が、リヒテンシュタインになっていた。まだ受け取る前に気づいてよかった。そう思いながら、間違っていると指摘する。


「修正していただけます? 家名がリヒテンシュタインになっていますもの」


 驚いた顔をした大神官は、間違いを確認する。提出された申請書類に目を通し、ゆっくり首を振った。


「申請書通りに記載しております」


「……あら?」


 ここで私は疑問を口に出した。アディソン王国と友交を結ぶため、リヒター帝国から嫁いでいる。結婚式もこの神殿で行ったわ。兄達に花嫁衣装を見せるため、リヒター帝国の神殿でも式を挙げたけれど。嫁ぐ先が隣国なので、アディソン王国で婚姻届を出したはず。


 説明された大神官は目を見開き、大急ぎで調査を指示した。神殿は国を跨いで繋がっている。他国への確認は時間がかかるが、自国のそれも己が所属する神殿で行われた結婚式の記録は、すぐに出てきた。


 結婚式の記録は正しい。ただ、婚姻届はどこにもなかった。書類上、アディソン王国の騎士団長スチュアート公爵は、独身だ。もちろん、公爵夫人である私も……。


「この件は他言無用にお願いしますわ。行き違いがあったようですの」


 侍女エリーゼに指示して、持参した大量の金貨を積み上げる。本来は守り袋の御礼にするつもりだった。口止め料に変更して、神官へ差し出す。無言で、重々しく頷くも……彼らの視線は金貨の山に釘付けだった。




 どん! 乱暴に肘掛けを叩く長兄に、私は驚いた。普段はこのような無作法を行う人ではないのに。


「なんという! 無礼では収まらぬ!!」


 ルヴィ兄様の拳がぶるぶると震える。宰相であるエック兄様の手元で、ぱきんと不吉な音がした。どうやらカップの持ち手が折れたみたい。


「あり得ない……トリアを娶りたいと申し出たのは、向こうだぞ?」


 呆然と呟くフォルト兄様の拳が、赤く染まる。


「フォルト兄様、手が!」


「あ……ああ、爪が割れただけだ」


 立ち上がって、末兄の傷ついた手を広げた。屈んでハンカチを巻く。じわりと滲む赤に、溜め息が漏れた。怒ってくれるのは、愛されている証拠。嬉しいけれど、痛いのはダメよ。


「落ち着いて聞いてくださいね。怒るのは最後です」


 椅子に腰掛け、やや冷めたお茶をゆっくり流し込む。続きを説明するために、私は再び口を開いた。

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主人公がハッピーエンド確定だから安心して読んでます。が!結婚詐欺!?未婚で子供を作った!?国同士の友好を蔑ろに!!愚かしい男へのザマアを期待してます!もし、複数いるなら全員ボロボロにしてほしいです!物…
うわあ。馬鹿って底がないんかな?この結婚詐欺、度が過ぎる。娘ちゃんが知ったら?とか、考えないんかね。ともかくも、ざまあ待ってます!
王命での結婚でこんなことしでかす理由が分からない。 なんか国も関わってるのかも?って部分もあったような気もするけどあれは主人公側の目線なのであいまいだから何とも言えないけど… まさか本当に真実の愛症候…
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