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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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55.騙して転び裏切られ ***SIDEディーター

 持てるだけの金銀をかき集め、袋に詰め込んだ。逃げなければならない。そのためには資金が必要だった。金貨を入れた袋の隣に宝石箱を積み、身につけられるだけの指輪や首飾りを重ねる。持ち上げようとして、あまりの重さに諦めた。


 神官の誰かを使うか、神殿騎士を買収するべきだろう。子飼いの神殿騎士を二人呼び寄せ、密かに運び出すよう指示する。自分でも持てるだけ抱えて、用意した馬車に乗った。護衛として雇った神殿騎士二人が騎乗し、随行する。


「っ、まさか失敗するとは」


 声が漏れた。噛み締めていた口が緩めば、次々と不満が噴き出す。話を持ちかけたのはアルホフ王国の神殿だった。大神官の序列をひっくり返す案がある、と。帝国が頂点となった形はおかしい、彼はそう口にした。


 祖国デーンズ王国の大神官の地位を買収したが、それでも満足できなかった。王宮での権力争いに敗れたのは、事実だ。だが新天地として求めた神殿で、登り詰めても……まだ上がいた。


 リヒター帝国の皇女の血を取り入れ、アディソン王国から吾子を奪う。直系の血を引く吾子が手に入れば、アディソン王国を潰すつもりだった。それで証拠は隠滅できる。帝国に滅ぼさせても構わない。


 アルホフ王国の大神官ヘルムートの案は、なかなか良くできていた。策略は途中まで問題なく進んだが、なぜか皇女……いや、皇妹となったヴィクトーリアが帰国する。ここから狂い始めた。


 カモフラージュとして利用するため結ばせた軍事同盟に、綻びが生じる。ブリュート王国があっさりと陥落したのだ。軍事同盟を結んだのが、仇となった。元帥エーデルシュタインが先陣切って飛び込むと予想したのに、彼は動かなかった。


 外交ルートを閉じ、食糧の輸出量を絞り……搦手で落とされたのだ。ブリュートの国民は、王族を引き摺り下ろした。我々は軍事進攻がなかったため、動けずに指を咥えて見ているだけ。気づけば、リヒター帝国の属国が一つ増えた結果に終わる。


 今度こそ……そう思ったが、アルホフ王国の王は帝国に恭順の意を示した。これでは軍事同盟が機能しない。アルホフの大神官ヘルムートの策は、(ことごと)く裏目に出た。こうなれば、逃げるしかあるまい。デーンズ王は、わしを疑っている。


 玉座を狙い、罠にかけようとしたのか、と。そんなはずがないだろう。大神官となった身で、還俗は叶わない。ただの神職とは違うのだ。言い訳と受け取ったのか、従兄の視線は冷たかった。


 これ以上は危険だ。神殿内にも、わしの命令に疑問を持つ神官が出てきた。こうなれば道連れと思い、リヒター帝国皇弟だった大神官ウルリヒに毒を盛る。花茶を好むと聞き、華やかな缶で用意させた。


 毒を運んだ神官から、飲んで効いたと連絡があり……途絶えた。リヒター帝国に慌てふためく様子はなく、淡々とアルホフ王国への締め付けを強めていく。毒で死んだのではないのか? 生きているとしたら……。


 恐怖が足元から這い上がってくる。報復される! その前に逃げるべきだ。従兄王にも何も言わず、金目の物を積んで走らせる馬車が止まる。


「おい! 何をして……っ!」


 内鍵を開けた扉から叫んだわしは、熱さと衝撃に声を詰まらせた。護衛として雇った子飼いの二人が、剣を抜いている。だが敵は見当たらず、交戦状態でもなかった。


「……なに、が」


 問う声から力が抜け、続いて膝が崩れる。と、腹部に激痛が走った。へたり込んだことで体勢が変わり、突き刺さった刃が腹を裂く。熱さが痛みへと変換され、呻き声が漏れた。


「悪いな、あんたを始末したら……全部俺らの手柄になる。国王陛下が雇ってくれるとさ」


「死者に装飾品は要らねえな」


 もう一人が剣を振るった。指を落とされ、血塗れの指輪を拾う男の浅ましい姿が目に映る。咎める口は動かず、ただ浅く息を繰り返した。にやりと笑った男達は首へ剣先を向ける。


「お疲れさん、あんたはここで終わりだ。ディーター大神官様」


 首飾りを奪うため、首を落とされるのか。急におかしくなって、大笑いした。いや、そのつもりだったが……首が落ちるほうが早かったかもしれんな。

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― 新着の感想 ―
ゲス同士のなんて醜悪さか。(´-ω-`)小人は証拠のダイヤモンドを懐に入れて離れます。これを献上して証拠もバッチリとなるはず!!なんと!?小人に気付いて追い掛けて来た!?喰らえ、小人黒唐辛子スプレー!…
裏切られてやんの、ザマア!情けない最期ですね!w人望って大事!
唆しの元凶アルホフの大神官、この人だけはディーターと違って楽に死ねないですね(笑) 元皇族のウルリヒ叔父様は序列関係なしに一番怒らせたらダメな人。仮にも帝国の前皇弟ってことを考えたらねぇ? それにして…
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